『プリズン・サークル』書籍発売記念! 坂上香監督ティーチイン('22/04/09)レポート
上映するごとに大きな反響のあったドキュメンタリー映画『プリズン・サークル(2019/坂上香監督)』。このたび、その10年超にわたる取材の集大成となる書籍『プリズン・サークル(坂上香 著/岩波書店)』の刊行にあたり、チュプキでは記念アンコール上映をおこないました。
また、2022年4月9日(土)の上映後には坂上 香(さかがみ・かおり)監督にリモートでご登場いただき、ティーチインを開催。本記事ではその模様をお届けします。
映画『プリズン・サークル』について
この日は親子鑑賞室まで埋まる満員御礼。映画鑑賞直後の熱気も冷めやらぬなか、リモートで坂上香監督と早速お繋ぎしました。お客様とのティーチインへ入る前に、まずは監督から書籍のお話を伺いました。
書籍『プリズン・サークル』に書かれていること
映画『プリズン・サークル』は「私自身を抑えて撮っている、抑えたドキュメンタリー」だったと語る監督。対して書籍のほうでは、撮影時の葛藤や、その時何を感じていたのかといった「私自身」についても詳しく書かれているそうです。
「一つだけ事例に取ると」と監督。「今回映画の中では性犯罪は扱っていないのですが、実際には性犯罪を犯した人もいて」。映画でスポットが当たるのは4人の男性。しかし実際は15人ほどに取材をしており、中には性犯罪の人も何人かいたそうで——
「本の中では、そのうちの一人について書いています。なぜ映画で彼を取り上げなかったのか、彼を撮っているときに私はどんなふうに感じていたのか。本を読むと少しわかっていただけるかと思います。」
「映画が公開されたときに、『なぜ性犯罪者がいないのか』『監督は性犯罪者をわざと避けているんだ』とかいろいろ書かれたんですけれども、そうです。わざと避けたんです。避けたというか、映像に含められなかったですね精神的に。」
映画に登場する「彼ら」の「その後」についても書かれているという書籍『プリズン・サークル』。映画とあわせて、ぜひお読みいただければと思います。
ちなみに、印象的な「TC」の椅子がずらりと並ぶ表紙イラストは、映画の中でも砂絵アニメーションを担当されたアニメーション作家の若見ありささんが、本を読んだ上で新たに描いてくださったのだそうです。
ティーチインの模様
ここからは、チュプキで映画を鑑賞された直後のお客様と坂上監督のQ&Aタイム。一部をご紹介します(ご質問、ご回答、いずれも要約となりますことご了承ください)。
Q. 自分がした行為をどう受け止めるか、これは日常生活でもなかなかできない向き合い方だと思いました。「TC」という取り組みは刑務所以外でも行われているのでしょうか?
坂上監督: 「TC」という取り組みが日本の刑務所で行われているのは「島根あさひ」だけです。社会的な運動が盛り上がっていた1960〜70年代には、精神病院の中でTC的な発想の取り組みが医師や看護師の中から提案され、医者と患者の関係性をフラットにする試みがなされていたという話も。今も、地方のいくつかの病院ではTC的な「治療共同体」の取り組みをしているところもあるようです。
島根あさひのTCはアメリカの「アミティ(Amity)」をモデルとしていますが、アミティも刑務所から始まったのではなく社会復帰施設として、出所者の中間施設だったり軽犯罪の人が身を置く場所として始まった取り組みでした。
日本ではそこまで広がらなかったTC。しかし医療の在り方が問われ、「オープンダイアローグ」なども注目されている今、ひょっとしたらこうした取り組みがまた広がる可能性もあるのかもしれません。
