【アラン・ドロン追悼】『黒いチューリップ』の4K修復インタビューを特別公開:YouTube初無料公開記念
4K修復について ジャン=ルネ・ファイオ(アランヌ・ギュリヴェール社)
*本稿はBlu-ray『黒いチューリップ』(発売元:株式会社IMAGICA TV/販売元: 株式会社KADOKAWA)封入のブックレットに掲載されたインタビューを、WEB上で公開するものです。
(Blu-ray『黒いチューリップ』の販売は終了しております。)
『黒いチューリップ』の修復を手がけたパリ郊外にある現像所&ポスト・プロダクション、アランヌ・ギュリヴェール(Arane Gulliver)は2000年創設。ヨーロッパの大手ラボが次々に70mmの仕事を手放す中で、最後までそれを大事にしてきた会社だったが、残念ながら2014年11月、経営難に陥り、閉鎖。同社の社長であり、今回の修復を監督したジャン=ルネ・ファイオ氏に聞いた。
『黒いチューリップ』の現在の権利元であるTF1から修復の依頼があったのはいつ頃のことですか?
2~3年前です。最初はアメリカでネガのスキャニングをする前提で見積もりを出したのですが、高すぎると却下。当時私は、やはり65mm(70mm映画の撮影ネガの幅は65mm)で撮影されたジャック・タチの『プレイタイム』の修復の仕事を取ろうとしていたので、友人と古い機械の部品などを利用して、65mmネガ用のスキャナーを一から設計しました。一年近くかかって、アメリカと同じくらいのクオリティのものが出来た。それもこれもヨーロッパ市場に適合した価格でサービスを提供するためです。まず最初に『プレイタイム』に取りかかり、美しく仕上がったので、次に『黒いチューリップ』に取りかかりました。65mmのネガを6.5K(6576×3100ピクセル)でスキャンし、16ビットで処理、その後の修復のプロセスは4K(4288×2021ピクセル)です。
修復作業の全てがあなたのラボで行われたのでしょうか?
ネガの状態チェック、スキャン作業、色調整……ほとんどがそうです。ただ、ネガの物理的な補修はテクニカラー社のクリスチャン・ルーランに頼みました。6名くらいが関わっていましたが、常に働いていたのは3名で、ほぼ1年がかり。2014年の1月から暮れまでやっていました。そこで我々のラボは閉鎖してしまったので、最終的な仕上げはテクニカラー社でもう2カ月ほど行われ、完成品の試写は2015年の3月でした。
ネガの状態は悪くはなかった?
はい。カットごとのつなぎ目もほとんど、しっかりしていました。しかし、擦り傷はとても多かった。わずかながら化学的なシミも生じていました。特に大団円の村のみんなが踊っているシーンは傷みがひどくて大変でした。
グレーディング(色調整)に関して、何か基準を決めましたか?
私たちは2種類の35mmプリントや過去のDVDも見て適切な色調を考えました。役者たちも濃いメークをしているお芝居ですから、古典的なタイプの色調整です。私は1960年代半ばのあの時代の映画だ、ということを忘れないように取り組みました。撮影当時、第二班の監督をしていたミシェル・ウィンも、夜景の表現などについて大事な助言をしてくれました。
二役を演じるアラン・ドロンが同じ画面内にいても合成の継ぎ目が見えませんね。修復の時に何かしましたか?
いいえ、それは撮影時のトリック、多重露光で合成されたんです(一人目のドロンを撮る時は二人目のドロンの動くスペースを感光しないように黒いマスクで隠す。フィルムを巻き戻し、隠す部分を逆にして二人目のドロンを撮ることによって一つの画面が完成する)。オプチカル等の後処理ではありません。本当に素晴らしい技ですよ。凄いのは兄ギヨームの隠れ家の椅子のカットですね。椅子に座った弟ジュリアンの後ろをギヨームが回り込むところ。ギヨームの手は椅子の縁には触れていますが、椅子の内側には入ってこない。そこが境目なんですね。
あなたの『黒いチューリップ』という作品への感想を聞かせてください。
修復をしていて、この作品を再評価することになりました。アラン・ドロンとヴィルナ・リージは、アンリ・ドカによって、あの時代の正統なスタイルの中で美しく撮影されています。とにかく照明の美しさですね。偉大な仕事だと思います。ノスタルジーもあるのかもしれませんが、照明の調整にこんなに時間をかけることなんて今ではそうそうあることじゃありません。昔は時間があったんですね。フランスの子どもたちは今でも怪傑ゾロのような剣とケープのコスプレをして遊んだりしますが、そんな剣客映画のよい伝統を引き継いだ、観ながら悩んでしまうような作品ではなくて、すばらしい娯楽映画の宝石だと思います。
(2015年10月 取材:木村ひろみ 翻訳・編集:山下泰司)
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