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Dear. 永遠のこどもたち

私の世界の終わりはとても素直なものだった。
きちんと理解出来たのだ、終わる事を。
全て受け入れた結果が今ここにある事実。
彼の耳に詰め込んだ戯言が、彼の身体に宿した私の全てがこの身を滅ぼした。
ただそれだけの事。

「神様なんていない」
神に仕える彼にそう言い続けたのは私だ。
見ていないなら何だって出来るでしょ、と唆し続けた。
私は彼の自制を崩す事が好きだった。
涼しく整った顔をクシャクシャにする事に生きがいがあった。
だから彼の元に通い続けるのは実に愉快だった。

彼は度々涙を流した。
君は酷い人だ、と。
「私の愉快は貴方には辛いのね」
小さく蹲る彼を私は精一杯の優しさを保って抱き締める。そうすると不思議に彼はそれ以上拒む事を知らない。
「愛しているわ」
その言葉で安心して眠りにつく彼はいつも寂しかったのだろうか。

この部屋に二人きり。
外の世界なんか知りたくない。
これは愛ではなく猛烈な独占欲。
それからも私達は神の存在を否定し続けた。
神様は君かもしれない、と口に出す日には彼の頬を強く張る。
「ホラ、神様、見てるんじゃない?」
そう笑いながらキスをする私に彼は顔を歪め、やがて何かに赦しを乞う。
あぁ、なんて愉快。

彼はよく私の中で「あたたかい」と言った。
別れる際には「ありがとう」と。
私にはその言葉が愛おしくてたまらなかった。
常に怯えている彼から聞くことの出来る、数少ない陽の言葉。
理由など要らない。
好意とはそういうものなのだ。

私はかつての自分を覚えていない。
ここにいる私が私の全てである事に自信があった。
「思い出すのは忘れたからでしょ」
あぁ、そうなのかもしれない。
彼の全てだって何度でも忘れてやるんだから。
ここにいる彼が彼の全て。
私は神様なんて本当に知らない。
そして彼の上で私は華麗に踊るのよ。
貴方がいるから私がいるの。
あぁ、何処にもいかないで、可愛い貴方…
あはは、あはは。

その日は珍しく彼の笑顔を見た。
私の身体はもう動かない。
これがラストダンスだったなんてね。
もうこれから私は貴方を愛せない。
後頭部から溢れる血が彼の膝下に溜まっていく。
血溜まりに触れながら「あたたかいね、ありがとう」と言う彼に不思議と涙が流れた。
彼は最後に心から私を愛してくれたんだろう。
後悔など無い、恨みも無い。
動かぬ身体が浮遊感を増していく。
脳内で鳴り続ける鐘の音が妙にうるさかった。

そして神に祈りながら部屋を去る彼の後ろ姿を、世界の終わりを、私は素直に受け入れた。
これは、ただそれだけの話。

あぁ、おやすみ世界。
どうか醒めない夢を私に下さい。

〈完〉


※“お茶代” 12月課題 by.脱輪氏
『脱輪の音楽からインスピレーションした何かを書け』に参加しました。

こちらは“Dear”が付かない方の作品を投稿する為に執筆し始めた作品になりますが、こちらはこちらでお気に入りです。
2つの作品の内容は繋がりがありそうでありませんが、繋がりをもって解釈していただいても良い感じです。お好きな方でよろしくお願いします(ぺこり)


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