街散歩 〜三島大社〜
先日、三島という街を訪れた。
不思議なことに、ホームに降り立った瞬間、仄かな名古屋の香りが鼻孔をかすめた。どちらかというと首都圏寄りだと思っていたのだが、意外とそうでもないのだろうか。
駅を出ると、曇天に映える木々の緑が目に優しい。眼の前の坂を下ってゆくと、せせらぎの音が聞こえてくる。富士の湧水だろうか。どこまでも透き通るその水は、触れてみると、今が盛夏であることを忘れる冷たさである。
瀬音に耳を愉しませながら尚もゆけば、突き当たりに鳥居が見えてくる。表参道ではないが、三嶋大社である。
一礼して鳥居をくぐると空気が変わる。まずは左手の祓戸神社にご挨拶。ゆっくりと参道に合流すると、神輿が出ようとしている。調べて知ったが、折しも京都からいらしていた八坂大神様がお帰りになる日だそう。祭事の下調べはせずに訪れたが、不思議な縁である。
参道脇の池辺りで、神輿の担ぎ手たちが徐ろに中腰となる。見れば、木の枝が低く垂れており、それを避けるためである。無事に神輿が過ぎるのを見届け、大社の二柱へご挨拶。これが済んで散策していると、宝物殿の後ろに神鹿たちがいる。柵を見ると、近くの売店で鹿煎餅を売っているとのことで、つい買ってしまう。おずおずと差し出した煎餅は、目にも留まらぬ速さで鹿たちの口に消えてゆき、あっという間になくなってしまう。「もうないのか」と、鹿たちの目は恨めしげである。こちらも幾許かの申し訳無さを感じながら、物欲しげな鹿たちに見送られ、大社を後にする。
帰り道もやはり、瀬音が耳に心地良い。三島は水と共に発展してきたのだろう。落ち着きのあるこの街に、水が溶け込んでいる。派手さはないが、そこにいるだけで落ち着く、不思議で魅力的な街である。
夏ゆるむ 瀬音ゆかしき おほやしろ