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コロナ対策 財政問題をどう考える

〇新型コロナウイルスの感染拡大で、予想通り世界各国で巨額な財政出動を余儀なくされ、財政の健全性が損なわれています。財政の健全性はPB(=プライマリーバランス、基礎的財政収支)で測るのが普通で、PBは公共事業や社会保障といった政策経費を、新規国債に頼らず、税収入などでどのくらい賄えているかを示すものです。日本は毎年税収では足りず、赤字になるPBが積み上がり、2019年度末、GNP比236%までに膨れ上がっています。

○2020年8月1日の日本経済新聞によると、経済協力開発機構(OECD、加盟37カ国)が6月末にまとめた試算では、加盟国全体のPBの赤字が、2019年はGNP比1.6%でしたが、2020年度には9.4%まで拡大する見込みだということです。そして日本の2020年度PBの赤字はGNP比11.4%の見込みで、アメリカの11.9%に次ぐ規模です。

〇財政出動の巨額化に伴う問題は、大きく言って2つあります。1つはどのようにして財政を活用して、必要な経済対策を行うか。もう1つは、そのために財政出動はますます巨額になるが、そんなことを際限なくやってしまって良いのか、日本国が破綻してしまうことはないのかという問題です。

〇さすが経済専門紙の日本経済新聞、8月12日から「財政をどうするのか」というテーマで、上・中・下の3回シリーズを行いました。中々面白い内容ですので、そのポイントを紹介しながら、どうしたらいいのか我々国民も考えてみましょう。

〇シリーズ(上)の論者、日本経済と国際貿易が専門の米・コロンビア大学のデビッド・ワインシュタイン教授は、日本は大きな財政出動をやれる立場なのだから、徹底的にやれという楽観的な主張です。

〇ワインシュタイン教授はまず「過去20年間、近いうちに日本で金融危機が起きるのではないかと多くの人が心配してきた」と言います。これは、日本銀行が国債を市場で大量に買うことで国債の金利が低く抑えられ、財政破綻に至っていないという専門家の見方がある一方、こんなことは長く続かないという見方もあることを指しています。しかしワインシュタイン教授は「これまでのところ危機襲来の兆候はさほど見当たらない」としています。

〇このため、教授は言います。「幸いにも日本政府はゼロに近い金利で借り入れをすることができるので、企業と労働者に流動性資産を供給して支援できる立場にある。換言すれば、財政出動の費用は小さくその効果は大きい」。うわー、安倍内閣から内閣顧問になってくれと、迎えに来そうなありがたい論ですね。

〇しかしワインシュタイン教授は経済学者なので、用心深く付け加えています。「言うまでもなくこの政策選択で心配なのは、引き受けた債務を返済するためにいずれ増税をするか支出を削減しなければならないことだ。その上、日本にはインフレ率が上昇する可能性が常に付きまとう」。ふむふむ、それはそうでしょう。

〇とはいえワインシュタイン教授の楽観論は、筋金入りです。「だがたとえ将来の財政運営に支障をきたすとしても、この先待ち受ける危機が、目の前の危機より深刻だとは思えない」。

〇シリーズ(中)の論者は、公共経済学が専門の東大の岩本康志教授。国は4月に新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を策定し、それを実行するため、過去に例を見ない規模の補正予算を組みました。国の一般会計歳出は2019年度の1.5倍、大規模な財政出動がされることになりました。これについて岩本教授は、「財政規律は緩んでおり、感染症への対応を口実にそれが加速した状態」「経済対策策定時に財源の問題が議論されなかったのも適切でない」としています。

〇さらに岩本教授は「東日本大震災の復興事業では、ある時点での負のショックを将来にわたる期間で、平準化して負担しようとする課税平準化の考え方により、復興財源が確保された。感染症対応のための一時的な財政支出の財源も、同じように課税平準化で考えられるはずだが、それがなされていない」と手厳しく批判しています。

〇最後にシリーズ(下)の論者、マクロ経済学、財政運営などが専門の中里透上智大准教授の主張で注目すべきは、国債消化余力の問題と家計金融資産残高、政府債務残高、企業部門の資金余剰(貯蓄超過)との関係の指摘です。

〇「過去30年ほどを振り変えると、政府部門が資金不足に転じ(財政赤字が発生)、家計部門の貯蓄が減少傾向をたどる中で、企業部門は資金余剰に転じ、このことが安定的な国債消化を支えてきた」という指摘です。

〇コロナ感染拡大の終息の見通しがつかず、巨額な財政出動が続く中で、財源の問題、ひいては貨幣の信認の問題は、目の外せない重要事項であり続けそうです。

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