今後27兆円を超える生活保護費も
はじめに
就職氷河期世代は、上の世代と比べて将来への備えが少なく、高齢貧困に陥りかねない人が多い。
貧困問題は、生活保護の増加などを通じて、わが国の財政面に大きな影響を与えることも懸念される。
氷河期世代が高齢となる未来に予想されることとはなにか…、日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が指摘していく。
氷河期世代の135万人が高齢貧困に陥りかねない未来
就職氷河期世代自身が将来高齢となった際に、貧困に陥りかねない人はどの程度いるのかを試算してみよう。
ここでは、就職氷河期世代のなかで早いタイミングで問題が顕在化すると考えられる年長者の団塊ジュニア世代のケースを中心に考えてみる。
足許の貧困状況を示す統計のひとつとして、生活保護利用状況をみると、世帯ベースでは高齢者世帯が半数以上を占めており、そのほとんどが単身世帯となっている。
そのため、ここでは経済的な理由で結婚をあきらめざるを得ないようなケースを想定した単身高齢者を試算の対象と考えた。
まず、総務省「国勢調査」から、世代に相当する年齢層における、未婚の就業者および非就業者をそれぞれ抽出した。
次に、就業者に対しては、連載第3回の生活不安定者の試算同様、総務省「労働力調査」から、就業者における非正規雇用者の割合を掛けて、未婚の非正規雇用者とした。
次に、非正規雇用者と非就業者のそれぞれに対して、厚生労働省「国民年金被保険者実態調査」の国民年金の納付状況から、年金が満額支給される完納者の割合を減じた。
このような形で算出される経済的に厳しい未婚者は、老後も単身で生活を送ると仮定し、厚生労働省「簡易生命表」から、そのうち65歳まで生存する人を「将来、高齢貧困に陥りかねない人」とした。
では、実際に試算結果をみてみよう。
将来、高齢貧困に陥りかねない人は、団塊ジュニア世代では、41~44歳時(2015年時点)で、男性が15.8万人、女性が25.6万人、男女合わせて41.4万人にのぼると試算される([図表1])。
これは、2017年度の被保護世帯数のうち高齢者単身世帯数(1ヵ月平均、78.6万世帯)の半数以上に相当するボリュームである。
これに対して、バブル世代では、41~45歳時(2010年時点)で、男性が16.7万人、女性が24.7万人、男女合わせて41.4万人、新人類(後期)では、41~45歳時(2005年時点)で、男性が9.8万人、女性が14.5万人、男女合わせて24.3万人と試算される。
人数だけみれば、団塊ジュニア世代とバブル世代では将来的に高齢貧困に陥りかねない人は、男女合わせて同等程度いることになる。
もっとも、それぞれの世代の人口全体に占める割合でみると、男性では、団塊ジュニア世代が4.3%、バブル世代が4.2%、新人類(後期)が2.7%、女性では、団塊ジュニア世代が6.8%、バブル世代が6.0%、新人類(後期)が3.9%と、男性のバブル世代とは小幅ではあるが、団塊ジュニア世代がいずれも高くなっている。
ちなみに、就職氷河期世代全体における将来的に高齢貧困に陥りかねない人を同様に試算すると、およそ135万人にのぼる。
高齢貧困のため「生活保護を受給する」となると…
就職氷河期世代の親の介護に伴う生活不安定者の増加や、自身の高齢化による高齢貧困者の増加は、すでに厳しい状況にあるわが国の財政運営においてもさらに大きな重石となる。
そこで、歳出と歳入のそれぞれの面から、これらの問題の顕在化により生じる恐れのある影響をみてみよう。
まず、財政運営上の歳入面では、少子高齢化に歯止めがかからないなか、就職氷河期世代を取り巻く環境の厳しさを背景に、担税力(実際に税金を負担する能力)が低下することが懸念される。
かつてと比べて働く女性が増え、税金を納める人、すなわち「量」の面ではプラスの側面も出ていると考えられる一方、非正規雇用者の増加や賃金の伸び鈍化など「質」の面で悪化したことから、仮に今後も所得税率や所得控除制度が現行のまま据え置かれるとすれば、所得税収は減ってしまう恐れがある。
将来、親の介護などでこれまで続けていた仕事を辞めざるを得ない人が増えることになれば、歳入減の圧力はさらに高まることになる。
一方、財政運営上の歳出面では、就職氷河期世代が貧困に陥れば、団塊ジュニア世代なども含む人口ボリュームの影響から生活保護受給者が増加し、社会保障支出の増大圧力が高まる恐れがある。
大まかなイメージとして、例えば、先に試算した団塊ジュニア世代の将来的に高齢貧困に陥りかねない人が、65歳から生活保護を受給した場合(受給額の最も高い都市部などを想定し、月額75000円と仮定)、国全体としての年間の所要額は約3700億円にのぼる。
これは、生活保護費負担金(2016年度、事業費ベース)における、食費・被服費・光熱費など日常生活に必要な費用を対象とした「生活扶助」の3割強に相当する規模である。
また、団塊ジュニア世代が、現在の65歳の平均余命(男性:19.57歳、女性:24.43歳)と同等まで存命し、生活保護を受給し続けたとすると、トータルの所要額は8.4兆円に達すると推計される。
これを就職氷河期世代全体に広げて考えると、生活保護における所要額は、年間で1.2兆円、トータルでは27.5兆円になる。
ここで留意すべき点は、これらの所要額はあくまで生活保護における「生活扶助」という一部分にすぎないことである。
医療サービスの費用を対象とし、全体の約半分を占める「医療扶助」は就職氷河期世代の高齢化により、また、生活の基礎である住まいの家賃に関する「住宅扶助」も、同世代の持ち家比率が上の世代と比べて低下しているなか、歳出の膨張圧力は相対的に増大する可能性が高い。
高齢者を「支え切れるか?」2040年度の社会保障負担
ちなみに、社会保障費はいまや歳出の3割強を占めているが、その財政の支え手に関する懸念もある。
政府の見通しによると、社会保障負担額は2018年度の117.2兆円から、2025年度が150兆円前後、2040年度には210兆円前後にまで拡大する見込みとなっている([図表2])。
2025年度は、就職氷河期世代のうち団塊ジュニア世代の親の介護問題が顕在化するとみられる時期、そして、2040年度は、団塊ジュニア世代自身が高齢化し貧困リスクが高まる時期と重なる。
この見通しを基に、生産年齢人口1人当たりの負担を機械的に計算すると、保険料負担の一部は高齢者が負担するため、幅を持ってみる必要があるが、現状の約155万円に対して、2025年度はその1.3倍の約210万円、2040年度は2.3倍の約355万円と大幅に拡大していく。
人口の減少により、負担総額以上に1人当たりの負担額の拡大ペースが大きくなる姿だ。
このような負担増大に対して、就職氷河期世代や、より若い世代の経済力が、以前の現役層と比べて細るなかで、この先、高齢者や社会保障の枠組みそのものを支え切れるか非常に懸念される。
最後に
上記の記事でもあるように「生産年齢人口1人当たりの負担を機械的に計算すると、保険料負担の一部は高齢者が負担するため、幅を持ってみる必要があるが、現状の約155万円に対して、2025年度はその1.3倍の約210万円、2040年度は2.3倍の約355万円と大幅に拡大していく。」ことを考えると先行きが暗いように感じますね。