『アイアム・ア・コメディアン』音声ガイド制作記
連日盛況をいただいております、
お笑いコンビ・ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんを追ったドキュメンタリー。
監督は『東京クルド』の日向史有(ひゅうが・ふみあり)監督。
「メディア」「被災地」「在日朝鮮人」「夢への挑戦」「コロナ禍」「家族への想い」。
「村本大輔」という一人の人間を通して、様々なテーマが浮かぶ本作ですが、どの興味から入っても、予想以上の出会いとなることと思います。
自分の可能性を信じられるかっこよさ。
暗闇の中でこそ光を見つける強さ。
ぜひスクリーンで、対面してください。
●9月30日迄、連日17時40分からの上映です。
「テレビから消えた男」に密着したドキュメンタリーと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
本作には映画観賞前の予想を遥かに上回るものが秘められている。
その理由には、自身の泣き笑いをカメラの前に曝け出す最高の被写体である村本さんの魅力があるのだろう。
村本さんの人生に触れ、その人生の上で自身の表現を行う村本さんをみつめる。特にラストシーンは涙と笑いが混在する映画体験だった。
魅力あふれる人が動くだけで、その全てが映画と成り得るのだ。
だからこそ本作から、多くのテーマについてを考えることができる。
また、もう一つの理由も考えられる。
一人の被写体を魅力的に、そして批評的に撮ることの純粋さではないだろうか。
いくら「カリスマ」とされる人物でも、ただ撮るから面白くなるとは限らない。
日向監督やスタッフと村本さんとの信頼・共犯関係が機能している、のだと感じる。
韓国での出会いやアメリカでの挑戦、パンデミックの最中でも、激動の一瞬一瞬を喰らいつくように撮り続けた3年間の密度。撮らせてもらっているとは言い切れない、撮影行為を通しての村本さんへの挑戦とも、勝手に想像してしまう。
泣き笑いを曝け出させる撮影者がいる。泣き笑いが生じる現場となる。
裏を返せば、カメラがあるから泣いたり笑えたりもするのではないか。
そこにカメラがあるから、現実が動いていく。
だからこそ「リアル」な映画となる。
という感じに、のめり込んで観賞していた映画体験を経て、上映に臨んだ。
上映のために、目の見えない人にも本作をより深く体験していただけるように、音声ガイド制作に取り掛かる。
音声ガイドとは、視覚情報を音声・ナレーションに翻訳して伝えることだと私は考えている。
音声ガイドで何をどう描写するかで、本作の魅力を台無しにしてしまいかねない。
台本制作においては「見えるもの」を言葉にして伝えるということに限るのだが、音声ガイドを聞く人がイメージしやすい言葉の置き方や文章構成を考えねばならない。
特に本作は、村本さんの言葉がきちんと届くように、音声ガイドで空間や言葉の前後の表情を最小限に伝えていくことが肝である。
その中で、独演会の会場の規模が何人くらいの場所なのか、など、言葉から空間に入り込むため、描写の基本的なポイントの大切さを改めて感じた。
今回も音声ガイドのクオリティチェックをしてくださった風船さん、その集中力と映画に入り込む力が、今回も助けてくださった。
そして、身体の動きも感情を伝えるのだということも、改めて思い知る。
ドキュメンタリーは、身体の動きを捉えている。
そこから伝わり得ることがあるので、音声ガイドでもその動きこそを言葉にしていこうとする。
だが、村本さんの視線や笑い方の描写など、あくまで音声ガイドを聞く人それぞれによって開かれたものにしなければならない。
例えば、「にやっと笑う」のと「微笑む」のとでは、だいぶ印象が違うように、言葉一つでその時の感情を当てはめてしまうことになる。
言葉の枠組みの中では、笑いから「見える」印象を押し込めたりもしかねない。
なるべく的確に、そしてできればより深く、その動きを表すための言葉を探す。
また、「かっこよさ」にこだわった演出も本作の流れを作っている。
音声ガイドの文章の繋ぎ方によって、映像の視覚的なリズムが伝わるように音声ガイドの文章を整える。
特に冒頭の村本さんの登場シーンは、音声ガイド検討会に参加いただいた日向監督のアイデアで、文末を動詞で揃えて音声ガイドの文章を積み重ねていくということも行った。
ショットを繋げるテンポの良さや言葉の切れの良さはナレーションのまなさんがしっかり声にしてくださった。
