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パワハラ相談の5割がもみ消されている事実

はじめに


 職場でパワハラを受けたらどうすれば良いのでしょうか?
 「会社の窓口に相談した場合、残念ながら5割は『無視』『放置』されている状況ってご存じでしたか。
 被害についての録音や録画を残したうえで、社外の相談窓口に頼った方が良い」ということになりますね。


企業のハラスメント対策は信用できるのか

 いじめ・パワハラ被害が深刻化している。厚労省が職場のいじめ・パワハラによって精神障害が発生したと認定した件数を見ても、この11年間で10倍に膨れ上がっています。
 そんな中、2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法の本格的な適用が始まりました(大企業は2020年6月から適用されている)。
 しかし、このパワハラ防止は、本当に上手くいくのでしょうか?
 このいじめやハラスメントの調査を行い、労働現場の実態に向き合い、そこから見えてきた背景がありました。
 昨年発表された日本経団連と厚生労働省による2つのハラスメント調査を参考にしながら、企業のハラスメント対策がどこまで信用できるのか、本当に有効なハラスメント対策とは何なのかを考えていきたいと思います。

パワハラ防止法で可視化された被害者たち

 2021年12月、経団連が職場のハラスメント防止に関するアンケート結果を発表しました。
 会員企業に対して9~10月に実施したものです。
 この結果、回答した企業の44%において、5年前と比較してパワハラの相談が増加していたことがわかりました。
 この数字は、ざっくり2つの観点から考えることができます。
 まずは、パワハラ行為そのものが、実際に以前より増加したという可能性であります。
 これは厚労省のいじめ・パワハラ相談が一貫して増え続けていることから、明らかであると考えられます。
 もう1つは、2019年にパワハラ防止法が成立し、翌年から大企業に対して適用されたことで、この1、2年で労働者に対して啓発的な効果があり、相談が増加したというものです。
 特にパワハラに対する取り組みの数が多い企業に絞ると61.1%で、相談数が増えており、その影響は少なくないといえます。
 パワハラ防止法によって、これまで泣き寝入りするしかなかった被害者たちが、受けた被害が問題のある行為であることに自信を持ち、対応してくれる窓口があると知った意義は大きいでしょう。
 しかし、問題はその後で企業の相談窓口に相談したら、どうなるのでしょうか。
 経団連の調査では、肝心のその後は調査されていないようです。
 その先の実態がうかがい知れるのが、2020年に労働者に対して調査が行われ、2021年に発表された厚労省のハラスメント調査です。

企業は相談の半数を「放置」「無視」している

 この調査によれば、労働者がパワハラを受けている(またはパワハラがあった可能性がある)ことを知ったあとの勤務先の対応について、なんと「特に何もしなかった」が47.1%に上っており、1位を占めておりほぼ半分です。
 ちなみにほかの回答項目(複数回答あり)は「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談に乗ってくれた」(28.0%)、「あなたに事実確認のためのヒアリングを行った」(21.4%)、「行為者に事実確認を行った」(9.7%)などです。
 事例によっては、被害内容がグレーゾーンに当たり、パワハラとまでは判断されないこともあるでしょう(もちろん、企業側が被害を過小評価することは十分にあり得る)。
 しかし、相談者、行為者にヒアリングをするという、いずれも被害事実がパワハラであったかどうかを判断する手前のプロセスですら、それぞれ2割、1割程度しか行われていません。
 あろうことか相談者の要望を聞くという、ごく最低限の対応すら3割に満たない状況なのです。
 約5割は「放置」や「無視」をされ、初歩的な段階で闇に葬られてしまうのです。
 加害者や関係者、会社で事実関係について口裏合わせをされてしまったり、証拠を改ざん・隠蔽いんぺいされたりというパターンも少なくありません。
 このように厚労省の調査を見る限り、企業の相談窓口の実態は、信頼して利用できるとは到底言えないのが現状なのです。

コミュニケーション強化でパワハラは解決するか

 ハラスメント「発生後」の相談窓口の対応に不安がある一方で、企業のハラスメント「防止」にはどのような課題があるのでしょうか。
 経団連のハラスメント調査では、ハラスメント防止・対応の課題についても加盟企業に尋ねている…
1位は63.8%が「コミュニケーション不足」
2位は55.8%の「世代間ギャップ、価値観の違い」
3位は45.3%で「ハラスメントへの理解不足(管理職)」

