幕間 革命乙女格付けチェック

※最初はTwitter上で短い一発ネタ程度に軽くスクショ2,3枚で出すつもりだったのですが、そこそこ文が伸びたのでnoteの方に書くことにしました。
 また、全員出すととんでもないことになるので、出番のないキャラ、セリフの少ないキャラが多く居ますが、全体をふんわりと雰囲気を味わう方向で読んでいただけたら幸いです。

 なんでコイツらが『一流』の席に座っているんだ?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ⋯⋯⋯⋯⋯
 時は太正102年1月1日。元日。
 異様な緊迫感が会場を包んでいる。
 その緊迫感の原因となっているのはこの2人、鷲羽わしゅうもえみと美瑛びえいななこの『動物さんチーム』である。
 チーム名の由来は、もえみの名前にわしが入っていて、ななこがキツネ耳を常時装備しているからという、割と無理矢理な理由でななこが付けたものである。
 演劇や音楽を始め、様々な分野に対して決して広い知識を持っているとは言えないはずの2人だが、直感と野生の(?)勘を頼りに一流の席に座り続けていた。
 分身ができる者。情報戦に長ける者。専門知識に秀でた者⋯⋯
 乙女たちが持つ強みは千差万別だが、ある者は不正発覚によって、ある者は門外知識の出題によって一流の席から、そして画面から消えていった。
 そして今、最終問題が出されようとしていた。
「最後のチェックはこちら!」
 MCの一目ミヤビが効果音と共に高らかに宣言する。ババーン!
「それは『大石司令が今一番食べたいもの』です!」
 ええええええええぇ〜〜〜〜〜!!!
 驚きの声が方々から上がる。
 当然である。いくら親しい人間だろうと、どこまでいっても他人。直近で直接本人から聞いていない限り、確実に答えを導き出すことは不可能だからだ。
「流石にこれはキツネさんパワーでも難しいですね」
「う〜ん、流石にコレはサッパリだぞ」
「もえみは“最初から全部”サッパリだったでしょ!」
 出されたお題に対して悩むもえみに、はつかは呆れた様子でツッコミを入れた。
 ちなみにはつかは漫画問題で一問外した※ため、『普通』の席に座っている。
(※理由:同人のカップリング小説読み過ぎ)
 今、一流の席に座っているチームは3チーム。
 『トップオブB.L.A.C.K.』、『チームめいもん』、そして『動物さんチーム』である。
(くそ!くそ!くそ!なんでこのクルミが、こんなにプレッシャーを感じてるワケ!?)
(最明、だいぶイラついているな。だがその気持ち、分からないでもない)
(原因は間違いなく⋯あのチーム)
 B.L.A.C.K.の3人は、(クルミ以外)表情にこそ出していなかったものの、自分たちが確かにプレッシャーを感じているという事実を、各々が自覚していた
「ひめか姉さま⋯」
「大丈夫よ。しゃんとしていなさい、みうめ。こういう時こそ誰よりも優雅たれ、ですわよ」
(とは言ったものの、みうめの心配はもっともですわ)
(今までの問題は知識と経験があれば正解できたものでした。ですから他の方の、いわゆる“ミス待ち”をしながら正解を重ねていれば、その内落ちてくれるだろうと思っていましたが⋯)
 まさか勘で2択を通し続けて最後まで『一流』の座を争うチームが現れるとは思ってもいなかった。
 そしてそれはB.L.A.C.K.の3人も同様に思っていた。
 演者としての実力と共に、幅広い教養を兼ね備えているこの2チームは、運ゲーと化した最終チェックに戦慄していた。
「では選択肢A」
「『ラーメン屋 ジロー』の“特濃豚骨醤油ラーメン”」
「皆さんご存知の通り、大石司令は多忙の身。仕事帰りで疲れた体にガツンとカロリーを入れつつ、心も体も温まる1杯は最高のひと言に尽きると言えましょう」
「次に選択肢B」
「『大衆居酒屋 鍋道場』の“銀鱈ぎんだらチゲ鍋”」
「ラーメンも非常に美味しい季節ですが、健康面との両立を考えるとやはり鍋でしょう。利尻昆布りしりこんぶ出汁だしに自家製キムチ。そこにすりおろしニンニクもプラスした銀鱈鍋は、ピリッとした辛味の中に深みとコクのある味わいとなっています」
 わっっっっっかんねぇ⋯⋯⋯
 という雰囲気が会場を包む。
「チームの代表の方に一度試食をしていただき、それからAかBをお選びいただきます」
「ではまずは『トップオブB.L.A.C.K.』からどうぞ!」

