見出し画像

バケモノの子観劇記@名古屋四季劇場①


 バケ子観劇ウロウロ記事の続きである。
 どこにも忖度しないガンガンのネタバレ記事なので真っ新で初見を楽しみたい方は今すぐこのページを閉じて広島キャッツのPVを見て欲しい。
 …なんでキャッツなん?

 前回の記事はこちら↓

 前回記事にキャッツ担の友から「全然本編の感想に到達してなくて笑った」というありがたいツッコミをいただいている。

 さて今回座ったのは1階上手ブロック。

1階前方上手ブロックから見た景色。

 キャストはこちら。

2024/09/11
名古屋四季劇場 初日

 席はギリギリS席だったのだが、あとひとつ壁側にずれていたら上手の芝居で見えないところがいくつかあったように思う。座席区分けの妙技を見た。

 『バケモノの子』についてはド初見だ。知識ゼロ、ライオンキング登板キャストが多いのでめっちゃデカい声で歌うのだろう、くらいの知識で観劇したのだが圧倒された。劇団四季の掲げる「作品主義」が随所にパンパンに詰まっている。

 何はともあれ世界観の作り込みが最初から最後まですごい。なんてったって二重盆である。セットが豪華でグルグル回るので三重盆かと思ったくらい、セットそのものがイキイキしている。昨今の資材高騰の煽りを受けてかどの新作舞台も大道具、舞台装置はどんどん抽象化してシンプルになっている印象だがバケモノの子は違う。大道具も小道具も作り込みが細部まで美しい。そしてやはりセットが動くと物語も大きく動いているように見えて緩急がつくのでいい。

 舞台効果と映像も演技、ストーリーと密接に噛み合っている。『バケモノの子』といえば熊徹と猪王山のビーストモードでの対決がひとつの見どころとしてよく紹介されているので「バトルシーンはここが最大の見せ場なんだ、なるほどすごいや!」なんてライトに楽しんでいたら後半、一郎彦の作り上げた白鯨とのバトルシーンの美しさにぶったまげた。よく舞台でこの表現が出来たなとか一郎彦の繊細さが垣間見える感じが素晴らしいとかこれよくデザインしたなとかこれ動かすのすごいなとかこれロングランで毎日やるのマジ?とかもう脳が色んなことを考えたが一言コメントするなら「ファーーー」である。「ファーーー」しか言えない。観劇中は声を出してはいけないので無声「ファーーー」状態だ。
 セットの動きはどことなく四季の昭和三部作のひとつである『異国の丘』を彷彿とさせる。しかし表現はずっと華やか。シックで堅実なイメージが強い四季のオリジナル作品でここまで突き抜けて明るい舞台が見られるとは思ってなかったので驚いた。

 パペットのビーストモードは獅子舞にビジュアルも機構も似ているからだろうか、日本っぽくてとても好きなデザインだし肌に合う。前腕を他の演者に託して熊徹と猪王山は尻尾側で強そうに立って演技できるのは強そうで良いと思う。

 衣装と特殊メイクは色彩鮮やかで牧歌的な渋天街と人工的な彩度とバラバラのカテゴリが行き交う渋谷という世界観の切り替えが見やすいな、と思った。渋天街の衣装も渋谷ハロウィンのコスプレも本当に居そうで可愛い。いや、渋天街は行ったことないから分かんないけど。男子高校生にニット帽被らせたのは個人的に最高である。あと前の記事でも書いたが九太の靴が色も形もとても好みなので普通に欲しい。後半、九太に呼び出された楓がデート服の王道である白地のワンピースにキラキラしたヒールを履いてきたのが良かった。ちょっとオシャレしてニコニコしてきた楓にそんなこと全く頓着しない九太が「もう会えないかもしれない」とか言いやがって楓の表情を曇らせたので「九太…お前…そこになおれ」と奥歯を噛み締めた。そんな場合じゃないのはよく分かっているが楓が可愛すぎた。

 照明は特に九太が成長するところの陽射しが暖かくも力強く熊徹庵を照らしているところが今でも強く印象に残っている。全体的に優しさを感じる照明になっているのではないだろうか。だからこそ一郎彦のシーンなど暗い表現のところが浮き彫りになる。
 映像がここまで多用されているのも四季では初めて見た。まさか何食わぬ顔で舞台と客席を仕切っていた幕がスクリーンでそのまま映像を映し、アニメ的なオープニングで引き込んでくるとは思わなかった。個人的には日本らしいし、今っぽさもあって好きだ。先に載せた画像を見ると中央部のスクリーンが半円のような形に膨らんでいるのがお分かりいただけると思うが、それがまるで捲り掛けの本のようでそれも好きだなぁと思う。
 照明と映像についてはそのバランスも含めてもう一度ちゃんと見たい。幕間に「休憩五分」とかちょっと怖い字体でカウントダウンしてて面白かった。その怖い字体のカウントダウンについては二幕冒頭のハロウィンにつながっていくのかな、とも思ったり。
 幕間の劇場に渋谷の喧騒音が少しずつ流れ始め、それが次第に大きくなり、お巡りさんが出てきて幕が開く2幕の導入はとても好みだ。

 音響、照明、映像、そして舞台セットなどの舞台美術の噛み合いっぷりがさすが劇団四季だった。スタッフ含めて全員がスター。その日のスタッフのキャスボも欲しいくらいである。あ、でも外部にヘッドハンティングされても困るので隠しておこうか?(誰目線なの)

 そんな感じで『バケモノの子』は劇団四季の本気が全面に出た舞台だった。そして全体的に感性が若い。抜け感があってパワフル。そういったハード面の力に引っ張られてストーリーが流れていく舞台という印象。舞台はみんなで作っているんだという結束力が強く見える。とにもかくにも素晴らしく、圧倒された2時間45分だった。

 カーテンコールで、演者さんたちが現れる。素晴らしい舞台に観客は惜しみない喝采を贈る。3度の挨拶ののち、「胸の中の剣」を全員でワンコーラス歌ってくれて幕が降りる。客電がつき、閉幕アナウンスが流れた。
 しかし初日なんて四季の猛者しかいないので「我々が初日の熱い舞台を見せられてたった3度のカテコでスタオベした途端に帰るわけがないだろう。このまま終われるとでも思ったか」と言わんばかりにパンパン拍手が鳴り止まず「ああもう分かった分かった」と言わんばかりにもう一度幕が上がったのもまた四季らしくて良かった。そしてそのあと再び幕が降りた時にはあっさり満足して帰る観客もまた四季らしくて、やはり舞台は劇場で見るもんだな、と改めて思い直した。

 舞台の印象の話だけで随分書いてしまったので、内容の感想についてはまた次の記事で。


いいなと思ったら応援しよう!

高矢 色
サポートをくださる方、ありがとうございます!