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出版社を始めたものの倉庫代をケチったら在庫が水没した話
起業というと大変なものに聞こえるが、会社という箱を作るだけなら少しのお金と資料を用意すればできる。
大変なのは作った後。
いかに潰さず継続するか。
じゃあどうすれば潰さずに済むかというと、手元に資金がちゃんと残るようにすればいい。入ってくる分より出ていく金額を減らす。ちゃんと稼いで、無駄遣いしないこと。
そんな風に起業家の大先輩方が言っていたから、私の出版社経営もとにかく節約してミニマルに始めた。
お洒落な居場所なんていらないからバーチャルオフィス。業務委託の方々に助けてもらい、社員は私ひとり。
(流行りの”ひとり出版社”ってヤツ)
倉庫も借りず、書籍の在庫は1冊目の著者と私自身も縁があったハイパーリバ邸というシェアハウスに置かせてもらっていた。
だが、刊行から半年ほど経ったタイミングで水没した。
倉庫代をケチったら在庫が水没した
ハイパーリバ邸は、20代前半の頃に1年間住んでいたシェアハウス。
いわゆる大家族が住むような一軒家で、その1階の押し入れに弊社の1冊目である「CAMPFIRE解体新書」の在庫を、500冊ほど置かせてもらっていた。
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ハイパーリバ邸での管理はなかなか便利だった。
場所は渋谷から歩ける距離。数冊必要な時はすぐに取りに行ける。
シェアハウスだから常に誰かいて急な発送も対応してくれたし、著者が住んでいたのでサイン本も頼みやすい。
だが、水没した。
物件は3階建てで、2階にお風呂場や脱衣所がある間取り。その2階にある洗濯機が倒れ、ホースが抜け、住民が帰宅するまで水が脱衣所に流しっぱなしになった。
水は2階の床を水浸しにし、1階の屋根をふやかし、落とした。
言わずもがな、1階もビショビショ。
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1階の押し入れには「CAMPFIRE解体新書」が、印刷所から納品されるキャラメル包装のまま積んであった。
![](https://assets.st-note.com/img/1726324709-nmATU5LVDRtNQCIy9dq0WxPH.jpg?width=1200)
水没を発見した住民が避難させてくれたので全滅は免れたが、100部ほど滲んだり濡れた跡ができたりして、売り物にならなくなってしまった。(住民さんや著者の手を借りつつ1冊ずつ検品した)
売れなくなってしまった分は割引して販売したり、著者のキャンペーンなどのプレゼント分として活用したりした。
だから無駄にはしていないのだけれど、CAMPFIRE解体新書は弊社の1冊目で、制作費からクラウドファンディングで沢山の方に支援してもらって作ったものだったから申し訳ない気持ちでいっぱい。
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とはいえ、こんな状態の中で全滅を免れたのはラッキーだったし、救い出してくれた住民さんは救世主。
倉庫代はどれぐらいかかるのか
災難にあったCAMPFIRE解体新書。
もし倉庫会社に預けていたら、こんなことにはならなかっただろう。
出版社は大体「倉庫会社」と契約をして、たくさんの在庫や返品の管理をしてもらっている。
日本には10,000店以上の書店があり、3000カ所以上の図書館があり、それらが日々、注文や返品などをしてくれる。
厳密には各書店や図書館とのやりとりは「取次」と呼ばれる仲介事業者が間に入ってくるのだけれど、その取次の在庫だって出版社が用意しているので、まあ相当数のやり取りが発生するのは想像してもらえると思う。
このやり取りを代行して、在庫数を管理してもらえるというだけで、倉庫会社と契約するメリットがある。
さらに、出版社が契約する倉庫会社は「取次」への路線便を用意してくれている。こちらは超特大のメリット!
路線便とは1台のトラックに複数の企業の荷物を一緒に乗せて運ぶ運送便のこと。
つまり沢山の出版社の本を一緒に乗せて「取次」へ搬入してくれる。送料は相乗りした出版社たちでワリカンするので、一般的な発送方法を使ったら大赤字な「1冊」とか「5冊」の注文にも応えやすくなる。
その出版社たちが利用している大抵の倉庫会社の料金は
固定利用料+在庫料金+送料=月額の請求金額
という形で決まる。
固定利用料はシステムを使わせてもらったり、担当を付けてもらったりする料金。
取引先のためにぼかすが、きっとどこも月5万円~10万円くらい。
在庫料金は管理している在庫毎の料金。
1冊あたり5円……みたいな形で決まる。100冊保管するのと、100,000冊保管するのじゃ、必要なスペースが全然違うんだからそりゃあそうだ。
送料は実際にかかった費用。梱包資材も込み。
こちらも冊数によって変動する。
まとめると、最小でも固定利用料(月額5~10万円)はかかり、保管したり動かしたりする在庫が多ければ多いほど料金がかかる。
(水没時などの災害補償があるかは契約を要確認)
逆に言えば、在庫数に限らず固定利用料が発生するのだから、刊行部数が多く在庫が多い出版社ほど倉庫会社と契約するメリットが大きい。
ただできたての出版社で在庫数もそれほどない……みたいな状態であれば、メリットが小さくなるわけで、むしろ固定利用料の月額5万円を1年間ほど節約(60万円)して他のことにあてた方がいい。
そう考えたので、2023年の7月と8月に書籍をだし、刊行点数が3点になった段階でようやく今もお世話になっている倉庫会社と契約した。
ちなみに倉庫会社も色々ある。
弊社「逆旅出版」は先輩出版社さんに紹介していただいたところと契約した。取次への路線便がある倉庫会社の伝手なんてまずないので、本当に感謝している。
余談 節約のために本と暮らす
余談だが、私のような小規模な出版社の中には、自宅を事務所としている方々も多い。
そういった方々は文字通り本に囲まれて生活をしているそうだ。本屋を兼業している方もいる。
ただ、商業的に本を扱うのなら最低でも1度に1000部、できるなら2000部は印刷したいところだから、かなりの冊数と共に暮らしていると思う。
![](https://assets.st-note.com/img/1726344930-zvgoJGWDVPTfrnpCuBYal8wx.jpg?width=1200)
ちなみに、この写真はついこの間できた新刊の発送作業中。奥の見えている部分だけで大体350冊くらいで、このボリュームになる。
1,000~2,000冊の置き場は我が家にはない。
ちょっと憧れてしまう気持ちもあるけれど、誰もがとれる選択肢ではないので、これから出版社を始める方がいたら在庫管理方法は検討すべきポイントだと思う。
これからも「できる範囲の節約」を
この記事は「こんなこともあってさ」と起業奮闘記を笑い話としてシェアしたくて書いた。
だが、最後まで読んでくれた方へ、なんとか利のある結論へとまとめると
水没は痛いがやっぱり経営上の節約は大事
とくに倉庫代とか家賃みたいな固定費は節約ポイント
倉庫代は刊行部数が増えればお得になるので何とかしろ(大きい経費をかける時はそういう最善策を探すこと)
みたいなところだ。
というのも、個人的には「在庫を失う」という悲しい事実はあっても、そこを節約したからこそ使えた経費・出た利益は間違いなくあるし、結論として逆旅出版が今も続いているから当時に戻っても同じ選択をしたと思う。
(水没は……もうしたくないけど……)
むしろ改めて記事にすることで、今使っている経費が本当に無駄遣いじゃないかもっと考えたいと思った。
資金や時間というリソースは限られているからこそ、ちゃんと思い描く未来に逆旅出版が近づけるように取捨選択したい。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。