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君たちの名前


先日、約2年ぶりに彼の名前を聞いた。
肝硬変で亡くなった、とのことだった。

正直に書いてもいいと思うので書くけれど、「えっと、誰だっけ」と思った。
思い返せば、かなりお世話になった人であり、
同時にすごく嫌いなまま記憶が途切れている人だった。

そりゃあ思い出せなくても当然だ、とも思う。

私の思い出せる彼は、あんまり真面目な人ではなくて、そのくせ真面目ぶって私に説教を垂れてくるような人だった。
そのせいで嫌いになったし、二度と話したくない、とも思っていた。

亡くなったと聞いても、こんな風だから悲しいとも思わなかったし、
心にぽっかり穴が空くような気持ちにもならなかった。


電話越しに伝えてくれたAはすでに泣き腫らした後で、どうやらヤケ酒をしたらしく、相当酔っているようだった。
Aは、「なんで勝手に死ぬんだ、ふざけるな。って言いたいんだよね」と怒ったような口ぶりで言っていたし、本当に怒っている、とも言っていたけれど。
それでも、私の耳に流れてくる声色は、やりきれない悲しさを含んでいた。

Aは本当に彼を愛しているんだなと思うと同時に、お互い不器用だ、とも思った。

命が終わる前に、少しでも本音を伝えておけばよかったのに。
男同士なんだから、心の内を晒け出してしまえばよかったのに。

もちろん、それが不可能であることは承知だ。
人は、その瞬間まで自分の命の終わりを知ることはできないし、
それ以前に、知ったとしても彼らはきっと心の内など明かさない。

彼らはそういう人間同士であり、それでよかったのだ、と思う。
そういう関係が羨ましいな、とさえ思う。
男同士だから分かる関係性というのか、なんだかそんな感じ。

きっと二人は、死があって初めて成立するような関係性だっだんだと思う。
まるで少年漫画のような、対立しているはずなのに、背中を預けているような。

私にはそれが羨ましく思えた。
私は女性だけれど、女性だからこそ、男同士の友情に憧れる。

戦友。うん、きっと二人は戦友だったのかもしれない。


私が嫌いだった彼に伝えたいことが、一つだけできた。
彼への言葉で、このnoteを終わらせようと思う。

あなたにはとても素敵な戦友がいます。
私はあなたのことが嫌いだったけど、その戦友がとても素敵だから、
きっとあなたも素敵だったんだと思う。
あなたの戦友が前を向いて、元気に過ごして行くために、
あなたもどうか、元気に待っていてあげてください。

いつかあなた達二人が出会ったその日に、笑って肩を抱けるように。

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