【二次創作】マキャヴィティ
足取りが、重い。
そして少し、怒ってもいる。
鞄の中の写真、それを編集者に見せた時の反応を思い出す。何が「うちの紙面にそんな写真載せられないよ」だ、ボケカスが、ちゃんと俺の写真見た?その眼鏡、レンズ入ってますかハァーン?……なんて言えるわけもなく、ただ右足と左足を交互に出し続ける。落ち着くまで、この気持ちが落ち着くまでもう、ただ歩いていたい。
カメラとペンで世界を変えるジャーナリストになる。
そんな夢は持った途端に踏み潰されて、それでもなんとかしがみつきたくて、安いルポライターなんてやっているけれど全部ゴミ箱にぶち込んでおしまいにしたい日も多い。どうやら今日はそんなよくある一日のようだ。
「にゃあ」
歩き疲れて公園のベンチに座った途端、同じベンチで丸まっていた猫に挨拶された。猫と赤児には警戒されたことしかないのに珍しい、そう思いながら微妙な距離感の猫を見る。
黄味がかった色で子猫ではなさそうだ。野良猫のようだが俺から逃げないあたりどこかの通い猫か?人懐こいのは間違いない。
近くの店でコーラとチキンを買う。チキンを裂いて猫に分ける。あげていいかどうかは知らん。今がいいならそれでいいだろ。猫は美味そうにむにゃむにゃ食べている。コーラを飲みながらその様を眺める。
食べ終わった猫は再びこちらに向かってにゃんと鳴いた。ごちそうさま、だろうか。義理堅い奴だ。
「おまえ、よく喋るな。」
思わず俺も返事をする。相手が猫でも会話をすると少し心が晴れるようだ。なんとなく気持ちが落ち着いたことに気づく。
俺は鞄からさっき突っ返された写真の束を取り出すと、腕を伸ばして近くのゴミ箱に捨てた。猫はその様子をじっと見ている。レンズみたいな綺麗でまんまるの目だ。
「いんだよ、もう要らねんだわ。次のスクープを探すよ。目に止まるような奴を。」
あぁ、これは自分に言い聞かせてるな。猫に相手にしてもらって気が済むなんてめでたい奴だ。
「ありがとうな。」
気持ちの切り替えが出来た礼を猫に伝えるが、当たり前の話、猫には伝わってない。猫はちょっと俺を見てから近づき、鞄に手をちょいと入れてきた。
「いや、もうチキンはないぞ?」
カメラを引っかかれたら大変だ。鞄を体に引き寄せる。
猫は驚くでも怒るでもなく体を引いて去っていった。猫を見送ってコーラを飲み、チキンを食べる。
実は、チキンは、まだあった。
***
「にゃあ」
次の日、聞き覚えのある声に振り返ると昨日の猫がいた。
昨日の公園から少しだけ離れたゴミ捨て場近くの裏路地。この辺りが縄張りなのかな、と思う。
「お」
おう、と猫相手に律儀に返事しようとする俺も変わってはいるが、その後のこの猫の行動も奇異だった。
俺を見るや否や足に頭をぐいぐい押し付け、にゃあにゃあと鳴き、「ついてこいよ」と言わんばかりに振り返りつつ歩き出したのだ。
なんだろう。まぁ暇なのでついていく。
映画だと景色の綺麗な場所に案内されたりするよな、なんて考えながらついて行くと、警察の事情聴取の現場へ遭遇した。
え?ここ?と猫を見ると、また猫もこちらを見ている。
「……なんですかあなた。」
警察が怪訝そうに俺を見る。そりゃそうだ。
「いや、猫についてきただけで。」
この返しもどうなんだ。
「あぁ、あんた、この前うちの蛇口直してくれた坊やだろ。」
いや、坊やという歳では…と思いながら声の主を見る。
この女性は……そうだ、少し前にそこの蛇口が壊れて周囲を水浸しにしていたのを見つけてたまたま直した家だと気づく。その時のこの女性の大騒ぎっぷりは見逃せなかったし許されるなら写真に撮りたいユーモア溢れる姿だった……その日のことを思い出す。