 ミヤビの説明が終わり、プラナ、メイサ、クルミの3人はお互いの顔を見合わせる。
「誰が行く?」
「クルミはパス」
「ほう⋯随分と弱気だな、最明」
「勘違いしないで。Aのような炭水化物と油の塊なんて口に入れたらどうなるか分かったもんじゃないわ。だからアンタたちのどっちかが行きなさい」
「常に体型や体調の維持に気を遣ってるのは私たちも同じ。その程度の理由で逃げるのは感心しないわね」
「じゃあプラナ。アンタが行きなさいよ」
「ええ。そうするわ」
「なっ!?」
(そんなアッサリと決めるなんて、コイツ⋯)
「何か不思議なとこでもあった?」
 プラナの即決に、クルミは思わず驚いてしまった。
(流石プラナだ。例え己の体にマイナスなものを入れる事になろうと、“芸能人としての”女優の行動も迷いなく選択できる)
「ではプラナが行くということで異論はないな?」
「ええ」
「待ちなさいっ!」
 プラナが回答のために席を立とうとしたその時、クルミが制止の声をかけた。
「クルミが行くわ」
「行きたくないのではなかったか?最明」
「それはそう。でもプラナコイツを前にして引き下がるはもっと嫌。それだけよ」
 小さな子どもがただ意地を張っているに等しいレベル理由だが、それを突き抜けてより高みを目指すことができるのが最明クルミという女優である。
「⋯プラナ。最明が行くということでも構わないか?」
「⋯⋯⋯ええ。それならそれで私は構わないわ」
 一呼吸の間を置いて、プラナはそれを了承した。
「なら決まりね!」
 クルミは立ち上がり、試食をするための別室へと向かった。
「⋯なるほどそういう事か」
「急にどうしたの、メイサ」
「お前が即決で行くと言った意味についてだ」
「自分とより高次元で競い合える相手とするために、最明を焚きつけたな?そしてそれが成功すれば結果的に食べないで済むという一石二鳥。流石だな」
「⋯⋯そうね。そういうことにしておくわ」
(本当はちょっと気になったから食べてみたかっただけなんだけど、訂正すると面倒なことになりそうだし⋯まあ、今はそういうことにしておこう。後でもう一度ミヤビに店名を教えてもらえば良いだけだし)

 クルミが選択をして数分後⋯⋯
「次は『チームめいもん』。代表者をお選びください」
 アナウンスが入り、立ち上がるのは当然⋯⋯
「ホーッホッホッホ!当然、わたくしが行きますわ!」
「ひめか姉さま、みうはここで精一杯応援してるから」
「分かっていますよ、みうめ。貴女のその気持ち、しかと受け取りましたわ」
 ひめかはみうめの応援を受け取り、心地よい緊張感の中、別室にある試食ルームへと向かっていった。
 程なくしてひめかの選択が終わり、その後も他チームが次々とそれに続いた。
 そして最後にこのチーム。
「最後に『動物さんチーム』です。代表者をお選びください」
「どうする?ななこ」
「そうですねぇ⋯私はちょっと鼻が効き過ぎるので辛いかもしれないです」
 普段から動物の真似をしているななこは、その成果か、鼻を始めとして五感が常人よりも鋭くなっているらしく、少し敬遠気味な素振りを見せた。
「そっか。じゃああちしが行くってことで良い?」
「はい。もえみさんさえ良ければお願いします」
「オッケーだぞ!美味しいもの食べられるし、あちしにとっては嬉しいことしかないんだぞ!」
 そもそも別に『一流』でいる事にそこまで固執していない2人は、各々おのおのの理由の一致と尊重で代表者を決めていた。
 それは最後のチェックになっても変わらない。
 もえみはラーメンと鍋が食べられることに対して、意気揚々と試食ルームへ向かっていった。

 そして全チームの回答が出揃い、遂に最終結果の発表を残すのみとなった。
 これによって『一流』か『普通』か。
 『二流』、『三流』止まりか。
 それともただの『そっくりさん』なのか。
 果ては『映す価値なし』となってしまうかが決まる。
 回答の結果、大多数のチームがAの“特濃豚骨醤油ラーメン”を選んだ。
 ミヤビの説明と、試食した時に感じた鍋の美味しさの両方から考えると、Bの“銀鱈チゲ鍋”を選ぶのが順当な選択肢に見えてしまう。
 だが、『最終問題がこんなに単純なわけがない』とメタ読みをした結果、Aを選択したチームが多数派となったのだ。
 中にはもちろん、純粋に食べ物として美味しかったという評価も加味して選んだチームもいる。
 問題の3チームの代表者。クルミ、ひめか、もえみはどちらを選んだかというと、
A クルミ・ひめか
B もえみ
 という結果になっていた。
 つまりこれは、Bが正解だった場合は『動物さんチーム』が単独で『一流』となることを指している。
(これは⋯)
(マズいですわ⋯)
 当然、クルミとひめかの緊張は凄まじいものに跳ね上がっていた。
「結果発表です!」
 画面が切り替わり、正解の部屋の前に立つ江田島かしえの姿が映る。
「ではかしえさん、正解の扉を開けてください」
「おめでとう、Bだニャー!」
 ミヤビの合図を受け取ったかしえは、勢いよくBの部屋の扉を開けた。
「ぐおおおおおおおおおおぉ⋯⋯⋯⋯!」
 片や頭を抱えながら、絞り出すような声で。
「ノォーーッ!やってしまいましたわーーー!!!」
 片や天井をあおぎ見ながら、部屋中に響く大きな声で敗北の叫びを上げた。
「それでは大石司令からのコメントを読みあげます」
 クルミとひめかの叫びをガン無視し、ミヤビは柔和にゅうわな表情を崩すことなく、淡々と仕事を進行させる。
「『本当に何も考えずに食べるならラーメンかもしれないけど、皆みたいにもう若くないから、濃い味が少しずつしんどくなってきてね。今はお鍋くらいの味付けが丁度良いんだよね。年取るって怖いねー』だそうです」

