出版社を経営してみて出くわした、どうしようもない商品のキズ問題
「商品が傷んだ状態で届いたので、着払いで返送します」
というメールが届いた。
創業から1年ほど経ち、ある程度の冊数を世に出すようになった頃だった。
添付されていた証拠写真を見ると、確かにボロボロ。自分が新品で本を購入して、こんな状態で届いたら悲しすぎる。
だが、この書籍は刷り終わった後、契約している倉庫に納品してもらい、そこから発送してもらった分。
つまり、出版社(私)の手元を一度も通過していない。
え……、いや、弊社どうしようもなくない?
弊社どうにもできないキズ問題の背景
状況を整理すると、登場人物は以下の5カ所。
出版社(私)
印刷会社
倉庫会社
配送業者
受取先
先にも書いたが、出版社(私)の手元を書籍は一切通っていない。
刷り終えた後、印刷会社からそのまま倉庫会社へ送ってもらった在庫だからだ。
倉庫会社は受け取る際、検品を行っている。余談だが、出版社はその手間賃も払っている。なので、印刷会社が傷を付けた可能性はない。
つまり、
倉庫会社が傷ついた状態で発送してしまったか
配送業者が配送中に傷つけてしまったか
受取先が傷つけてしまったか
しかないのである。
「発送時の送料も、戻ってくる着払いの送料も、商品の原価も傷をつけた方が負担すべきでは? 最低限、再発防止策は考えないと」
そんな気持ちを抱えながら各所に連絡したのだが……。
倉庫会社は「梱包時に検品しているし、絶対に傷ついた状態で発送はしていない」
配送業者は「配送中に傷つけてはいない、補償を適用するには受け取り時に外装から判断して拒否してもらうしかない。受け取られた時点で補償は適用できない」
受取先は「梱包をあけて傷ついていたから連絡した」
とのことだった。
もちろん、倉庫の管理体制には普段から感謝をしていて、丁寧に発送をしてくれていると思っている。
配送会社だってプロだしもちろんちゃんとしてくれただろう。
受取先はむしろ返送の手間をかけて優しい対応をしてくれた。
え……でも、じゃあどこで傷ついたの?
傷ついたタイミングがわからなければ、再発防止もできない。
弊社に至っては触ってすらいないのだが、当事者全員が「うちは違う!」と言っている。
きっと有形商材を扱う皆が通る道
キズが発生するのは仕方がない。
市場にある程度の有形商材を出荷している以上、皆が通る道なのだとも思う。
ただ、弊社はこの件で
最初に送るための送料
傷ついて返ってくる着払いの送料
商品の原価
対応をするスタッフのリソース
関係者各位からの信頼
を負担している。めちゃめちゃ赤字だ。
なにより痛いのが、関係者各位からの信頼を失うこと。
書店に陳列してもらう中でも、お客様が試し読みでキズをつけてしまうことはある。正直、日常茶飯事だ。だが、その場合は関係者各位からの信頼は失わない。
今回のケースは「なぜかキズついたものが届いた! 嫌な出版社!」と思われしまう。とても悲しい。
けれど、再発防止すらできない。
再発防止ができないとはいえ……
とはいえ、仕方がないと言い続けても仕方がないので(笑)、根本解決には至らないものの取り入れた対策をまとめておく。
対応策1.付き物の予備を用意
まず、付き物の予備を用意した。
厳密にはこの件が発生する前から取り入れてはいたのだけれど、出版社経営者の先輩方や印刷所の担当さんに教えてもらわなかったら、知り得なかったことなので書いておく。
付き物と言うのは印刷用語で、本の付属物にあたるカバー、帯、スリップ、読者カードなどを指す。
(読者の時はあまり意識しないがカバーやら帯やらは付属品で、ぜんぶはぎとったシンプルな状態が書籍の本体だ)
これを、初版時に多めに発注しておく。
例えば書籍を1,000部するとしたら、カバーや帯は1,100枚など刷っておく。印刷は1度に大量に刷れば刷るほど1枚あたりの原価が安くなる。なので、初版の発注時にカバーや帯だけ多めにしておくのだ。
厳密に何枚くらい増やすと料金的に効率がいいかは、印刷所の担当さんと相談する。
書籍の本体が傷つくよりも、それを覆っているカバーや帯が傷つくことの方が圧倒的に多い。
その場合、本体を磨いて綺麗にして、付き物は新しいものを付け替えると、また商品として世に出せる状態になる。
ちなみに、この磨いたり付き物を変えたりする作業は倉庫会社と契約していると請け負ってくれる。
以前、上記の記事で倉庫会社に委託するメリットをいくつか話題にだしたが、この磨いたり付き物を変えたりといった返品時の対応が減るのも倉庫会社と契約する大きなメリットだ。
対応策2.余裕をもった利益計算
また、書籍制作時の利益計算に余裕をもたせておくのも対策のひとつだ。
刷った全ての本が無事に利益になってくれるわけではない。
なんだかんだで献本したり、見本としてお渡ししたり、どこかで傷がついて売り物にならなくなってしまう。
なので「2000冊が損益分岐点だね!」という場合は、「じゃあ2000冊刷ろう!」とか「2000冊売ったら安心だね」ではダメなのだ。
印刷部数も販売目標もそこまでギリギリを攻める人は少ないと思うが、余裕をもたせて利益計算はした方がいい。
お客様宛の商品がとても心配
とまあ対策を話してみたものの、これらはキズの発生を防ぐものではないし、受け取り側に「傷んだ商品が送られてきた!」と思わせてしまうことに変わりはない。根本的な解決ではないのだ。
同業者であれば「すみません、新品なはずが」と言えば理解こそ示してくれるだろうが、お客様宛だった場合がとても心配。
自分も宅配で色んなものを買うが、モノによっては心から楽しみにしている場合もあるし(もし自社の書籍がその対象になったらとても嬉しい)、それがキズものだったら悲しすぎる。
そして大体の方が「嫌だな……」と思いながら、ただモヤッとするのだろう。本当だったら楽しく読んでもらえたはずなのに。
返品するとしたら、今回と同じようになる。
磨いたり付き物を変えたりでどうにかなればいいけれど、基本的に出版社は損益を被る。もはやそういうポジションだ。
防げたらいいけれど……、やっぱり防ぎようがない。
つくづく、書店員さんの目で確認して販売してくれる「書店」というのは心強いなあ、渡す前にキズかどうか確かめてくれるってことだもの……と思いを馳せるくらいしかできない。
優しく立ち読み・返品・配送してくれる方々に感謝
私の考えを色々と書いたが、出版社はもちろん多くの有形商材を扱う人達が出くわし、「え、弊社どうにもできなくない……?」と思いながら、それでもなんとかしているんだろう。
むしろ創業から1年経つまで出くわさなかったのは恵まれていたのかもしれない。
商品を世にだした以上、綺麗に返ってくるのは関わった人達が優しかったからなのだと思う。
書籍に関していえば、優しく立ち読み・返品・配送してくれる方々に、本当に感謝! 皆の利になり、皆で富める書籍を今後も作っていきたいと思う。