映像の流れを音声ガイドでも伝えるためには、その映像に沿ったやり方を見つけなければならない。音声ガイドにがっちりとした定式はなく、じっと映画を見てその映画の方法論や課題を常に模索しようとする。
音声ガイド制作の面白さは、映画を観ることの面白さなのだと改めて感じる。
そして、合成音声によるナレーションの実験も行った。
本作にはSNSの投稿が画面に表示される部分がある。
一つは、匿名アカウントによるSNSの「つぶやき」のテロップが、渋谷駅周辺の風景にいくつも浮かび上がるシーンだ。
匿名の機械的な言葉。それを文字通り非身体的に、機械の声で当ててみる。
また、パンデミックの中、各地での独演会中止を告知するSNSの投稿文が画面に同時に表示されるシーンがある。
それをタイミングよく、同時に合成音声で読み上げる。
タイミングや声色の調整など、編集は代表の平塚さんにやっていただいた。
目で見る感覚と、耳で聞く感覚。目で見切れない感覚と、耳で聞き切れない感覚。そのゾワゾワとした形を、音声ガイドでも伝えたい。
ドキュメンタリーにおいて、テロップや画面効果を音声ガイドでどう表すかは、これからもその映画その映画によって考えていかねばならない。
音声ガイドの検討会の中で、カメラと村本さんとの距離についてのお話があった。後ろ姿しか撮れなかったショット。離れたところからしか撮れなかったショット。そうした心理的距離もカメラは映してしまえることに、恐ろしさも感じる。
そして、その遠さを乗り越えていった、被写体と影響しあうカメラの存在があるからこそ、この映画が響くのだとも思う。
村本さんが語る、人と目が合うこと。体現する、人と出会うこと。人と繋がること。
「メディア」「被災地」「在日朝鮮人」「夢への挑戦」「コロナ禍」「家族への想い」と、本作から想像され得るテーマを冒頭に挙げたが、それらが浮かび上がりながらも映画が錯綜しないのは、人と人とを根底で描いてくれているからなのだと感じる。
「村本大輔」という一人の人間を通して、自分の可能性を信じられるかっこよさ、暗闇の中でこそ光を見つける強さと出会っていただきたい。
文:スタッフ柴田 笙
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●バリアフリー日本語字幕は「じまくびと」さんに制作いただきました!
言葉の量が凄まじい本作ですが、英語字幕と共に表示される日本語字幕のレイアウトも含め、構成いただきました。。!
今回も丁寧なお仕事、ありがとうございます!!
●9月16日・初日は日向監督に舞台挨拶をいただきました!
●10月17日〜29日(水曜休映)は、同じく石川朋子プロデューサーの『マミー』も上映いたします。
●上映情報
9月16日(月)~9月30日(月)
17時40分~19時33分
*18日,25日(水)休映
(2022年製作/108分/G/日本・韓国合作)
※英語字幕,バリアフリー日本語字幕付き・音声ガイドあり
監督:日向史有
出演:村本大輔 (ウーマンラッシュアワー)中川パラダイス (ウーマンラッシュアワー)他
撮影:金沢裕司
編集:斉藤淳一
カラーグレーディング:織山 臨太郎 (104 co Ltd)
アートディレクション:SOMEONESGARDEN
CG制作:ヤシマ ヒデキ
サウンドデザイン:増子 彰 (Tokyo Sound Production)
MA:富永 憲一(NEO P&T)
製作:Documentary Japan Inc.
プロデューサー:石川朋子、植山英美(ARTicle Films)、秦岳志、ゲーリー・ビョンソク・カム
企画プロデューサー:檀 乃歩也
配給:SPACE SHOWER FILMS
宣伝:HaTaKaTa
【2022年|日本・韓国|カラー|HD|16:9|108分|DCP】
© 2022 DOCUMENTARY JAPAN INC.
公式ホームページ:https://iamacomedian.jp
シネマ・チュプキ・タバタはユニバーサルシアターとして、
目の見えない方、耳の聞こえない方、どんな方にも映画をお楽しみいただけるように、全ての回を「日本語字幕」「イヤホン音声ガイド」付きで上映しております。
●当館ホームページ「シアターの特徴」
皆様のご来館、心よりお待ちしております!
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