ミニシアターからシネコンへ。必見韓国映画『はちどり』前日譚の短編『The Recorder Exam』
東京の新型コロナ感染者が1日で286人という目を見張るような数字に、この上まだGo Toキャンペーンを全面見直ししないのが恐ろしくて仕方がない。さて、今ミニシアターで満席が続出している韓国映画『はちどり』。コロナの影響で来日は叶わなかったが、何事もなければ、本作のキム・ボラ監督は、今年の春開催した大阪アジアン映画祭にて来日、国際審査員を務める予定だった。もともと世界の映画祭で高い評価を得ていた『はちどり』、宣伝文句は「『息もできない』を凌ぐ」とセンセーショナルなものだったが、作品は非常にパーソナルかつ、誰もが共感できるような思春期の生きづらさ、家族の中での居心地の悪さ、そして韓国の歴史に残る1994年に起きた、ソウルのソンス大橋崩落事故の記憶も、大事な人を失った痛みと共に刻み込まれている。日常の細かなディテールを丁寧に、そしてリアルに描くからこそ、嘘のない感情の爆発が胸に刺さるのだ。
4月公開予定だった『はちどり』は劇場の臨時休館により公開延期を余儀なくされたが、劇場の営業再開後早々から公開が始まった本作が、観客の心を掴み、評判が高まると、ミニシアターから出発した『カメラを止めるな!』がシネコンでかかるようになり、大ヒットを記録したのと同じように、配給会社のGAGAが宣伝協力をし、シネコンでも『はちどり』の上映が決定した。アニメーション映画『音楽』もミニシアターからシネコンの流れだが、『はちどり』はそれを凌ぐ規模だ。邦画の新作がなかなか上映されない今、韓国映画の常識を覆すような実力派新人の秀作をぜひ楽しんでほしい。
そして、それを楽しむ前に、その前日譚となる2011年の短編『The Recorder Exam』(リコーダーテスト)をご覧いただければ、作品の世界観がより身近になると思う。これは海外の映画配信サイト「mubi」が期間限定で無料配信しているもので、アカウントを作らなくてもFacebookと連携させればすぐに観ることができる(英語字幕)。1988年韓国、ソウルオリンピックで湧く中、9歳のウニは、学校のリコーダーテストに向けて過ごす日々。兄は勉強ができ、家族でも優遇されるのをいいことにウニに偉そうな態度でいじめ、姉はボーイフレンドと好き放題。夫婦でキムチ屋を営むウニの両親は忙しくて、なかなかウニのことを見てくれない。リコーダーの練習をしたくてもお下がりなので、音が汚くて練習する気にもなれない。そんなウニが頼りにしているのは、キムチ屋の娘だからと嫌がることなく、自分にフラットに接してくれるアッパークラスのクラスメイトだけだった。ソウルオリンピックの開催で国際的な地位も上昇した時代であり、競争社会に舵を切り、アッパークラスも誕生した時代の韓国の情景を盛り込みながらも、核となるのは、周りの目配りがないがために、叫び出したくなるような孤独感を抱えたウニの心の動きなのだ。こういう映画を撮れる人が、もっと日本でも現れてほしいなと思うほど、30分の短編にキム・ボラ監督の豊かで繊細な描写力に惚れ込んでしまった。セリフは少なく、簡単な英語なので、ぜひ、トライしてみてください!