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業務命令を無視する従業員は解雇できる?過去の事例からポイントを解説

はじめに

 社内で上司の業務命令に従わない従業員がいる場合、会社はその者を解雇することができるのでしょうか?

 ここでは、業務命令違反がどのような場合に解雇事由となるかについて具体的に検討した上で、業務命令違反による解雇が有効とされた裁判例と、無効とされた裁判例についてみていきます。

解雇に関する法規制

 日本では従業員の解雇について厳格な法規制が課されています。

 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされます(『労働契約法』第16条)。

 同条により、解雇が認められるためには、下記2つの要件に照らして判断されます。

 第一に、解雇の“客観的に合理的な理由”、すなわち、解雇しようとする労働者に、就業規則上の解雇事由が存在することが必要です。
 第二に、解雇の理由が認められる場合であっても、当該解雇が“社会通念上相当として是認することができ(る)”ことが必要です。

 ここでのテーマである“上司の業務命令に従わない従業員を解雇することができるか”についても、上記の2つの要件で判断していきます。

業務命令違反は解雇事由になるのか

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「懲戒解雇」ではなく「普通解雇」が適用されることも

 従業員による業務命令違反は、職場規律(企業秩序)違反行為であり、通常、懲戒解雇事由として就業規則に規定されています。

 しかし、“懲戒解雇”は、解雇予告もなく即座になされ、退職金の全部または一部が不支給とされることが多いです。

 また、“懲戒”とつくことにより、秩序違反に対する制裁としての解雇であることが明らかとされるので、再就職にあたって重大な障害になるなど、労働者にとって不利益が大きいです。

 そのため、情状により“懲戒解雇”を回避して、“普通解雇”を事実上の懲戒処分とする場合があります。

 “普通解雇”では、30日前の解雇予告又は解雇予告手当があり(労基法20条)、解雇を理由に退職金が不支給とされることはありません。

 厚生労働省のモデル就業規則でも、下記のように定められています。

 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。

 ただし、平素の服務態度その他情状によっては、……普通解雇……とすることがある。
 ……④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。(第66条2項)

 労働者が次のいずれかに該当するときには、解雇することがある。
 ……⑥ 第66条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められるとき。(第51条第1項)

 このように、従業員による業務命令違反が就業規則上の“懲戒解雇”の事由に該当する場合であっても、それを“普通解雇”の事由とすることは、解雇の合理的理由の一場合として認められています。

解雇事由になる業務命令違反とは
 もっとも、前述したとおり、普通解雇であっても厳格な法規制があることから、あらゆる業務命令違反が解雇事由なるわけではありません。

 実際には下記のような基準で、業務命令違反が解雇事由として妥当かが判断されています。

 まず業務命令の効力が判断され、業務命令が有効とされた場合であっても、命令拒否が固執的・反復継続的で是正の余地がなく、使用者に労働契約の継続を期待し難い事情があることが解雇の要件になるとされています。

 以上を踏まえ、業務命令違反による解雇を有効とした裁判例と無効とした裁判例をみていきましょう。

裁判例:業務命令違反による解雇が有効とされたケース

 従業員の業務命令違反を理由とした解雇が有効とされた裁判例としては、以下のようなものがあります。

西井運送事件(大阪地判平成8年7月1日)
 会社からある従業員に対し、長距離輸送運転手からフリードライバー対応の現場作業員へ配転替えをする命令がなされたところ、当該従業員が、5回に渡ってその命令を拒否した事案について、拒否したことに正当な理由は認められないとして、解雇は有効とされました。

昭和アルミニウム事件(大阪地判平成11年1月25日)
 当該従業員は、出向中、仕事に対する意欲がみられず、業務指示に対し、いろいろと難癖を付けてこれに従いませんでした。

 過去の不当人事に対する謝罪要求に異常なまでに執着し、謝罪がない限り、業務を放棄する旨を宣言する書面を会社に送付するなどしていました。 

 その後、仕事をするようになるも、冬季賞与の査定が低かったことをきっかけとして、再び常軌を逸した要求や上司を侮辱するような内容を記載した書面を会社などや会社関係者に頻繁に送付するようになりました。

