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#6 (動画追加・追記あり)地盤補修工事中に川で気泡~調査は?リスクは?~

「エア出ています!」
12月6日昼過ぎ、東つつじヶ丘を流れる小さな川、入間川の河道に工事担当者の声が響いた。25メートルほど離れた場所では地盤補修機械が動いていた。川面にカメラを向けると、底からジャグジーのように間断なく噴き出す気泡が見えた。1カ月前に起きた事象が再現された瞬間だった。

“エア出ています!”

ことの始まりは11月2日午後3時ごろ。地盤補修工事の最中に川底から気泡が発生していることが確認された。作業を止めると気泡は止まった。
8月2日から施工が始まり、あわせて220本ほどが予定されている円柱状の地盤改良体のうち13本が完成し、14本目、15本目の作業をしていたところだった。

入間川における気泡について(第1報)

NEXCO東日本や施工者である鹿島JVは以降の作業をいったん中止。周辺環境への影響を確認するとして、河川の構造物などの変状や気泡の成分、水質を調査すると発表した。

入間川における気泡について(第3報)東日本高速道路

気泡といえば5年前、2018年に、東京・世田谷区、東名ジャンクション近くのトンネル掘進現場付近で発生した事象がある。シールドマシンによる掘進時に土を柔らかくするために使う添加剤、シェービングクリーム状の「気泡」に由来する泡が付近の野川の底から発生。問題視した住民らに対し事業者側は「泡の酸素濃度は1.5~6.4%(通常18%未満で「酸欠空気」と呼ぶ)だったが、大気に比べ微量であり希釈される」と説明。
しかしそれ以後、漏気を抑制する工法に切り替えた経緯がある。
【お知らせ】東名JCT周辺の野川の気泡等について 2019/02/14(東京外環プロジェクト)

今回の入間川のケースは、超高圧でセメント系固化材と空気を地盤内に噴出させて円柱を作る「高圧噴射攪拌工法」との関連が疑われ、野川のケースとはメカニズムは異なるとみられる。しかし住民は、トンネル直上に限定されている地盤補修範囲の外への影響について強い懸念を示す。

今回の漏出は、高圧噴射による作業が、対象にした土地、地下47メートルまでのトンネル直上部に限った地盤を「修復」するだけでなく、その影響が、直径4メートルの改良体の外側のトンネル周辺の土地にも広がり、少なくとも10数メートル離れた、周辺の土地=入間川川底にまで及んでいることを示しています。これは、事業者が「修復の必要がない」と言っていた地盤をも傷つけ、財産権を侵害している事実と、酸欠空気漏出の危険を明らかにしたものです。(外環被害住民連絡会・調布の声明 11月7日)


気泡の漏出という現象からはどのようなリスクが懸念されるのか。
12月6日、現地ではおよそ1か月ぶりに機械を動かしての「再現調査」が行われた。

高圧噴射攪拌のための地盤補修機械 1カ月ぶりに稼働

三面コンクリートの河道では、ざっと数えて20人以上の監督者や作業員が準備をしていた。11月に気泡が発見された場所をはさんで20メートルほどのエリアの上下流の端には土嚢やポンプ、タンクが準備された。
現場の担当者によれば、気泡が出たらその時点で前後を土嚢でせき止め、気体や水のサンプルを採取したのち、周辺の水をタンクに吸い上げてプラントヤードに運んで処理するのだという。気泡とともにセメント系固化材や土壌の中の物質が川に漏れ出して汚染させる恐れも否定できないからだ。慎重さ、周到さにいささか驚いた。

川をせき止められるよう土嚢などを準備

川岸には測量機器が置かれた。工事の影響で河川構造物や周辺地盤の「変状」が出ないかを調べるためだ。

変状調査のため測量機器を設置

高圧噴射撹拌工法では、セメント系固化材や空気を高圧で地中に噴出するため(調布の現場では固化材を約380気圧、空気を約14気圧)排泥が詰まった場合などに、逃げ場を失った圧力で、周辺地盤に変状が発生することもあるという。

(参考:耐震補強の高圧噴射撹拌工法で擁壁に変位が発生  
2022/02/25 一般財団法人 建設業技術者センター運営「CONCOM 現場の失敗と対策」より)

河道の亀裂などの有無を事前に調査(5日)

最初の気泡の確認から調査開始までには1か月以上を要した。東京都が管理する河道内に立ち入って調査をする手続きなどのためだ。
1カ月の休工は痛かったのではと問うと、担当者は少し戸惑いながらも、「やるべきことはひとつひとつやっていかないと」と答えた。

午前10時すぎ、ひと月前の続きから機械を動かす。
多くの目が川面を凝視した。最初しばらくは変化は見られない。機械の低い音だけが響き、誰もが無言の、緊張した時間が流れる。

地盤補修機械が稼働する中、川面を見つめる工事関係者

途中、排泥の状態が芳しくなく、圧力を下げるとの連絡。緊張が少し緩む。

11時50分ごろ、再び圧力を上げるとの連絡。
それから15分後の12時5分ごろ、冒頭の声で現場に緊張が走った。気泡の発生だ。

場所は11月の場所から少し下流で、土嚢で区切った場所より下流だった。予想と違う場所での発生で対応に追われる声が響く。
そして今度は上流寄りを指さす人が。

“あれ!”