「そのあと蛇口の調子はどう?」
いかにも私はこの女性の知り合いですよ、怪しいものではありません、と警察に知らしめるために親しげに話す。蛇口を直してよかった。過去の俺、ナイス手柄だ。
「もうバッチリよ!あの時はありがとうねぇ!」
女性もニコニコ返事をしてくれる。
「じゃあ私はもう行くよ。戸締りをちゃんとしてね。」
俺が怪しい者ではないと判断したようで、警察はそう言って帰っていった。女性はありがとね、とその背中に手を振る。
「何かあったの?」
このシチュエーションはジャーナリスト魂が疼くというものだ。聞かない手はない。警察の背中が見えなくなるや否や単刀直入に聞く。
「どうもこうもないよ、うちに泥棒が入ってねぇ……そういえばアンタ、この前会った時にライターだって言ってたよね?見ていっておくれよ。」
「いやいや…さっき警察に戸締りに気をつけろ、って言われたとこでしょ?俺みたいな知らん奴、ホイホイ家に入れちゃダメじゃない?」
「蛇口直してくれる人に悪い人はいないんだよ、ほら、取材取材。」
現場は女性の寝室だった。
ベッドサイドのオシャレに飾られたスペースに置かれた綺麗な宝石箱。その留め金具が何かで引っかかれて本体から外されている。これではもう蓋が閉まらないだろう。
「もったいない。」
高価なものを持たない俺の素直な感想だ。許可を得て写真を撮る。
「まぁ入れ物自体は安物だから。気に入ってたから残念だけどねぇ。」
女性は諦め顔ではあるがそこまで悲壮感はなく、それよりも、と会話を続けた。
「これ、妙なのがねぇ、宝石箱壊しといてこの中のものは全部無事なんだよ。」
「えっ?何も盗られていないってこと?」
「いや、盗られたのは盗られたんだよ。ほら、そっち、窓際の棚の上にアクセサリーを置いた小皿があるだろ?そこにあったガラス細工のやっすい指輪がなくなったんだ。」
指さされた方を見る。窓が少し開いている。
「窓はあなたが開けたの?」
窓際に歩み寄り、写真を撮る。
「いや、窓は閉めておいたよ。ただ鍵かけるのは忘れちゃったみたいで。お巡りさんにも注意されちゃったよ。カラスが摘んでいったのかねぇ。あいつら、光るものが好きだって言うじゃないか。」
アクセサリーを置いた小皿はネックレスと指輪が絡まってぐちゃぐちゃだ。女性もこちら側に歩み寄り、話を続ける。
「でもおかしいだろ?こっちの小皿はガラクタみたいな普段使いしか置いてないんだ。あっちの宝石箱に入れてあるのは本物の石を使った〝とっておき〟ばかりなんだよ。わざわざ壊したならそっちを持って行きゃあしないかい?」
「うーん、確かに。」
返事をしながら何枚か写真を撮る。
「ん?」
小皿のネックレスに違和感を覚え、よく見てみる。何か動物の毛が絡まっているみたいだ。摘んで見ようと思ったが、勝手に触るのは良くないと女性に話しかけようとするや否や、女性が思いついたように言う。
「あっ、何か飲むかい?喉乾いたろう。コーヒーでも淹れようかね?写真を撮り終えたらリビングへおいで。取材にはなんでも答えるよ。」
そう一方的に言い放ち、女性は俺を一人残してドアの向こうに消えていった。なんて警戒心のない人だ。これじゃあ泥棒も入りたい放題であろう。
何かあって疑われては嫌だ。幾つか写真を撮って早々に撮影を切り上げ、リビングに向かう。
そのあと話を聞き--取材というより女性の茶飲みマシンガントークだったが--また何かあったら連絡して欲しいと名刺を渡して帰ってきた。
その名刺は程なく効力を発揮することとなる。翌日、早速連絡が来たのだ。女性の知り合いの工場で鍵が壊されてしまったと聞き、急ぎ足で現場へ向かった。
