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【祝】国内で初めて、海洋生物マンタにタグ付けすることに成功しました!

編集より:現在、コロンビアのカリで開催中のCOP16では、危機的な状況にある生物多様性をどのように守るのか、具体的な取り組みについて話し合いが進んでいます。世界は「2030年までに生物多様性の減少を食い止め、回復軌道に乗せること」を目標に、保護区の拡大やネイチャーポジティブな経済の促進に取り組んでいますが、検討の対象となる生態系に暮らす生き物について、正確な情報を把握することは、計画を立てる際に役立つ指針となります。

コンサベーション・インターナショナル(CI)は、海洋生物に衛星タグを取り付けて、その生態行動を理解し、地域の持続可能な経済へつなぐ試みに取り組んでいます。そして、今年はついに日本で初めてマンタへの衛星タグの取り付けに成功しました!CIの海洋生物学者で、この研究の第一人者である、マーク・アードマンのアドバイスの下、国内で初のタグ付けに成功した、尾﨑里佳子(おざきりかこ)さんによるレポートをご紹介します。


2024年の夏、ついに、日本で初めてマンタにGPSタグを装着することに成功しました!この調査遠征は、コンサベーション・インターナショナル アジア太平洋地域バイスプレジデントのマーク・アードマン博士と、マンタウォッチ・ニュージーランド創設者のリディア・グリーン氏の協力を得て行われました。

筆者りかこさん(左から3人目)、マーク・アードマン(右から3人目)  ©Rika Ozaki

GPSタグは、生き物がどのエリアに存在し、いつそこにいるか、何をしているかを追跡することができる小型コンピュータのような優れモノです。この手法は、ほんの少しだけマンタのお肌を傷つけてしまうのですが、マンタの生態を知る上では必要なことなのです。マンタは国境を越えて長距離を移動し、人間が生身では到達できない深さまで潜るため、GPSタグがなくては、研究範囲は、沿岸の浅瀬での生態だけに限られてしまうのです。マンタのように保護が必要な種の生態を知るうえで、このGPSタグを取り付けることははとても重要なことなのです。

私たちの探査では、約5.5メートルのオスのジャイアントマンタにGPSタグを取り付けることができました。これは日本で初めてことですし、とても意義深いものです。GPSタグは、マンタが水面に浮上した際にその位置情報や環境データ(例えば水温や深さ)を送信します。マンタは水中にいる時間が長いため、GPSタグはデータを随時記録し、個体が浮上するたびにそのデータを分割して送信することになっています。われわれがこのGPSタグを付けたのは慶良間諸島でしたが、そのあと最初のGPSタグからのデータ送信は10月の初めで、約260kmも離れた宮古島からでした。今現在、最後にGPSタグからのデータ送信が確認されたのは宮古島北部の八重干瀬の近辺です。

取り付けた場所から260キロも移動していた ©Wildlife Computers

八重干瀬は、沖縄県の宮古列島の池間島の北側に広がるサンゴ礁群で、国の名勝および天然記念物に指定されています。池間島の北およそ5~16kmに位置しており、その広大さから「日本のグレートバリアリーフ」とも呼ばれる美しいエリアです。マンタがまだその場所にいるのか、それとも移動してしまったのかは分かりませんが、今後もタグの信号を追跡していきます!この情報は私たちの研究にとって非常に貴重であり、今後の追跡調査が楽しみです。

日本近海のマンタの現状

日本の海には、オニイトマキエイ、ナンヨウマンタ、イトマキエイ、タイワンイトマキエイ、ヒメイトマキエイなどさまざまなエイが生息していますが、研究はまだ限られています。これらのマンタやイトマキエイを含めたエイ全体は、モブラエイ(モブラ科)と呼ばれています。日本でマンタが確認されているのはもう50年以上前のことで、1970年代半ば、八重山諸島で伊藤 隆さん(マリンサービス異島)による世界最長の写真識別調査がスタートしました。沖縄の美ら海水族館で大人気のマンタ展示が行われているにもかかわらず、野生のモブラエイに関する研究はまだまだ少なく、目撃情報や観察に限られています。

マンタやイトマキエイを含めたエイ全体は、モブラエイ(モブラ科)と呼ばれる ©Marc Dando


モブラエイは長距離を移動し、他の地域をまたいで動くため、彼らの生態や行動範囲を理解することは重要です。特に繁殖地や育成地を特定することで、効果的な保護活動が可能になるからです。これまでの研究では、主にサンゴ礁のマンタに焦点が当てられていますが、外洋性のモブラエイに関する知識は非常に乏しく、保護や管理の取り組みが遅れています。モブラエイの生態系における役割を理解するためにも、より広範な研究が必要です。


プロジェクトの背景と目的

今回の探査は日本モブラプロジェクトの最初の活動でした。
沖縄ではマンタに関連した観光産業が盛んであることは知られていましたが、モブラエイに関する研究がほとんど行われていませんでした。私は、マンタが観光資源として注目されているにも関わらず、モブラエイ保護や管理の取り組みが不足していることをしり、何とか解決できないかと考えていました。そんなとき私が沖縄で漁船に乗せて頂く機会があり、マンタやイトマキエイが副産物として頻繁に捕獲されているのを目の当たりにして、沖縄でもマンタの生態を知る上で重要な、このGPSタグを付けることが可能ではないかと思い付き、このプロジェクトの立ち上げにつながりました。

漁船での調査  ©Rika Ozaki

現在、私はOIST(沖縄科学技術大学院大学)博士課程に応募しており、この研究を学位取得中も続けることが夢であり目標です。来年は、漁網に誤って捕獲されてしまったマンタやイトマキエイにGPSタグを付け、放流後の生存率を調査する計画です。この調査が進めば、ニュージーランドでの実績を参考にながら、高い生存率を確保するための方策の確立に貢献することができると期待しています。また、慶良間諸島でのタグ付けも継続し、さらに多くのオニイトマキエイにGPSタグを装着して予定です。さらに、皮膚のサンプルを採取し、個体群のつながりや、これらのオニイトマキエイがどのようにすべての海洋で結びついているのかを理解する一助となるでしょう。

自己紹介

私は11歳まで日本で育ち、その後ニュージーランドのオークランドに移りました。地理が好きで、地理学の学士号を取得しましたが、海洋学はキャリアの選択肢にはありませんでした。転機は、海で偶然マンタに出会ったことです。水中に入った瞬間、大きなオニイトマキエイが目の前に現れ、私の周りを泳ぎながら目が合いました。この経験が私の海洋生物への関心と保護への情熱をかき立て、キャリアの転換点となりました。その後、ニュージーランドでオニイトマキエイとイトマキエイの分布を研究し、修士号を取得しました。現在は沖縄科学技術大学院大学(OIST)でインターンとして、マンタプロジェクトに取り組んでいます。仕事以外では、テニスやバレーボール、絵や手芸、写真を楽しんでいます。

りかこさんとマンタ  ©Edy Setyawan

ぜひ動画もチェックして、私たちの探査がどのように進んでいるのか、是非ご覧になってみてください!


投稿 :尾崎 里佳子 
編集: CIジャパン
TOP画像:マンタへのタグ付けの様子 ©Dive Gobies


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