マンカストラップ突然歌うやん、という話

キャッツばっかり見ているのでキャッツの話ばかりしてしまう。CDも新旧国問わず聴いてしまう。ここ最近キャッツだらけ。この人生は夢だらけ。

ところで新演出からランパスのナンバーが追加された。初演まもなく姿を消したあの喧嘩猫のナンバーだ。
最初こそ突然の青い猫に「青て…マントて…」と動揺したが慣れた今、ランパスキャットは好きなナンバーのひとつである。まぁ全部好きなナンバーなんだけどねキャッツ。

しかし慣れてくると新たに気になるところが出てくるものである。四季オタの友が言った。
「マンカス、いきなりランパスの話するやん?」
「ほんとそれなのよ」
ほんとそれなのである。

デュト様が現れる。厳かな静寂が立ち込め、ジェリクルリーダーを迎えたジェリクル一同にマンカスが言う。手で皆を制し、凛とした声で。
「舞踏会の準備を!」
真剣な面持ちで居住まいを改めるジェリクル、高揚感、場が張り詰める。

するとマンカスが言うのだ。
「その間に物語をひとつ」

なんでよ。
ってか、え?急に何?
今舞踏会するってわりとしっかり目にみんなに言ったじゃん、どしたん?

そんなこちらの混乱も全く意に介さずマンカスは腕をクロスし、すごくカッコつけながら歌い続ける。
周りの猫もどこに心を置いていいか分からない感じに見える。急に様子が変わったマンカスを気にしてか隣に来たカッサも話しかけられない雰囲気を察した様子だ。
さらにマンカスは周りを牽制して回り、ランパスキャットの物語を歌い始める。

猫たちは何が始まるのか教え給え状態だ。

しかしデュト様はなんとなく慣れた風情でマンカスを見ている。よくあるのだろうか。ええよくある異常なことなのよ、なのだろうか。

そんなデュト様の表情を見たらこちらも「そうか、そんなに話したいなら聞こうじゃないか」と言う気持ちになってくる。やりたいだけやらせれば気が済むのだ。

マンカスは歌い続け、猫たちのワンキャンを満足そうに聞き、ノリのいいジェリクルたちが盛り上がるとストップと言い放った。焚き付けたのは君やでマンカス。

そして現れるランパスキャット。青い体に青いマント、白い被り物に光るメガネ。キメッキメである。そしてキメッキメで踊る。マンカスとランパスがキメッキメで頷き、再びランパスがキメッキメで踊る。

このいでたちとダンスはどちら考案なのだろう。ノリノリでマンカスが用意してランパスに着せたとしたら相当面白いし、ランパス本猫が「喧嘩猫っつーくらいだからやっぱ派手っしょ!」とか思いながら用意したならそれも面白い。そしてセンスが爆発している。パリコレに出て大成功をおさめてほしい。

少し話がそれるが、私はこの物語のランパスとジェリクルとしてそこにいるランパスは同名の別猫だと考えている。
たぶんマンカスが「ランパスキャットっていうこういう猫がいてさぁ」とか話したら「えー!その名前めっちゃいいスね、俺もらいますわ」とか言ってランパスが勝手に名乗りはじめたのだと思っている。私の中のランパスは相当チャラい。チャラくてシャーシャー踊る猫、それがランパスキャット。

やがてカッコよく踊るランパスがカッコよくポーズを決め、ジェリクルたちが賛美し、デュト様が「犬もジェリクルも土に還るね」と大人っぽく〆てこのナンバーは終わる。

キャッツの猫は勿論みんな好きだが、私はとりわけマンカスが好きだ。一時期はマンカス目当てにキャッツを見に行ってたほどである。

これは私の妄想でしかないが、マンカスはそこそこ上流の厳粛なご家庭で大切に飼われていたのではないかという気がする。どことなく品があり、正義感が強く、素直すぎるくらい素直で若干ポンコツなところがあるからだ。
そして捨てられたのではなく、何かの拍子に飼い主とはぐれて家に帰れなくなってしまった結果、野良猫になってしまったのだと考えている。

今まで大切にされていたぶん、突然の野生化は彼にとって試練の連続だっただろう。雨の中ニャーニャー泣いて過ごしたり、ギリギリいけそうなゴミを食べてアウトだったりしたかもしれない。

おそらくそんな頃、彼はランパスキャットの一連の出来事を目の当たりにしたのだと思う。
毎日やかましく、怖いと思っていた犬を突然現れたただ一匹の猫が戦うでもなく圧倒的なその存在感で追っ払ってしまったのは衝撃的だったであろう。自分の非力さに気づき、このままではいけないと目が覚めたかもしれないし、生きねばと腹が決まったかもしれない。
そうしてなんやかんやあって逞しく育ち、やがてジェリクルという場所に辿り着き舞踏会を仕切るリーダーの格まで身につけたのなら、そりゃあ色々な生き方の猫をお目にかける中でどうしても話したい出来事だったに違いない。ただ根が素直で若干ポンコツだから、ちょっとタイミングが掴めなかったのだろう。

しかしそれでいいのだマンカスは。
マンカス贔屓の私はそう思う。

リーダーという設定一本で舞台に立ち、ランパスのナンバーが増えたにも関わらずマンカスの仕事が大幅に増えるという「風が吹いたら桶屋が儲かる」理論をミュージカル上で体現する猫マンカストラップ。
しかしそのおかげで彼の性格を深掘りできる要素が少し増えたような気がして私は嬉しい。

「突然話し出すのにみんな付き合ってくれてよかったね。マンカスは素敵なジェリクルに恵まれているよ…」

件の四季オタの友が言う。私もそう思う。マンカスが幸せそうで私も幸せだ。

あとそんな中でも美味しい役どころを持っていくタガーと演じ甲斐のある警察犬をちゃっかりゲットするガスは流石だと思う。

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高矢 色
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