「バンダナ作ってる工場なんだけどね。帰りにちゃんと施錠しといたのに倉庫の鍵が開いてたんだって。」
件の女性がこの会社の社長を紹介してくれた。許可を得て撮影する。鍵周りにひっかき傷のような跡がある。
「何を盗られたんですか?」
「それが……被害はなくてねぇ……」
「え?置いてあった現金とか、出荷予定の商品なんかは無事だったんですか?」
「そうなんですよ。だから警察は呼んだけど何を話していいか分からなくて困っちゃいましたよ。」
「……ここがなんだか乱れてますが。」
写真を撮りながら聞いてみる。布がたくさん入ったカゴが幾つか並んでいる中、ひとつだけ明らかに乱れた場所がある。
「あぁ、それは処分品のカゴ。廃棄処分するものです。」
確かによく見ればカットが雑なもの、糸が飛び出たものなど、どれも商品になりそうにないものばかりだ。アップでその写真を撮り、ふと気づいて社長に問う。
「この工場、何か飼ってます?」
「いいえ?どうして?」
「これ、動物の毛ですよね?」
社長を手招きして確認してもらう。つまみあげられたのは、黄色のような、クリーム色のような、細くて短い毛と、赤くて少し太めの毛。
「あぁ、本当ですね。これは猫の毛かな?」
「野良猫が入ったんでしょうか?」
「この近くのゴミ捨て場にたくさんいるから、倉庫の扉が開いてるうちに入ったのかもしれない。」
それから少し話を聞き、礼を言ってその場を後にした。
「にゃん」
そこから数歩進んだところであの声に足を止める。
「またお前か。」
そこには例の黄色い猫がいた。そしてまたぐいぐいと足に額を押しつけて「ついてこい」と俺を誘う。
「分かった、分かったよ。」
暇な俺はまた着いていく。
連れてこられた場所はあの日の新聞屋だった。
「猫ぉ……」
この猫の名前を知らないので、いきおい生物学上の分類名で呼ぶ。
「あのな、俺はここに来る予定はなくってぇ……」
「あっ」
「あっ」
そこでドアから出てきた人物と目が合う。この眼鏡は、俺を軽くあしらったあのボケカス眼鏡だな?普通に気まずい。
「いやぁ!君は!」
しかしそんな俺の気まずさをよそに、ボケカス眼鏡は満面の笑顔で話しかけてきた。
「君は!あれだ!この前の!うんうん、そうだ、そうだろう?」
「……たぶんそうです。」
「あぁそうだ!やっぱりそうだ!いやね?君、いやー、連絡取りたいと思ってたんだよー!いや、早速本題だけどね?君、うちで記事を書かないかい?と、言っても新聞じゃなくて地域密着型のフリーペーパーなんだけど、いやね?上からフリーペーパーを出そうって話は前からあったんだけど、進展がなくて忘れ……あ、いや、その、色々あってね?今そっちに回せる記者がいなくて……あ、いや、そうじゃなくて、この前来てくれた時にほら、君の写真いいなー、と思ったけど、ね?名刺をね?もらい忘れちゃったもんだからね?連絡が取れなくて、参ってたんだよー!ハハハ!ちょっと急ですまないけど、もし良かったらあの時の写真で早速記事を書いてくれないか?」
「あっ、ハイ、えーと……」
あの日の記憶を失ったのかと思うほど捏造されたマシンガントークを浴びながら、どう返事しようか脳味噌を回す。
「あの、あの時の写真はもう他に売っちゃいましてぇ……」
動揺しつつ嘘をついて見栄を張った。この掌クルクルボケカス眼鏡が……しかし癪には障るが仕事は欲しい。考えろ、考えろ……
足元の猫を見る。相変わらずレンズのようなまんまるな目でこちらを見ている。あ、そうだ。
「これ、最新のニュースなんですが『何も盗らない泥棒』の話題なんでどうです?地域の防犯意識向上も兼ねて」
