幕間 革命乙女格付けチェック+

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ⋯⋯⋯⋯⋯
 太正103年1月1日。元日。
 今年も異様な緊迫感が会場を包んでいた。
 その原因となっているのは他でもないこの女、最明さいめいクルミである。
 昨年、鷲羽わしゅうもえみの『動物さんチーム』に敗北を喫し、一流芸能人の座を逃したクルミは、今年の格付けチェックに並々ならぬ闘志を燃やしていた。
「で、なんで鷲羽もえみアイツはここに居ないワケ?」
 だが、クルミのお目当てであるきゅうてき、鷲羽もえみの姿は会場に見当たらなかった。
「そこのムッツリ総督巫女!アンタなんか知ってんじゃないの?」
 そこでクルミは、その原因を知っている可能性が1番高そうな、女優兼現中国地方総督であり、もえみの親友でもあるすみみやはつかを名指しして問いただした。
「な⋯!?し、失礼ですね、クルミさん。私はそんなんじゃ⋯」
「暇を見つけては、部屋のすみでコソコソいっつもなんか読んでニヤニヤしてんのはバレてんのよ!」
「ゔっ⋯⋯!」
「いいから答えなさい!」
 不名誉な呼び方をされたはつかは、ぜんと振る舞おうとするも、今まで隠し通せていたと思い込んでいた自分の趣味しゅみ趣向しゅこうが、クルミに知られていたことが発覚したため、これ以上歯向かって余計なダメージを受けるのは割に合わないと結論付け、反論を諦めてクルミの問いに答えることにした。
「え、えーと⋯もえみはですね⋯お餅の食べ過ぎでお腹壊して、今頃トイレに引きこもってます。多分⋯」
「はぁーーー!?」
「何よアイツ、女優としてのプロ意識がないワケ?」
 まあ、多分ないだろうなとその場の誰もが思ったが、これ以上クルミを憤慨ふんがいさせては状況が進展しなくなってしまうことは火を見るよりも明らかだったため、そのことは誰ひとり口にすることはなかった。
 こうちゃくした現場の空気に、パンパンと軽く手を叩く音が響いた。
 手ばたきのぬしはミヤビだった。
「まあまあ、体調管理も女優の実力の1つ。今回はクルミの勝ちってことでいんじゃないかしら?」
 クルミの意識を自分へと向けることに成功したミヤビは、そのまま彼女の怒りを抑え込むべく、穏やかな口調でクルミの気を良くさせる言葉を並べていった。
「それに、全問正解する自信があるんでしょう?」
「ふん、当然よ」
「うふふ。なら、もえみさんが居ても居なくても問題ないじゃない」
 その後も、ミヤビを中心に懸命の説得(※半分ヨイショ)を続けたことでクルミの溜飲が下げることに成功した一同は、どうにか今年の格付けチェックの開始にこぎつけたのであった。