見ると、気泡が川底にたまった土を吹き上げていた。

川底の土を吹き上げる気泡

その後も気泡の発生は相次ぎ、結局この日午後1時までに、合計8か所で確認された。あわただしく気泡を追いかけ場所をチョークでマーキングする人や、気体を採取するチーム。そうした光景をカメラで追っていると、いつの間にか周囲には、住民や自治体職員、メディア関係者などが集まっていた。

成分分析のための気体を採取

NEXCO東日本は先月、気泡発生の事実を、当日の11月2日付けで「第一報」として公表した。きわめて早い対応の背景には、発見時にたまたま住民グループのメンバーが現場に居合わせたことや、10月に発覚した、野川のサイクリング道路の舗装の損傷を道路管理者に連絡せずに修復した問題もあったかもしれない。

東京新聞 10月16日「また陥没穴? 東日本高速がこっそり修復 近くで外環道トンネル工事 調布のサイクリング道路に6カ所」

【お知らせ】野川サイクリング道路における舗装の損傷について(東京外環プロジェクト)

しかし今回、1か月もの間工事を中断し、入念に準備して調査に至ったことについては、慎重にことに当たる姿勢を一定程度うかがわせた。
それだけに、なぜ3年前の夏、振動の訴えや度重なるシールドマシンのトラブルに際して、同様に工事を中断して調査するなど、慎重な対応をとらなかったのかという点については、いまとなっても、残念というほかの言葉が見つからない。3年前、振動被害を訴えた際、住民は「4,5日我慢してください」と言われた。16回に及んだシールドマシンのトラブルに際しては、有識者のひとりが添加剤の変更をアドバイスしたが、十分に生かされることなく工事が継続された。

今回発生した気泡自体は、それが有害成分でない限り、さほど大きな問題にはならないかもしれない。しかしこれが地盤内で起きている何らかの変状の片鱗、予兆であるか否かは現時点ではまだ不明だ。現場の情報では、調査結果が出るまでには2週間程度かかるということで、少なくともそれまでは地盤補修工事は中断されることになる。

(追記 12月26日)
後日、事業者側は調査結果について以下の通り明らかにした。以下、東京外環プロジェクトホームページ
入間川における気泡について(第5報)
「今回の調査結果を踏まえ、大気や河川の水質に影響を与えていないことを有識者に確認しています。
なお、調査結果を踏まえた気泡発生のメカニズムや今後の対応等については、あらためてお知らせします」

(追記:2023年12月25日
入間川における気泡について(第4報)(12月15日)
<変状調査の結果>
令和5年12月6日に地盤改良体の造成作業に伴う周辺環境への影響を確認するため、一時的に改良体の造成作業を行いました。 下記のとおり、河川管理施設等の変状調査を行いましたので、結果をお知らせします。なお、気体調査及び水質調査の結果については、あらためてお知らせします。
<変状調査内容>
地盤改良体の造成作業の前後において、周辺の点検及び測量を実施
<調査期間>
・現地調査:令和5年12月5日~7日(調査に伴う改良体造成日:12月6日)
〇点検の結果、気泡の発生前後で、造成作業実施箇所周辺や河川管理施設に変状は確認されませんでした。
〇測量の結果、気泡の発生前後で、地表面等に特段の変化は確認されませんでした。


地盤補修の施工に関するオープンハウス及び意見交換の場におけるご意見とその対応のとりまとめ(令和5年12月22日時点)」より。
○12月6日の改良体の造成作業は、10時5分頃から開始し、12時5分頃に入間川において、気泡が発生していることを確認しました。
○その後、12時30分頃まで造成作業を実施し、13時25分頃に気泡の発生が止まっていることを確認しました。
○なお、翌日以降、気泡の発生は確認されてません。
○今回の改良体の造成作業は、地表面から、深さ約37m〜約33mで実施しました。
○入間川において、計9箇所(うち1箇所は、11月2日に気泡が発生した箇所と同じ)から、気泡が発生したことを確認しました。
○なお、調査の結果などについては、改めて、周辺にお住まいの皆さまへお知らせします

※記事は不定期で追加、更新していきます。
※写真や画像は引用表示・但し書きがない限り筆者の撮影・入手によるものです。
※内容についてご指摘、ご意見、情報などありましたらお問い合わせよりお寄せ頂ければ幸いです。

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