エルコスの祈り観劇記@配信

 劇団四季のファミリーミュージカル『エルコスの祈り』が配信されているので購入した。↓

『エルコスの祈り』期間限定 オンデマンド配信決定!|最新ニュース|劇団四季 https://www.shiki.jp/navi/news/renewinfo/036030.html

 すごくどうでもいいがnoteの埋め込み機能がどうしても上手く使いこなせない。

 エルコスを見るのは新タイトルになってから初めてだ。前に見たのはおそらく30年以上前。当時エルコスだった秋本みな子さんが今『ウィキッド』でマダムモリブルをやっているのだから時の流れは早すぎである。そしてまだ四季に秋本さんがいてくれて嬉しい。

 そんなわけで四半世紀以上経過しての再観劇であったが結構色々覚えていた。やはり好きなものはなかなか忘れられない。当時も感激したが今見てもボロボロ泣ける。
 「誰かのために生きることはない。あなたはあなたを愛し、信じる幸せを握り続けなさい」というメッセージがド直球のセリフとと火の玉ストレートの脚本で心臓めがけて飛んでくるのでそんなもんはもう泣くしかないのである。浅利慶太氏、さては子供が大好きだな?

 改めて見て気づいたのは思ったよりダンスが多い。『ウエスト・サイド・ストーリー』くらい踊っている気がする。ポップスの細かい音ノリの振り付けと、ミュージカルらしい伸びやかで体を開くナンバーがそれぞれちゃんと融和していて見応えがある。
 あと「未来」の描写が私の小さい頃から変わっていなくて懐かしい気持ちになった。よくある機械のピコピコ音、点滅する光、合成声のアナウンスにメタリック気味の服、という未来の描写に「わー!昔よく見た未来だー!」と感激してしまった。何よ、昔よく見た未来って。エルコスが超能力を使う時のパワワワ…みたいな音も懐かしい超能力の音だった。超能力に懐かしいとかある?

 あらすじはざっくり言うと「大人から見放された子供の集まる学園とは名ばかりの収容施設に送られてきた最新型のアンドロイドが子供たちに心の幸せを取り戻す」話だ。
 子供の頃に見た時はあの白いふわふわワンピースのエルコスが子供たちを慈しみ奮闘する姿を見て「なんて素敵なロボットなんだ」と思ったもんだが今見るとエルコスを作ったストーン博士の想いの強さに気づく。彼が本当に心から子供を愛し、全ての子供達に幸せに生きてほしくてエルコスを作り、そしてエルコスのこともとても大切に思っているのが分かる。だからこそユートピア学園の子供達が幸せの掴み方を覚えたのと引き換えにエルコスを失った彼の気持ちを考えるともう何とも言えない。最後にエルコスが「私、もっといろんなことをしてあげられたような気がして」とストーン博士に言うが、それもストーン博士のデータが導き出した言葉だとすればきっと彼は誰一人余すことなく「圧倒的な愛」を与えたかったのだろう。愛がデカい。そして形にできたのがすごい。

 そんな彼の作ったエルコスが可愛い。真っ白なワンピースにお花のカチューシャという見た目と走る姿が徒競走なのはどんなデータをインプットされたのか気になる。可愛い、あの走り方は可愛い。あと「低い声で喋れ」と言われて「分かりやした!」と任侠映画さながらのポーズと台詞が出るデータ元はどこなの。ストーン博士、エルコス作りながら『仁義なき戦い』でも見てたの?

 エルコスの個人的ハイライトはピンチを助けてくれた子供たちに「ありがとう」と言ったあと、感謝を向けられたことに戸惑う生徒たちに「使い方、合ってるでしょう?」と微笑んだところだ。「私はロボットだから言葉の使い方はあなたたちの方が知っているはず」と全てを決めつけられてきた子供たちに正しさを委ねるようなこのシーンはとてもいい。ひとつ視界が晴れるような気持ちになる。

 面白かったシーンはいくつかあるが、声を出して笑ってしまったのが途中出てきた「国民体操」がどう聞いてもマイナー進行のラジオ体操だったところだ。そりゃ確かに国民体操だけども。
 そこに割り込んできたエルコスが「体を大きく開いてー、アラベスクー」と言った途端に子供たちが全員アラベスクのポーズをしたのもまた面白い。ユートピア学園は体育の授業でバレエでもやっているのか。私には無理だわ。
 あとクライマックスでみんなでエルコスを探すところで普段杖をついている理事長が杖もつかずに走っていて笑った。理事長からもエルコスが愛されていたことがよく分かる。そのシーンでエルコスとジョンが手をつないで走っているが、私は四季の「2人で手を繋いで真顔で走るシーン」が好きなので何回も出てきて嬉しい。

 ダニエラたち悪だくみ3人組は「やりがいのある役だろうなぁ」と思いながら見入ってしまった。特にダニエラの周りを引っ張っていく芝居は大変そうだ。途中演歌も歌うし大暴れもするし大変。子供の頃からずっと一番記憶に残っているシーンがダニエラの演歌シーンなので相変わらずで嬉しかった。ダニエラは「ユートピア学園は私の青春なんです」と言っていたし、身寄りのない自分の居場所だった、とも言っているから彼女は彼女でこの学園に思い入れはあるし、尽くしてきたのだろう。まぁ子供の相手って大変だもんね。なんか色々雑になっちゃうし手放したくなる気持ちも分かるわ。

 そんな悪だくみ3人組を擁するユートピア学園の理事長だが、彼は彼で子供に良質な環境を与えたい気持ちに嘘はなかったのだと思う。経営の才はあるようだし、取引先も悪くなさそうなのでどうかその事業は今後も続けてほしい。担当の営業マンもそのままでいいと思うよ。でもあの謎の体罰ロボットと終盤に出てきたクワガタのオバケみたいな乗り物は一見ユーモラスなのに凶悪でいやだから処分してほしい。見た感じ古そうなので減価償却も終わった頃だろうしもうお役御免でよかろうもん。

 このミュージカルは台詞がどれも暖かくて優しいのだが、ラストでエルコスが言った「私はみんなの忘却の湖を泳いで、心を拾い集めている、機械です」と言う台詞が美しすぎて泣いた。こんな綺麗な台詞この世に存在します?いや、してるから喋っているわけだがそれにしたって美しい。「私のことを愛してくれるならデータ元であるあなたはあなたを愛せるはずよ」という想いがこの言葉には込められているように思う。
 消滅する、というラストも「もう一度直せばいいじゃん」というツッコミを封じていて見事だ。同じデータを使ってもう1体エルコスを作ったとしてもそれはエルコスではない。

 このミュージカルはずっと子供達のために上演され続けていてほしい。配信もいいけれど、目の前で生身の演者さんたちが動くのを見ながら素直に何かを感じ取ってほしい。照明も、音響も、衣装も舞台セットたちも、みんなあなたを幸せに導くためにあるんだよ、いろんな大人がいるけれど、少なくともこの作品はみんながあなたのために上演しているよ、というのが伝わりそうな気がする。

 そして配信は1週間見放題なのでとにかく時間の許す限り見倒そうと思う。

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