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椿の蕾
子供の頃に
家の周りを囲んでいた垣根は
椿の木で
学校に通う時に
艶々の葉をちぎったり
垣根の中に石を投げたりして
登下校の退屈を紛らして歩く
冬の寒い時期になると
赤いポツポツが見え始める
椿の蕾
椿の蕾をちぎるのが特に好きで
もう直ぐ咲きそうな
少しだけ赤くなった蕾をちぎって
外から1枚ずつ
丁寧につぼみを剥がしていく
蕾の外側のまだみどりで
硬いところから
歩くたびに1枚ずつ
等間隔で道に落としていく
ヘンゼルとグレーテルの
家に帰るための目印みたいに
振り返って花弁があることを見つつ
でもこれが無くても
わたしは帰りたくない家の場所なんて
随分前から覚えてしまっていて
目印の1枚のつぼみが
風に流されたって
見えなくたって平気だというのに
丁寧に蕾をめくって落としていく
だんだんと赤くなった花弁に
たどり着いてくると
柔らかくて綺麗な色の1枚を
道に落とすのが惜しくなってくる
でも落とす
道にこれまで落としてきた目印のために
最後の最後まで
丁寧に剥いて
覚えた歌を自分だけに聞こえるように歌いながら
そんな椿の蕾の思い出