『嵐』(1956年)

2012年4月15日(日) 神保町シアター

男やもめの笠智衆が、離れて暮らしていた4人のきょうだいを順々に引き取って一緒に生活を始め、子どもたちが成長し、今度はひとりひとり笠智衆のもとを巣立ってゆくまでを描く。

冒頭のシーンは、笠智衆が、これから迎える子どもがいつ来るかとそわそわしている。
ラストシーンでは、これから離れて暮らすことになる次男が家を去り、三男と末娘も見送りに出ており、ひとりになった笠智衆が2階に上る。
ばあやの田中絹代と空にかかった虹を見て、子どもがみんな巣立ってひとりになったら、またばりばり仕事をしようと意欲を燃やす。
とても美しい構成。

加東大介の編集者がいい。辞書の編纂という息の長い仕事が、子どもが成長する7年という歳月とちょうどリンクしていて、うまい。

子育てに意欲を燃やす笠智衆は、大学に戻ってほしいと説得に来た江川宇礼雄に、「子どもたちには自分がやりたくでもできなかったこと(例えば絵)をやらせたいんだ」と子どもへの夢を語る。
しかし、次男はアカの本を持っているということで特高ににらまれ、父親を驚かせる。

三男は、日本画の道を目指してほしい父親の願いと裏腹に、西洋絵画に目覚める。
自分には内緒で油絵をやっていた三男の行動にショックを受け、油絵の講師のもとに話を聞きに行く笠智衆。
油絵の講師は、三男には油絵に優れた才能がある、彼に日本画をやらせるのは愚かだと、日本画をすすめたのが父親であるとは知らずに言う。
このとき、講師の顔は一切画面には出ず、声だけ。
笠智衆の気まずそうな戸惑いの顔だけが映される。
講師の吸うたばこの煙が、笠智衆の顔に吹きかかる。うまい。

末娘の雪村いづみのために、と奮発してワンピースを仕立ててやるが、雪村は「型が古い」と一向にそでを通そうとしない。
「フランス仕込みといっても、父さんのは10年前でしょ」と手厳しい。

父親の知らぬ間に、どんどん自分の世界を切り開いている子どもたち。
それに寂しさを感じながら、次第に受け入れる父親の姿が丁寧に描かれる。
見事だった。


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