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ギンレイLOVE-4 極限状態に試される人間性。何を守る? 「モガディシュ 脱出までの14日間」

「モガディシュ 脱出までの14日間」
監督 リュ・スンワン

CAST

韓国サイド
大使ハン・シンソン = キム・ユンソク
参事官カン・テジン = チョ・インソン
大使夫人キム・ミョンヒ = キム・ソジン
書記官コン・スチョル = チョン・マンシク
北朝鮮サイド
大使リム・ヨンス = ホ・ジュノ
参事官テジュンギ = ク・ギョファン

introduction

本作は、韓国でも今まであまり知られることのなかった1990年ソマリア内戦から辛うじて国外脱出できた韓国と北朝鮮両国大使のストーリー。実話を基にした社会派の韓国映画には、いくつもの名作がありますが、これは人間ドラマとしてもエンターテイメントとしても出色の出来。
ソマリアの歴史を背景に、北朝鮮と韓国の構図が大きく重なり、しかも迫力あるアクションとスリル、適度なユーモアをも含むスケールの大きな人間ドラマ。韓国で2021年大ヒットして各賞を総なめにしたのも納得です。

Story

国連加盟国入りを目指し、韓国と北朝鮮の両国大使によるロビー活動が熾烈に繰り広げられていた1990年のソマリア。打倒ソマリア政府を掲げ本格的に暴れ出した反乱軍によって内戦状態となり、首都モガディシュの街も大混乱に陥る。駐ソマリア大使館も攻撃目標となり、逃げ出した北朝鮮大使たちは中国大使館までたどり着くが、すでにそこも炎に包まれていた。女性や子どもを含む一行は彷徨ったあげく、それまでライバルだった韓国大使館の門前において命乞いをすべきか、迫り来る反乱軍の銃声を背に判断を迫られる。韓国大使館の中の大使たちも開門すべきかいなか逡巡していた。それはこれから始まる国外脱出劇の始まりだった。

導入部からテンポ良く、映画的快楽を堪能。

美しい空撮から入り空港の熱気と、流れるように移り変わる画面(モロッコで撮影されたということだが)は映画的な快楽に溢れている。続く韓国大使が大統領に面会するために急ぐ途中で暴漢に教われる場面まで一気にテンポ良く見せてくれて、導入部として説明的でなく状況を理解させてくれる。
映画全体のテンポ感、そして緩急のつけ方など完成度の高い脚本で、緊張感が途切れる事なく最後まで見せてくれる。

内戦の再現性!リアル過ぎてひたすら怖い。悪夢です。

本作においてあまりにソマリア内戦の再現性が際立っていて、その地に自分がいるような恐怖を覚えるほど。
暴力的で残虐な場面は見たくないという方も多いと思いますが、その映画がフィクションか、実話ベースの社会派の作品なのかによって、そんな場面の見方って変わってきませんか。たとえば戦時を描いた映画の中の原爆投下後の人々。普通だったら目を背けたくなる惨い映像であっても、フィクションの場合と違って「これは歴史なんだ。知らなくてはいけない」という思いが先行します。役者が演技していることは分かっていても、その向こうに実際にあった歴史的事実が重なってイメージされるのです。
特に恐怖を感じたのは、反乱軍の中に小学生くらいの子ども達もまじっていて、あたかもゲームをするかのように笑顔で機関銃を乱射するのです。
一番恐怖した場面で、夜悪夢の中に子どもが現れてうなされそう!

「参事官」って何? とにかく両国の参事官が強い!

参事官というのが、両国ともにスマートにスーツ着こなしたチョイ悪の風貌で、とても国の行政機関の人とは思えない。と思ってたら諜報部員的な裏工作はするは、腕は立つはで、私服ボディガードにも見えてきた。そして韓国大使館の中での両参事官による乱闘場面はとても素人とは思えない迫力。ますます「参事官」って何?

腹は減っても、国家思想が違えば。

韓国大使館の中で、食事を振る舞われる北朝鮮大使たち。お腹は減ってるはずなのに、その子ども達さえも手を出さない。なぜ?と思った私は想像力の欠如。韓国大使は相手の気持ちを察して、北朝鮮大使の茶碗を自分のと入れ替えて食べ始める。それを見て箸を取って食べ始める北の大使。
一緒に食事をするという行為の中に緊張と緩和、そしてユーモアが。
その後の大使同士の二人の会話にあった「演説ではなく会話を」という韓国大使の言葉にも考えさせられる。ここにいるみんなの命を協力して守ることが我々の大目的。そのためには国家の主義思想は置いておこうという思いが伝わる。

熾烈を極めた逃走劇。銃撃戦とカーチェイス。

やっとイタリア大使館の救援機に乗せてもらえることになり、午後4時の離陸時間がタイムリミット。全員でそこに行かないと出国の可能性はない。空港まで行くには街中にいる反乱軍の中を突破する必要がある。全員協力しての突破大作戦が始まる。武器も持たない民間人が知恵をしぼって、車を銃撃からガードする物を、女性も子どもも一致団結してガムテープで車体に貼付けていく。何を貼付けたかは映画を見てのお楽しみ。

参事官と参事官。大使と大使。そして人間と人間。

銃撃を受け北朝鮮の参事官テ・ジュンキが亡くなった。それまで常に敵対していた韓国の参事官カン・テジンの台詞のない中の悼みの表現。そして無事到着した空港で、韓国大使ハン・シンソンと北朝鮮大使リム・ヨンスの、無言のまま徐々に離れて行く二人の気持ちが伝わる名演技。同じ民族ながら引き裂かれた国の痛みが胸に迫る名場面。(涙)
出演者全員とにかく台詞の無い場面でも伝わってくる演技力に圧倒されました。

そしてソマリアも諸々の変遷を経て2022年現在も三つに分断されたまま。状況はあの時のまま変わっていないのかも。
国が、思想が、主義が違う。でも同じ人間。

飯田橋ギンレイホールにて
2022年9月24日〜10月7日の上映

しかし
飯田橋ギンレイホール閉館のお知らせ
詳しくはホームページで
https://www.ginreihall.com/

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