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【一時帰国2023春】⑯「母とお出かけ」の変遷
10年前は両親そろってフランスまで来たものだ。
あれが最後になってしまった。たぶん。
この10年の間、帰国のたびにも母と出かけているが、出かけ方や出かける場所はだんだん自宅の近くになっている。
以前はお出かけと言えば銀座。
子供の頃からの習慣で懐かしさもある。
銀座は楽しい思い出の宝庫なので、結婚後もフランスからの一時帰国も、「銀座が一番」は続いた。
その他に行くとすれば、表参道。
母娘でのおでかけにはぴったりだった。
6、7年前から父が認知症になり、一人で留守番すると不安がるらしく、母は遠くに行かなくなった。
芝居などを観に東京に出ても、目的が済むと友達とお茶もせずにまっすぐ帰るらしい。
わたしとの外出も、楽しみと言いつつ近場だけになった。
今日などは、お出かけと言うのに行先は病院の運動教室だ。
華やかな世界に顔を出すより、病院へ付き添ってもらう方が母としては嬉しいと言う。
寂しい気もするけれど、母が安心して暮らせるならそれでよいのかも。
今朝は付き添いの甲斐あって、母は運動教室の先生をとても気に入り、毎週通うことになった。
「気分がパーッと明るくなったわ」とそのまま街に出ることにする。
わたしのPCR検査に付き合ってくれ、一緒にお茶をして、フランスの義両親へのお土産を一緒に選び、お昼のお寿司を一緒に買って帰る。
短いけれど、一緒に出掛けて、ずっと一緒で、一緒に帰る。
それだけで随分嬉しかったらしい。
これからどれだけ一緒に出かけられるだろう。
「94歳や102歳でも一人暮らしで、野菜づくりや趣味を楽しんで暮らしている方もあるみたいよ。お母さんも体操して、元気で暮らしてね」
人と比べてもしかたがないけれど、元気な先輩方の情報は知って励みにしてもらいたい。
お茶は最寄りの駅のデパートで、母が最近お友達と行くという喫茶店に入った。
遠くに行けなくなった代わりに、お友達が近くまで来てくれるらしい。
変わりゆく状況に対応して、楽しみを見つけているみたいでほっとした。
喫茶店で母は、家にいるよりだいぶ若く見えた。
銀座や表参道を一緒に歩いたときを彷彿とさせる溌溂とした姿。
母に頼りきりの父からしばし解放されて、爽快な気分なのかもしれない。
そうだ、わたしが子供の頃も、同居していた祖父母から解放されたくて、わたしたちのお出かけがあったのだろう。
結構たいへんでしたね、お母さん。
わたしは一人の時間が好きで大事なので、実家にいてもつい部屋に引きこもってしまうのだけれど、残り僅かな滞在時間だけでも、なるべく母と一緒にいよう。
あとはWhatsAppでビデオ通話しましょうね、お母さん。