『ブリング・ミンヨー・バック!』音声ガイド制作記
上映は4月30日迄。
チュプキならではの音で鳴らしております。
とにかく音を浴びて欲しい映画です。。!
民謡クルセイダーズのヨーロッパツアー、
コロンビア・ボコタでのフレンテ・クンビエロとのレコーディング、
のみならず、
“「民謡」とは何なのか”までをも捉えた音楽ドキュメンメンタリー。
現代の民謡の形として、今もなお土地に根付く祭りの謡・郡上踊りや民謡教室の風景、
民謡を発掘し新たに魅せる民謡DJ・俚謡山脈(りようさんみゃく)、
そしてジャンルも国も越境し軽やかに”自分たちの民謡”を鳴らしていく民謡クルセイダーズ。
民謡の広すぎる、深すぎる歴史をも丁寧に追い、
一本の映画として出された本作は、
文字通り「エンディングを3回迎える」ような大ボリュームの一本である。
音声ガイドを制作するにあたって、
何を聴いて、何を見て、何故映画に前のめりになって楽しめるのか、を突き詰めて考えねばならない。
音声ガイドとは、視覚情報を言葉・音声に翻訳するものだと私は考えている。
ただ、本作は音楽ドキュメンタリー。
極論を言えば、音声ガイドがなくても音楽に身を任せれば楽しめる。のかもしれない。
それだけ民クルの音楽の力、挿入されるインタビューも含めた映画全体のリズムが気持ち良い。
しかし、映画を観ている私、目の見えて耳の聞こえる「健常者」である私は、ただ単に音楽だけを聴きに来ているのではない。
映画を観ているのである。
視覚から得る感情を、目の見えない人とも共にできる可能性を消したくない。
伊勢真一(いせ・しんいち)監督作『PascaLs(パスカルズ) しあわせのようなもの』の遠藤郁美(えんどう・いくみ)さん制作の音声ガイド検討会を見学させていただいたことがある。
『ブリング・ミンヨー・バック!』の音声ガイドを制作する上で、その時のことがとても力になった。
『PascaLs しあわせのようなもの』も『ミンヨー』と同じく、音楽ドキュメンタリーと言える映画である。
音楽ではなく、音楽映画であるということは、音楽を奏でる身体に現れる表情や動きを「見て」、音楽を感じてもいる。
その時、モニター/クオリティチェックを務められた視覚障害者の方が
「私は音楽を聴きに来るのではなく、ライブを観たい」といったことが忘れられない。
「ライブを観る」ために、その音楽が鳴っている空間、オーディエンスと共に作り上げられるその空間を、
視覚情報のみで表されるものを、音声ガイドで立ち上げなければならない。
かといって、やたら音声ガイドのナレーションを入れることで音楽を潰してはならない。
音楽へ言葉をぶつけるのではなく、音楽の中で言葉を紡いでいかねばならない。
カメラが選び取った、その時の熱の中で映し取ったステージやフロアの動き、
音楽が鳴る中で挿入されるイメージ映像などの全てがあるからこそ、
音楽「映画」であることを痛感した。
だが、どうしても音楽を、とりわけ"うた"を潰さないように、音声ガイドの言葉を置いていかねばならない。
"うた"は言葉として耳に入ってくることもあるため、音声ガイドの言葉を重ねるのは憚られる。
その取捨選択の中で、短い言葉で最善を尽くすように言葉を紡ぐ。
音声ガイド検討会は、
モニター/クオリティチェックに石井健介(いしい・けんすけ)さん、当館代表の平塚、
監修に森脇由二(もりわき・ゆうじ)監督を迎えて行った。
(細かなチェック、たくさんの教えとアイデアをありがとうございます。。!)
一人ではなく皆さんと観ることで、より映画の波のようなものを感じられる。。!
単純に楽しい!と思える時間であった。
映像に現れるコロンビアの街並みや文化。
音情報として聞こえてくる熱気とその規模感を伝える具体的な数字。
「珍しい」と視覚で感じる楽器の形容。
これらを、「映像」でなく、「音と共にある映像」と捉えた瞬間に当てていく。
ライブ中、メンバーを映すときには音に身を任せ、名前のみを音声ガイドで読む。
そしてステージで演奏されていることこそを、音楽の中での音声ガイドとして表現する。
音に合わせて素早いカットが連続するシーンは、その視覚と聴覚のリズムを重視して表そうと単語のみで続ける。
どこを削いで、どこを表すのか。
音楽へぶつけるのではなく、音楽の中でどう紡ぐのか。
一つ言葉を踏み外すだけで、もう音楽に乗れなくなってしまいかねない。
音声ガイドの責任の重さを改めて感じた。
色んなアイデアを持って音声ガイドを固く考えてもしまうが、
やはり一番の肝は、音楽を楽しみながら、民謡とラテンのグルーヴにのめり込みながら、楽しく音声ガイドをやる!
ということだったのだと感じる。
『ブリング・ミンヨー・バック!』は、音声ガイドを制作する上でも楽しんだ映画であった。
国境をも超えて人を繋げる音楽・民謡を、
そして民謡クルセイダーズを映した本作が、あらゆる人に届いてほしい。
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バリアフリー日本語字幕は「じまくびと」さんが担当してくださいました。
視覚的にもリズムが心地よい本作。
多彩なテロップが次々と現れる中で、レイアウトも試行錯誤して、お囃子などの音情報も詳細に制作してくださいました。
民謡の歌詞に字幕を通して向き合うことも、ユニバーサル上映ならではの面白さだと思います。
「じまくびと」さん、今回もありがとうございました!
映画でも紹介される、大石始(おおいし・はじめ)さんの著書『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』には本当にお世話になりました。
本編にも現れる、郡上踊りや牛深ハイヤ節のシーンと向き合うために、
その「音楽」を生で体験したことがない私のイメージを広げてくれた一冊。
この本を通して祭りとそこで歌われる民謡を味わっていました。
文:スタッフ柴田 笙
シネマ・チュプキ・タバタはユニバーサルシアターとして、
目の見えない方、耳の聞こえない方、どんな方にも映画をお楽しみいただけるように、全ての回を「日本語字幕」「イヤホン音声ガイド」付きで上映しております。
●当館ホームページ「シアターの特徴」
皆様のご来館、心よりお待ちしております!
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