ギンレイLOVE-7 生まれてくれてありがとう「ベイビー・ブローカー」
「ベイビー・ブローカー」
(韓国でのタイトルは「ブローカー」)
脚本・監督 是枝裕和
CAST
ハ・サンヒョン=ソン・ガンホ
ユン・ドンス=カン・ドンウォン
アン・スジン(刑事)=ぺ・ドゥナ
ムン・ソヨン(母親)=イ・ジウン(IU)
イ刑事=イ・ジュヨン
introduction
「万引き家族」でカンヌ国際映画祭のパルムドール賞を受賞した是枝裕和監督と、「パラサイト」で世界を沸かせた韓国の名優ソン・ガンホのタッグによる韓国映画、と聞くだけで映画好きは胸騒ぎを覚えたことでしょう。完成した作品は、時間をかけて練られた脚本と丁寧な演出、そして素晴らしい演技人による豊かな演技で、「家族」「命」など深いテーマが浮きぼりにされた感動作が誕生しました。
Story
クリーニング店を営むハ・サンヒョンは、赤ちゃんボックスの設置された施設の職員ユン・ドンスと共謀して、ボックスに置かれた赤ちゃんを子どもの欲しい夫婦に横流ししては金を得ている。ある雨の日、ボックスの赤ちゃんウソンをいつものように連れ帰ったところ、赤ちゃんを捨てたはずの母が尋ねて来て、やりとりしているうちに買手が見つかるまで行動を共にするという。人身売買の現場を押さえようというアン・スジン刑事に付けられているとも知らず、三人と赤ちゃんは養父母探しの旅に出る。
ソン・ガンホが演じる庶民のリアリティ!
今までどれだけの映画で庶民の悲哀を表現してきたことだろう。この人の佇まいと表情を見ただけで韓国の市井の人々、街の音や匂いまでが想像できる。本作でも、仕事の手さばきやミシンの使い方、とれたボタンの付け方、まさに本当のクリーニング屋のおやじさん。そして根は人の良いおじさんながら、金のために裏家業をやるという人物を演じて、その存在感でこのストーリーの主軸を支えた。この役でカンヌ最優秀男優賞受賞も当然というべき。拍手。
人物の裏設定を想像するのもこの映画の楽しみ。
ソン・ガンホ演じるクリーニング屋を営む主人公ハ・サンヒョン、いま妻子とは別れて、事情があって金に困っている。そのため裏家業としてベイビー・ブローカーを続けているようだ。彼と組んで赤ちゃんをBOX から秘密裏に連れて来る、赤ちゃんBOXのある施設の職員ユン・ドンスは養護施設育ちで親の顔を知らない。赤ちゃんを捨てた若い母ムン・ソヨンも親の愛情を受けられなかった不幸な生い立ち。それを追う女性刑事アン・スジンはプライベートでの夫婦関係は悪くはなさそうだが、異常なほどの執念をこの事件にぶつける。それを客観的にやや引いた目で見る新米のイ刑事。それぞれの今までの人生が善悪の思考、感じ方を形成していて、映画の中で明らかにされたり、観客の想像にまかされたり、それがこの映画の醍醐味でもある。
「子を捨てる母親は責められるけど父親はどうなの」イ・ジウンの母親役が秀逸。
本作で赤ちゃんの母親役のイ・ジウンはIU(アイユー)とう名で活躍する絶大な人気を誇るシンガーソングライターでもある。テレビドラマでも女優として活躍していたが、本作で堂々たるスクリーンデビューを果たした。
本作では誰からも守られることなく生きてきて、子を捨てざるを得ない境遇。しかも人に言えない秘密を抱えているという複雑なキャラクターを、大げさな演技でなく顔の表情や微妙な佇まいで演じて、彼女が画面にいると目が離せなかった。子どもに愛着が沸かないように、わざと声もかけずいた彼女が、皆に進められて灯りを消したホテルの部屋で全員にひとりずつ声をかける、感動的な場面。その声に。涙。
誰かと誰か、それぞれが交わった時の化学反応。
子を捨てた母(ソヨン)---親に捨てられた青年(ドンス)はとても分かりやすい対立の構図だが、映画が進むに連れてそれは大きく変化してくる。場面場面での二人の会話はぶつかり合っていたものが徐々にお互いを理解し、お互いを許す過程が繊細に描かれていて、どの場面も見る者の心に残る。そして究極は観覧車の中、二人だけでの会話はほとんどラブシーン(男と女というより許しあった人間と人間の)に近い名場面。ここでも涙。
すべての人が生まれてきたこと、生きていることを肯定されるべき。
是枝監督はこれまで「家族」を主なテーマとして映画を作ってきたが、本作はもっと突っ込んだ深いものを感じる。「赤ちゃん」という命の根源を思わせる題材によって「誰がその生を肯定しうるか」について、いろいろな視点から考えさせられる。本作の登場人物たちは、それぞれ何かしらの罪を背負っているようだが「赤ちゃん」という命を前にして、その命を守る保護者、善人になってしまう。性善説に過ぎるかもしれないが、これが是枝マインド。名作がまた一つ誕生した。
飯田橋ギンレイホールにて
2022年11月5日〜11月18日の上映
しかし
飯田橋ギンレイホール閉館のお知らせ(涙)
詳しくはホームページで
https://www.ginreihall.com/
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