「おお!いいね!そういう話は大歓迎だよ!ちょっとオフィスで話を聞いてもいいかな?こっちこっち、さあさあ!」
強引にボケカス眼鏡に背中を押される。少し振り返って猫を探したがその時にはもう居なかった。
***
それから数日後、俺はあの公園で写真を見ていた。あの宝石箱の写真、バンダナ工場の写真--そして、つい最近、近所の番犬が喉を引き裂かれ死んでいた事件だ。
現場は凄惨だった。大型犬だったので血溜まりが家の前まで広がっていた。愛犬家だった飼い主は憔悴しきっていたし、近所の子供は怯えて親の陰に隠れながら遠巻きに歩いていく。警察も思わず「これはひどいな」と呟いていたし、俺もなるべく感情を殺しながら写真を撮った。
そして写真を撮り終わった頃、あの声が聞こえたのだ。
「にゃん」
当たり前みたいにあの猫がいた、そしていつものようにぐりぐりと頭を押し付けようとこちらに向かってきたところで、俺は、逃げた。
これは、お前がやったのか?
「なぁ」
隣には例の黄色い猫がいる。俺が裂いて寄越したチキンをにゃむにゃむ言いながら食べている。
「これ、ひょっとしてお前か?」
猫は知らんぷりでにゃむにゃむ食べている。猫と会話しようなんて、自分でも随分馬鹿げてるな、と思いながら、話を続ける。
「この三つの現場、共通点があるんだ。ひとつは、引っ掻き傷があること。もうひとつは、動物の毛が落ちていること。そしてもうひとつは、その現場付近で必ずお前が俺に話しかけてきたことだ」
猫はにゃむにゃむとチキンを食べている。
「で、宝石箱とバンダナ工場は間違いなくお前の仕業だって今確信したよ。お前、鍵壊しただろ?爪、なんでそんなに欠けてるの?」
猫が、チキンにかぶりつくのをやめた。口の中身を飲み下し、ぺろぺろと前足を舐め始める。
「……はは、ピッキングができる猫がいるなんて信じられないけどね……でもね?もしそうだったとしてよ、お前、物はひとつも盗ってないんじゃない?お前のしたことって、宝石箱と倉庫の鍵を壊したことだけだろ?」
猫は視線を合わせない。俺も視線を合わせない。
「バンダナ工場にあった猫の毛は、クリームがかった黄色の毛と赤毛の二種類だった。最初はお前と他の猫がやったのかな、と思ったけど、お前、いつも単独行動だもんな?で、宝石箱の事件の方でアクセサリーのところに落ちていたのもバンダナ工場と同じクリーム色の毛だったんだ。よく見ればどっちもお前の体の色とは少し違うんだよね。だから思ったんだ。お前、何にも盗ってないな、って。指輪にもバンダナにも興味なさそうだしな。だから盗ったのは、また別の奴。」
猫は再び、チキンを食べ始める。
「……なぁ、お前、ちょっとイタズラして、俺にスクープ掴ませようとしてるだろ?……猫が?って今でも少し思っちゃうけどさ。……でも、お前の目って、なんていうか、頭良さそうで、優しそうで、人のために何かしそうな気がするんだよ。だから、本格的に困らない程度のイタズラをして、俺をそこに案内してくれたのかな、って。」
辺りに人通りはない。そろそろ陽が落ちて、月も登ろうという頃合いだ。
空を見る。そろそろ満月だったような気がする。猫と対等に話したりしちゃうのは、たぶんその満月のせいだ。
「でね、だからこそ、この犬の事件は、お前じゃないと思うんだ。」
猫が再び肉から口を離した。
「この犬、確かに何か動物に喉を引き裂かれて死んでいるんだけど……猫にできる芸当じゃないと思うんだ。だから、これはお前じゃないよな?確かに動物の毛も落ちていたけど、血で何色かはよく分からなくて……でも、お前じゃないよね?お前、確かに器用みたいだし、思い切りも良さそうだけど、でも、なんにも悪いことしてない相手に、こんな酷いことは、しないよな?」
