なぜ選挙の投票締め切り直後に「当選確実」を出せるのか
はじめに
累計5万部を突破した「文系もハマる数学」シリーズ。
「数学のお兄さん」として数学のおもしろさを伝える活動をしている横山明日希さんが、身近な疑問や謎を「数学」の視点で解き明かします。
そこで今回は、そんな横山明日希さんの新刊『文系も超ハマる数学』(青春出版社)より、数学をより身近に感じられる雑学を抜粋紹介します。
選挙の投票締め切り直後に「当選確実」が出る不思議
国政選挙など注目度の高い選挙が行われると、だいたい選挙の投票が終わる午後8時にテレビで選挙特番が始まります。
早いときには番組開始と同時に、当選確実の速報が出ますよね。
これを受けて、ネット上では「投票締め切りの8時ジャストにわかるなんてオカシイ!」「何か不正が行われているハズ!」「陰謀だ、デマだ!」と必ずといえるほどザワザワします。
実際は、不正や陰謀などではなく、「出口調査」を行い、その結果を受けた統計の裏付けをもとに当選確実を出しています。
出口調査とは、投票所の出口で誰に投票したかを問う調査・アンケートです。
開票が進んでいない段階で、当選の見込みを推定するために各マスコミによって行われます。
この出口調査、実はおおよそ100人に1人ほどの調査で済むのですが、なぜ、それだけの調査で当選確実がわかるのでしょうか。
そのカラクリを紹介します。
全国規模の大きな選挙や地方の小さな選挙など、それぞれの地域の規模に応じて、出口調査の調査人数が変わってくる、そう思うかもしれません。
実際は、世論調査やアンケートなどでは、1500人~2000人の意見を調べることができれば、10万人であっても、1億人であっても、ほぼ同等の結果がわかるのです。
統計には、すべての対象者を調べることなく、ある程度信頼性のあるデータを集める方法「標本調査」があります。
もちろんすべての対象者を調べないと誤差(標本誤差)が生じますが、標本の数をある程度多くする、可能な限り偏かたよりがないようにするなどで誤差を軽減することが可能なのです。
この統計学的手法は身近な例でいうと視聴率の調査や工場で生産される商品の不良品を調べるのによく用いられています
「統計」がわかれば超効率化が可能に
たとえば、生産された商品100万個の中に、どれだけ不良品が出るか調べる場合を考えましょう。
100万個すべて、手作業、目視で調べるのは大変です。
しかし、一定数をランダムに選んで、そのなかに不良品がどのくらいの割合であるかわかれば、全体でも不良品の数の検討がつくのです。
こちらのほうが効率よさそうです。
具体的には、100万個からランダムに選んだ2000個を調べます。
2000個のうち不良品が10個あったとすると、0.5%の割合で不良品が存在することになりますから、100万個中では5000個前後の不良品があると予測がつく訳です。
この統計学的な理論を用いると、出口調査は2000人のアンケートがとれれば、何人分のアンケートだとしても、かなりの接戦でない限り、ほぼ当選確実と同等の結果が出るわけです。それをもとに当選確実を出していたのです。
もちろん出口調査時点で僅差である場合は当選確実を出せません。
出口調査になかなか立ち会えないワケ
2021年7月に行われた都議会議員選挙でも、まさしく午後8時になった途端、開票率0%の時点で当選確率が出ました。
NHKの出口調査では、都内484箇所の有権者4万3600人を対象に2万6359人から回答を得ていると記載があります。
2万人以上の回答ということは、先ほどの2000人よりはるかに多いサンプル数といえますが、この日もやっぱりネットは大いにザワついていました。
ただし、疑問が残ります。「出口調査している人なんて出会ったことない」「出口調査ってすぐにいなくなるけど、なぜ?」と。
これもあっという間にわかります。
NHKの例では、4万3600人に調査した場合、そもそも全体投票数が約470万票なので、割合としても100人に1人の調査です。
もし、484か所で聴くとしたら、1会場当たり90人ほど聞けばいいことになります。
投票開始の時間である午前8時30分頃から10時間ほどの間で聞くのであれば1時間あたりたったの9人。
ほとんど出会うことはなさそうですね。
あくまで、統計の出口調査によって「当選予測」を出す手法をお伝えしております。
国政を決める投票の1票1票、大事な票です。
どっちが怖い?どっちがお得?数学トリックにご注意を
たとえば海外旅行の旅行先を決めるとき、または引っ越し先を決めるときは、移動先がどんな所なのか事前に下調べすると思います。
治安や交通情報もしっかりチェックして、安全な地域を選びたいところです。そのときに、「数字トリック」にご注意を。数字感覚を身につけて、惑わされないようにしましょう。
質問です。次のうち、どちらの国が怖い印象を受けますか?
【A国】1日あたりで交通事故に遭う確率0.001%の国
【B国】死ぬまでに4人に1人は交通事故に遭う国
直感的には、交通事故率が高そうなB国に怖いイメージを持ちます。
B国に住んでいる4人に1人は事故に遭っていると感じますが、A国では、事故が起こるのは稀なケースだと安心しませんか?
ただし、「1日あたり」と「死ぬまでに」、「0.001%」と「4人に1人」では直接的に比べられません。
人生80年で計算してみましょう。
すると、A国とB国の事故率、実はほぼ同じだったのです。
数字トリックはまだまだあります。もうひとつ、お買い物の例で考えましょう。
値段が1万円のある商品がありますが、C店とD店では割引率が違いました。どちらが安くなるでしょうか。
【C店】75%OFF
【D店】70%OFF。さらにレジで15%OFF
どちらも割引後の値段はいくらでしょうか。
このように、世の中には数字で印象が変わるものが多く存在します。
何気ない日常や身近にある「数字トリック」をよく観察してみましょう。
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