 出勤しても社長としばしば要求をめぐって激しく口論。他方、依然として職務に対する意欲がみられないだけではなく、かえって引き合いを断るなど、会社の業務を妨害するかのように、投げやりな態度に出るようになりました。

 この事案について、当該従業員は、管理職としてはもちろん、従業員としても適格性を欠くとして、会社による解雇は有効と判断されました。

英光電設ほか事件(大阪地判平成19年7月26日)
 当該従業員は、上司である部長から、調査業務においてペアを組んでいるAの作業に協力して残業するよう指示を受けていました。

 しかし、度重なる注意にもかかわらず、同僚への協力を拒否し続けたため当該従業員を解雇。

 合理的な理由があり、社会通念上も相当性があることから、解雇は有効とされました。

ポッカサッポロフード&ビバレッジ事件(東京地判平成28年1月29日)
 営業職の当該従業員は、営業車両を駐車余地のない場所に駐車して放置し、会社からの再三の指示に関わらず反則金を納付しない状況が続きました。

 また、勤務成績も悪く、上司が再三の注意・指導をするも、改善を試みようとしません。

 当該従業員の業務命令違反を事由とした解雇は有効とされました。

 業務命令違反による解雇が有効とされたケースを4つ紹介しました。

 業務違反いずれのケースも、業務命令が有効であることを前提に、命令拒否が固執的・反復継続的で是正の余地がなく、使用者に労働契約の継続を期待し難い事情がある場合といえます。

裁判例:業務命令違反による解雇が無効とされたケース

 一方、従業員の業務命令違反を理由とした解雇が無効とされた裁判例としては、以下のようなものがあります。

カジマ・リノベイト事件(東京地判平成13年12月25日)
 “上司の指示・指導・注意に率直に耳を傾け、上司の意見を採り入れながら円滑な職場環境の醸成に努力する”などといった、使用者が従業員に対して通常求める姿勢に欠ける面があったことから、就業規則の解雇事由に該当するとしていたケース。

 しかし、これらの事情は、上司と部下との意見の対立や行き違いを原因とするものにすぎず、社会通念等の観点からして重大な問題であるとまではいいがたいこと、会社の業務に支障を来した程度も、社会通念上さほど重大なものとはいえないことを理由に、業務命令違反の従業員に対する4回のけん責後の解雇を無効としました。

マンナ運輸事件(神戸地判平成16年2月27日)
 会社は深夜勤務を常態とする部署への配転命令を拒否した従業員を業務命令違反として解雇。

 当該従業員は会社との間の労働契約にて、深夜に勤務させないとの勤務時間限定の合意が成立していました。

 会社は当該従業員の個別の同意なく深夜勤務に従事させることはできず、同意がない以上、本命令は効力をもたないとして解雇を無効としました。

三枝商事事件(東京地判平成23年11月25日)
 雇用契約上は予定されてない勤務場所への配転命令を拒否した従業員に対して、何ら解雇を回避する方法・手段の有無を検討しないまま行った解雇について、“余りに性急かつ拙速というほかない”として無効としました。

 業務命令違反による解雇が無効とされたケースを3つ紹介しました。

 マンナ運輸事件や三枝商事事件は、そもそも業務命令が有効ではないケースです。

 カジマ・リノベイト事件は、業務命令自体は有効であるとしても、使用者に労働契約の継続を期待しがたい事情があるとまではいえないという点から解雇事由として無効とされました。

経営者へのアドバイス

 上司の業務命令に従わない従業員を解雇するためには、業務命令が有効であることを前提に、命令拒否が固執的・反復継続的で是正の余地がなく、使用者に労働契約の継続を期待しがたい事情があることが必要です。

 事情の妥当性は、個別に具体的に判断されますが、実際のケースとして上記の裁判例が参考になるのではないでしょうか。

 なお、業務命令違反があり、解雇の合理的理由が存在する場合であっても、当該解雇が相当性を欠く場合には、解雇は無効とされます。

 このように業務命令違反による解雇も、厳格な要件のもとで認められることから、会社側の対応としては、日頃より、業務命令やそれを拒否した従業員とのやりとりなどについて、できる限り文書、メール、メモ、録音など記録に残しておくことが望ましいです。




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