「なんなのよ。めちゃくちゃ普通の理由じゃない」
「へ、変に深読みし過ぎてしまったようですわね⋯」
 Aの部屋から退室しながら、クルミとひめかは結果に対しての感想を言い合っていた。
 そして、Bの部屋から来る乙女たちとブッキングするところまで歩くと、2人はもえみと目が合った。
「ちょっとそこのパーカー。こっちに来なさい」
「んー?どうしたんだぞ、クルミ」
「バリバリにジャンクフード食いまくってるアンタがなんでBを選んだのか、聞かせなさい」
 クルミの言葉の通り、もえみはジャンクフードが大好きで、常日頃というわけではないが、結構な頻度で食べている姿が目撃されている。
 ひめかも同じ疑問を抱いていたため、無言で同意を示す頷きをした。
「んーーー⋯理由って言っても、さっきミヤビさんが言ってた司令のコメント通りとしか言えないんだぞ」
「あちしはもちろんAの方が好きなんだけど、やっぱり司令は体を大切にしないといけない立場だから、そういうところはあちしの何倍もしっかりしてるから、Bを選ぶんだろうなって思ったんだ」
 もえみから100点満点の答えが返ってくる。
 最後の最後。もえみは勘ではなく、司令の立場や性格から心情をしっかりとみ取って答えを出したのだ。
 完敗。よりにもよって司令に関する問題でそれが起きてしまった。その事実が、クルミとひめかに多大な精神的ダメージを与えたのは言うまでもなかった。

 その後各チームの最終結果を確認し、程なくして年始の格付けチェック大会は終わった。
 後日、新生・帝国歌劇団の中ではちょっとしたラーメンブームが起こった。
 普段から体型を気を遣って高カロリー食をあまり摂取しないことが多いため、濃厚な味つけのラーメンは彼女たちにとって悪魔的な美味しさに感じたのだろう。
 ひめかも建前では『大衆の味を学ぶ一環いっかんに過ぎない』と言い張っているが、週間、月間単位での摂取許容カロリーと相談しつつ、1人で麺を啜りに行くこともあるほど、誰よりもラーメンにお熱だった。
 一方クルミは、普段から彼女にマウントを取られがちだった団員たちにマウントを取りにくくなっていた。
 何故なら、クルミのマウントに耐えかねた時に『ななこはともかく、もえみに負けた人に言われてもねぇ』の一言ひとことを放つだけで、クルミの言動に対し大きな抑止力を発揮できるからだ。
 特にしゃな、クレア、テンカ辺りは、最強のパワーワードを授けてくれたもえみを、さながら神のように崇めていた。
 もっとも当のもえみ本人は、その事について素直に喜んで良いのかどうか、話題に出る度微妙な気持ちになっていたのだが。
 しかし、感謝されること自体は嬉しい事だし、何より感謝の気持ちとして皆が食べ物をくれるので、毎度すぐにどうでも良くなってしまうのだった。
「オラそこ!そんな生温なまぬるいステップ刻んでるなら帰りなさい!その程度でクルミの目を誤魔化ごまかせるとでも思ってんの?死にたいの?」
 三が日が過ぎ、それぞれの日常が再び始まった。
 クルミは、監督している研究生たちにげきを飛ばす。
「は、はいっ!すみません。すぐにやり直します!」
「ふんっ!」
 だがその様子は去年とは明らかに違う様子だった。
(な、なんか最近のクルミ様。剣幕凄くない?)
(分かる〜。なんか出しちゃいけないオーラみたいなの出してるよね。例えるなら⋯“殺意”、みたいな?)
(鷲羽もえみぃ〜⋯来年はクルミがかんなきまでに叩き潰してやるんだから!覚えてなさい!!!)
 くだんのもえみ絡みの茶々ちゃちゃが定期的に入っていたこともあり、結局、クルミの怒りが収まるまでに約1ヶ月の期間を要した。
 この時、この場に居た研究生たちの中には、のちにこの1ヶ月が女優人生の中で最も過酷な1ヶ月だったと語る者も少なくなかったという。

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