Q. 受刑者の人たちの紡ぐ言葉の明確さ、感受性の高さ、コミュニケーション能力の高さに驚きました。これは「島根あさひ」だからこそ実現できている(何らかの要因で他の刑務所では実現できない)ことなのでしょうか?
坂上監督: 少し話は変わるかもしれませんが……社会学者の朴 沙羅(パク・サラ)さんの出された『ヘルシンキ 生活の練習』という本があります。まったく刑務所の話ではなく、子育てを通してみたフィンランド社会のあり方について書かれたものですけども、読んでいて共感するところがありました。
とかく私たちは「コミュニケーション能力が高い人」といったように「能力が備わっている人」として見てしまいますが、そういった能力を高める場をいかに社会が提供しているかということだと思うんです。感情ひとつにしても、日本人は抑圧させがちであるのに対して、フィンランドでは「感じさせる」訓練をする。「怒り」であれば、どんな怒りなのかその中身を言語化させる。そういう訓練を幼い頃からしているんですね。
『プリズン・サークル』に登場する彼らは「すごくコミュニケーション能力に長けて見える」といつも言われるのですが、それは刑務所の中で何年間もの練習の場があったからなんです。最初はそうじゃなかった、全然。そんな簡単に一回の授業で自分の感情を言い当てられるわけじゃない。TCの場で「先輩たち」の語る言葉を聴いて、感情を言い表す語彙を少しずつ積み重ねで学んでいくんです。中には語彙力をつけるために児童書から『罪と罰』までを読み漁ったり、自由時間に勉強会を立ち上げてディスカッションをしたり、そんな受刑者もいました。
これが「他の刑務所では実現できない」のかどうか。TCが全ての人に万能かと言ったら、そうではないと私は思います。当然こういうのに反発する人もいるし、うまく乗っていけない人もいるはず。だからこれが全て問題を解決するとは考えませんが、とはいえ4万人に40人(国内の受刑者数/TC受講者数)はないだろうと。もっと使えるだろうとは思っています。
例えば東京の府中刑務所には、累犯と呼ばれる、何回も何回も刑務所に入っている暴力団絡みの人や犯罪を仕事にしている人たちが沢山いるわけです。そういう人たちにこのTCは効果がありますかとよく聞かれるのですけど、効果がないとは言えない。問題があるとすれば「支援員」と呼ばれる人たちの背景があまりに受刑者と違いすぎること。
前述の「アミティ」は、凶悪犯の刑務所にTCがあるんです。これがてきめんに効果をあげている。アメリカの場合は、その凶悪な犯罪を犯した人たちと張り合えるくらい凶悪だった人たち、トレーニングを受けたいわゆる当事者スタッフが「支援員」として刑務所に戻っているんです。そうでないと、受刑者の人たちに対して生い立ちや佇まいが違い過ぎて、見た目で判断されて、たぶん馬鹿にされてしまう。日本でも「当事者スタッフ」が育成できれば、効果は見込めるのかもしれません。
支援のかたちについて
坂上監督: 映画を観た方から「支援をしたいと思うのだけど何ができますか?」という質問をよく頂きます。支援のかたちにはいろいろあります。既に支援活動をしている団体へ寄付をするというのもひとつの方法です。また、今はコロナ禍でどこのNPOも苦労している状態。そういった団体は会員で成り立っているので、もしよかったら会員になってあげてください。
おわりに
坂上監督: 書籍は「映画プラスアルファ」の内容になっています。映画を観たからいいや、と思わずにぜひ読んでみてください。また、皆さんの声もいろんなところで、いろんなかたちで上げていってください。それが社会を変えていく行動のひとつです。
個人個人の考え方に少し変化を与えられるような、映画館に入ったときと出たときとで違う見方ができるようになる作品を、という想いでいつも映画を作っています。映画を観て本を読んで、皆さんの足元で何ができるか、考えていただければ嬉しいなと思います。
ここで取り上げた以外にも本当に沢山のお話をいただきました。ご参加の皆さま、そしてお時間を割いてくださった坂上監督、ありがとうございました!
チュプキでは4/27(水)にも追加のアンコール上映を予定しております。残席僅かとなっていますが、ご予約の上ぜひご来館ください。
追加アンコール上映、全回満席にて終了いたしました!
(文:スタッフ池田)