猫は俺を見る。
「お前、あの日、あそこでどこに俺を連れていきたかったんだ」
俺も猫を見る。お互い、お互いのレンズで真実を映し出そうとするみたいに。
猫がチキンから前足を離した。爪に赤いものが見える、ような気もするけれど、そこにフォーカスする前に猫はくるりと背を向けて行ってしまった。
「……は。」
バカみたいだ。誰が?俺が。
ベンチには食べかけの肉が少しだけ残っている。
***
次の日、またあの女性から連絡を貰って現場に向かった。まったく、あの女性の周りには事件が起きすぎるな、と思いつつ、気が塞ぎそうな時は体を動かしていられることがありがたい。早速女性に紹介してもらい顔を合わせる。
「うわぁ、荒らされてますねぇ。」
「足の踏み場もないとはこのことだねぇ。」
案内された地下室は荒れ放題で足の踏み場もない。
「……いやこれ、荒らされたのか荒れてたのか、ちょっと私も分からなくて……」
この家の主人が苦笑いで答える。
「なんせここは離れで普段からそこまで手入れしているわけではないものですから。」
「盗られたものは?」
「Tシャツを一枚盗られました!」
「はっきり分かるんですか!?」
「この荒れまくった部屋の中で!?」
女性が俺の気持ちを代弁してくれた。
「ええ!ここは私の趣味の物置小屋ですから!全部把握してます!盗られたのは20代頃にハマっていたバンドのツアーTシャツですね!いや、マイナーなバンドだから値打ちもの、というわけでもないけれど私にとっては思い出の品で、あれは伝説と呼ばれる……」
もういいよ、と止めようとする女性を意に介さずペラペラと話す主人を受け流しながら天井を見上げると明かり取りの窓の横に穴が空いている。
「あそこ、穴開いてますね?」
「あれ、本当だ、いつの間に。」
主人が話を止めた。ホッとする。
「見に行きましょうよ。」
女性が誘う。二度と話を再開させまいという気概を感じる。
我々は地上へ上がり、窓のところまで歩く。
「あっ、瓦が落ちてる!」
主人が窓へ駆け寄った。赤い屋根瓦がひとつ、剥がれている。俺は近づきつつカメラを構える。
赤い屋根瓦には引っ掻き傷がついていた。
「……あの、この泥棒騒ぎっていつでした?」
「いつだったかねぇ……」
考える女性の隣で主人がはっと思い出す。
「あぁ、裏のお宅でワンちゃんが亡くなった日だ。あれにはびっくりしたね、ひどい死に方しちゃって……まだ犯人は分かってないそうだし、ご主人が不憫だよ……」
「そうだった。あの日アンタに電話したけど全然連絡がつかなくて……今日やっとアンタとつながったんだよ。なに、忙しかったのかい?」
あぁ、そうか。こっちだったんだ。
あの爪の赤はこのペンキの赤だったのか。
「うん、そう。忙しくて。」
上の空で答えながらシャッターを切る。
「真実、ってのはなかなか見えないもんだね。」
「何の話だい?」
「なに、こっちの話。」
その後、俺の記事は問題なくフリーペーパーに掲載されて好評を博し、そこから地域のコラム、ラジオ番組の出演など、ちょこちょこと仕事が舞い込むようになってきた。あの女性からは今でも時々連絡がくるし、最近はオーブンから骨付き肉を盗んでいく豪胆な猫がいる、なんて噂も追ったりしているけど、あの猫にはあれ以来もう会ってない。
あの公園を通るたび、コーラとチキンを買って座ってみようか、と思う。
でももし会えなかったら。そう考えると躊躇ってしまってベンチを遠目に通り過ぎる日々を送っている。