 
「で、この結果はどういう事なの?」
「クルミが、この最明クルミが『そっくりさん』とか⋯ほんとあり得ないんだけど!?」
 今年の最終結果は『チームめいもん』が唯一全問正解の『一流』、その他のチームの多くが『二流』『三流』に落ち着いた。
「ホーッホッホッホ!昨年さくねんせつじょく、晴らさせていただきましたわー!」
 『映す価値なし』となったチームこそいなかったが、それは必然的に『そっくりさん』が全体の中での最下位であるということを意味していた。
 当然この結果、最明クルミは不満である。
拙者せっしゃも『そっくりさん』でありますし、クルミ殿、そう1人でそう落ち込むことはないでござるよ」
 そんなクルミをはげまそうと、声を掛けたのはえいしゃなだった。
「くあーーーーーっ!!だからダメ・・・・・だって言ってんのよっ!!」
 だがそれはクルミにとって1番の地雷だった。
 しゃなの分身ワンマンチーム『拙者1人で3人分』は、クルミのチーム以外では唯一の『そっくりさん』評価を下されたチームである。
「ぷぷぷ⋯クルミ、今年もまた面白くなりそうね」
 去年に引き続き、クルミにマウントを取れることが分かったテンカが、早速ちょっかいをかけてくる。
「アンタも『三流』なんだから大して変わんないでしょうが!」
 クレア、マジュ、テンカの仲良しチーム『三銃士』は全6問を仲良く3等分して2問ずつ担当し、仲良く1問ずつ間違えて『三流』という結果になっていた。
「でもクルミ先輩が外したせいでこの結果になったんですから、自業自得じゃないですか」
「うぐ⋯!」
 昨年はプラナとメイサの3人で組んでいたクルミだったが、今年は自分の意見が通しやすそうなあせびをチームメイトに半ば強引に抜擢ばってきし、新たなチームで格付けチェックにのぞんでいたのだ。
(ちなみにクルミが抜けたプラナとメイサのチーム『トップオブB.L.A.C.K.』は去年同様『普通』芸能人の位置に収まった。)
 クルミとて、この1年間、何もして来なかったわけではない。
 昨年の教訓から、上手くカロリーコントロールをしながら、ぞくにジャンクフードと分類される食べ物の知見を深めたり、司令に関する情報収集も日々欠かさず行なっていた。
 歌劇関係及び取り入れられそうなジャンルも、今後の投資も兼ねて片っ端から網羅していたつもりだった。
 だが、あせびが最初の2問の『ダンス』と『オーケストラ』を正解して以降は、クルミが回答した残りの問題は全て不正解という散々な結果となってしまった。
「大体ね、“コンバインとロードローラーのエンジン音を聴き分ける”とか、“マイナーレトロゲームのオリジナル版と移植版を見分けろ”とか、正解させる気の無い意味不明な問題が多すぎなのよ」
「ていうか北方の連中に有利な問題が妙に多かったじゃない。アンタなんかやったでしょ、髪の毛ボンバー娘」
「失礼だな。ワタシは何もしていないぞ?そもそも問題は全て3択ないし2択形式だったではないか。正答確率33.3%以上の問題を4問答えたのなら、勘でやっても正答期待値は1以上だ。人のせいにする前に、キミの運のなさを呪いたまえ」
「ぐぬぬぬぬぬ⋯」
(まあ、問題の一部をすこーしばかり“訂正”させてもらったがね)
 表向きはつとめて冷静なむつはだが、それとは裏腹に、内心ではほくそ笑んでいた。
 そう、クルミの読み通り、むつはによる裏工作は行われていたのだ。
 今年の格付けチェックは、昨年のような不正行為の防止措置そちとして、会場への電子機器類の持ち込み禁止のむねが全体に通達されていたため、むつはは事前に問題自体をすり替えておくことで北方連合花組の正答率を底上げする方針に切り替えたのだ。
 結果、『北方連合花組チーム』は6人という集合知の高さを活かせる問題が増えたことで、『普通』芸能人という好成績を収めるに至った。
「ふあぁ〜⋯ワタシは疲れたからもう帰るぞ。明日のイベントに備えて今のうちに仮眠を取りたいからな」
 今年の結果に満足したむつはは、今ハマっているソーシャルゲームの周回イベントに備え、眠たげに目をこすりながらダルそうに会場を去って行った。


「あらあら、先ほどから泣き言ばかり。クルミ様、そんな戯言たわごとをおっしゃっていてはB.L.A.C.K.創設者の名がすたるというものですわ」
 そして、怒りと不満をつのらせるクルミに対し、ここぞとばかりにやって来たひめかは勝ち誇るように言い放った。
「アンタはクルミとは逆に運が良すぎただけでしょ!」
「あら心外ですわ。わたくしは全ての問題に確信を持って答えましてよ?」
「な、なんですって!?」
「あらゆる分野に造詣ぞうけいを深めておくことも天神家たる者の務め。むしろ昨年の最終問題みたいな個人のパーソナルな部分に触れる問題がなかった分、私にとってはイージーに感じましたわ」
ぞくの英才教育って、重機とレトロゲームも履修範囲なのか?)
 一瞬、一同の頭の中にそんな疑問が浮かんだ。
 だが、“でもまあ、あの天神家だしな”ということである程度納得できてしまい、その場の空気も手伝って、取り立ててひめかに疑問をていする者は現れなかった。
「クルミ様。私“先”で待っておりますので、来年は同じ高みに登ってきてくださることを期待しておりますわ。でないと張り合いがなくてつまりませんわー!ホーッホッホッホ!」
「きぃいいぃいぃぃーーー!!」
 勝ち誇るひめかにこの上ない敗北感と屈辱を現実として叩きつけられたクルミは、思わず頭を掻きむしらずにはいられなかった。
 思わぬ伏兵たちの存在によって2年連続辛酸しんさんめさせられ、あまつさえ同じ境遇にいたはずのひめかにも先を越されてしまったからだ。
 様々な策略と思惑が交差し、魑魅魍魎ちみもうりょう渦巻く格付けチェック。
 最明クルミの一流芸能人への道は、いまだ遠い。

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