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コロナ禍で撮影、公開の豊田利晃監督最新作『破壊の日』に込めた怒りと祈り

 2020年7月24日、本来なら東京オリンピックの開会式が行われるはずだった今日は、全国で一斉に花火が打ち上げられ、新聞の一面広告に白血病で治療中の池江璃花子選手を使った来年開催への広告が出されていた。そんなこの日に狙いを定め、クラウドファンディングをしながら新作『破壊の日』制作準備をしていたのが、豊田利晃監督だった。

 豊田監督といえば、4月に起きた銃刀法違反容疑による逮捕および不起訴、その後のネットやマスコミによるバッシングと不条理を体験したものの、そこからわずか2ヶ月で16分の短編『狼煙が呼ぶ』を完成させている。令和やオリンピックに浮かれる一方、ネットでは個人攻撃をする現代日本に対する豊田監督のアンサーのような映画を持って、全国のミニシアターに直接交渉し、上映館には全国行脚で舞台挨拶を精力的に行ったのだ。

 この『狼煙が呼ぶ』の音楽、出演でインパクトを残した切腹ピストルズをはじめ、GEZANなどの音楽が、魂の叫びのように鳴り響く『破壊の日』。映画では都知事選只中の渋谷交差点も登場し、マスク姿の人が行き交う中、非常に印象的なシーンになっている。元々は、経済優先でオリンピックを強行することへの怒りの方が大きかったのではないかと思うが、それと同時に疫病退散や不安で先が見えない中、未来を見つめての祈りの気持ちが作品から伝わってくる。久々に映画館で爆音を浴び、ちょっと厄払いをしたような気分にもなれる豊田利晃監督の渾身作。渋川清彦、マヒトゥ・ザ・ピーポー、イッセー尾形、窪塚洋介、松田龍平、長澤樹、大西信満、飯田団紅(切腹ピストルズ)ら出演者の気合いも十分の60分は、コロナ禍の表現とは思えない強さと自然さがあった。多分、緊急事態宣言解除後に撮影した作品が劇場公開されるのは、『破壊の日』が初めてなのではないか。このスピード感で上映にこぎつけることができたのも、昨年『狼煙が呼ぶ』で自ら全国のミニシアターとパイプを作ったからできたことだろう。公開初日、特別に舞台挨拶がわりの挨拶映像もつき、豊田監督はじめとするメインキャストの思いを聞いてから、映画を観ることができたのも、作り手の熱意がダイレクトに感じられてよかった。今、観るというより、まさに全身で浴びたい作品だ。


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