と続いています。
 大まかには、もっと社内のコミュニケーションや考え方、周知啓発を増やすことで、パワハラが減ると認識されているようです。
 本当に、パワハラ対策の課題はそこにあるのでしょうか。
 そこで参考になるのが、厚労省ハラスメント調査です。
 この調査の質問の1つでは、現在の職場でパワハラを受けている労働者と、過去3年間にパワハラを経験していない労働者に、職場で起きている、ハラスメント以外の問題について聞いています。
 この回答から、パワハラの背景を推測できるのではないでしょうか。
 実はこの質問でも、パワハラを経験している労働者の方が、上司とのコミュニケーション不足があったと回答する割合が2.5倍ほど高く、コミュニケーション不足との相関関係があると考えられますが、パワハラの結果としてコミュニケーションがなくなるというケースも多いようです。
 むしろ、ここで注目されるのは、「残業が多い/休暇を取りづらい」という項目になります。
 パワハラを経験した職場とそうでない職場とで、約2.3倍の差がついています。
 ここから、長時間労働や休みを取れないなど、過酷な労働環境がパワハラをもたらしているという構造が浮かび上がってきます。
 実際、「先輩に蹴られて転倒したことで、被害者の若手社員が“血で汚れたシャツ”で仕事を続けた。」、長時間労働や膨大な業務量によるストレスから、暴力を含むパワハラが横行していた可能性が浮上しました。

日本社会に蔓延する「経営服従型いじめ」

 大人のいじめを通じて、いま日本中を覆い尽くしている、労働者をひたすら使い潰すことで利益を上げる労務管理や経済の在り方が、パワハラを積極的に必要としてきたことを言ってきました。
 職場のストレスによる不満の矛先を経営者に向けさせないために、あるいは経営の論理を優先する働き方についていけない労働者を「矯正」「排除」するために、ハラスメントが「悪用されている」事実です。
 いわば、労働者を沈黙させ、「支配」するためのシステムであり、「経営服従型いじめ」とも言えるでしょう。
 このような職場が蔓延する社会では、コミュニケーションや啓発によるパワハラ対策では、焼け石に水でしょう。
 ちなみに、のハラスメント調査で、ハラスメント防止・対応の課題について「長時間労働」を挙げたのは、回答した企業のうち、わずか5%でした。
 多くの大企業のトップたちは、自分たちが依存してきた低賃金・長時間労働からの転換には目もくれず、表面的な「対策」に問題を矮小わいしょう化しようとしています。
 それは、労働者を使いつぶすことで経済成長を目指してきた、これまでの資本主義の在り方に、これからも頼り続けたいからでしょう。
 逆に言えば、ハラスメントを根本から減らしていくことは、職場の在り方を、経済の在り方を変えることにつながるからです。

「会社が助けてくれる」幻想は一旦捨てよう

 「会社が助けてくれるはず」という幻想は、一旦捨てた方が良いでしょう。
 もちろん、真面目に対策に取り組もうという会社の存在は否定しないが、そんな期待できず、上からの「ハラスメント対策」は、まず疑ってかかるべきです。
 ハラスメント被害に対抗するためには、労働者としての権利を行使することです。
 労働者からの強力な突き上げがあって初めて、ハラスメント対策や職場環境の改善に、企業も重い腰を上げるようになります。
 確かに、「大ごとにしたくない」という被害者もいるでしょう。
 そういう人でも、少なくとも権利行使のための準備はしておくべきです。
 最終的には、自分の身は自分が行動しなければ、守られないからです。

ハラスメントの連鎖を断ち切れるのは労働者自身

 具体的には、可能な限り被害の証拠を残すことです。
 スマートフォンの録音アプリやICレコーダーで、加害者の言動の録音を取っておきましょう。
 メールやSNSによるハラスメントは、そのままデータやスクリーンショットを保存してください。
 動画を撮影できるのなら、それもかなり大きな証拠になります。
 一方で証拠がなければ、パワハラの事実が認められることは、残念ながらかなり困難になってしまうからです。
 そして、早めに会社以外の相談窓口に相談して欲しいです。
 例え後から会社に相談することになったとしても、その前に専門家の意見を仰いでおくに越したことはありません。
 ハラスメントの連鎖を断ち切ることができるのは、労働者自身の力です。
 その行動は、会社に対する幻想を捨て去り、ハラスメントと労働者使い潰しの資本主義で荒廃していく日本社会を変えていく一歩にもなるはずです。

最後に

 ハラスメントに合っているのは、あなただけではありません。
 世の中には、沢山、被害者がいます。
 勇気をもって相談することが、解決の一歩になります。


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