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映画が第七芸術になる時代(1)余談:世界初に疑問符
映画のスタジオはメリエスのが最初という話を書きましたが、これもまた簡単にひっくり返すことの出来る話なんです。
そもそも初期の映画フィルムは撮影にかなりの光量が必要でした。なので、撮影には基本は強力な照明が欠かせませんでした。従来の劇場でも照明はありますが、撮影には貧弱すぎる上に、太陽光という無料の光源を利用出来ないので、新たに映画撮影用の空間が求められたのです。
スタジオの条件は3つ。撮影機材の配置が制限されにくく、最大限に採光が可能で、外部から影響を受けにくい閉じた空間だということです。
この条件から考えると、お馴染みエジソンが建てた1893年に建てたブラックマリア(上のスケッチ図が外観)という撮影スタジオが最初のスタジオだといえるかもしれません。
ん? ちょっと待って下さい。
1893年って、映画誕生の1895年より前じゃないですか?!
そう、これは「映画専用」のスタジオではなかったんです。
メリエスの「映画」スタジオは、パリ郊外の200平米の土地に1897年に建てられました。同時代の写真スタジオ式に、屋根と壁3面がガラス張りです。(ガラスの温室みたいな感じです) ここに約60平米の舞台を作りました。背景は当時舞台で流行っていたトリックアートで奥行きや立体感を出したもの。また、カメラは前後するものの、常に理想的な観客の位置、舞台の中央に置かれました。
実はメリエスは、写真家の間では十数年前から普及し始めていた人工照明があまりお気に召さなかったらしいです。よって、撮影は常にお天道様次第。開発されたばかりのフィルムの状態も安定していないので、数分の短編を撮影するのにも途方もない労力が必要だったわけです。
1897年の同じ年に、エジソンのBiograph社もブラックマリアと同じような映画スタジオを建てています。
初期の映画史をエジソン/メリエスという視点から語ったら、面白いかもしれませんね。