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2040年、企業は将来の人材不足にどう対応するか?「異業種交流会」発表のまとめ

将来の人材不足に対する「異業種交流会」を実施

中部産業連盟は今年設立75周年を迎え、企業が不安を抱える社会的課題を取り上げた「異業種交流会」を開催しました。
テーマは「2040年、将来の人材不足にどう対応するか?」という未来志向の内容です。趣旨に賛同頂いた中部の企業5社で夏以降3回の会合を実施し、中長期的な人材不足の課題と対策について議論を進めました。内容は採用強化、社員定着から業務効率化や自動化、リスキリングなど多岐に亘りました。

図1

参加5社からの発表

去る11月21日の発表会では「業界の労働環境予測」「成長への課題」「対策の方向性」の3点(図1の赤字部分)について、参加5社から各5分程度の発表を行いました。
参加企業5社は、製造2社(産業機械メーカー、食品メーカー)、IT企業1社、運輸業1社、外食チェーン1社と多様な業種のため、示された課題や対策も実に幅広いものとなりました。

各社発表の詳細は12月25日より中部産業連盟のHPに動画を掲載しますので、ご参照ください。

交流会では発表会に向けて次の3つのフェーズで討議しました。
1.2040年の未来予測、2.未来に向けた課題、3.未来に向けた取組みです。
本稿では全体のまとめと提言を記載します。

会全体のまとめには「人材ポートフォリオ」を活用

各社の業種や課題が多岐に亘るため、共通する「軸」が不可欠と考え、人材ポートフォリオを活用することにしました。
人材ポートフォリオとは、自社での人材活用の配分割合をタテ軸(長期―短期)とヨコ軸(創造的―反復的)の2軸で4分割して(図2の青色と水色の部分)整理できるツールです。俯瞰的にマッピングでき見やすいため、最近注目の人的資本経営でも推奨されています。

図2

ポートフォリオの4分割の各部はそれぞれが人材グループを示しています。
右上は長期・創造的な活躍が期待される正社員のリーダー人材を指します。
左上は長期・反復的な正社員の実務エキスパート人材を指します。
下部は短期雇用の人材で、左下はパートや派遣社員、フリーランスなど短期・反復的な業務を担当する人材で、右下は短期・創造的な業務の期待を担う契約プロフェッショナル人材と位置付けます。

未来予測には3つの方向性

交流会の1.未来予測フェーズでの討議内容は以下の3点に整理できます。

(1)人材の流動化が激しくなる

予測の第一は人材の流動化は現在よりさらに将来は進行するという点です。図2で「2.外部活用が増加」とした部分です。

企業によってはこれまで自前主義で正社員を高比率で雇用してきた社もありますが、今後は短期雇用の多様な人材をうまく活用する必要性が高くなります。スキマバイトなどがその典型です。

(2)自動化・DX化が進む

図2で「1.DX化」とした部分です。
政府予測では2040年以降は急速に労働人口が減少し、リクルート社の調査では1,000万人の労働力が不足するとされます。

人で対応できない業務が多数あることを前提に、業務の自動化・DX化が進みます。安易な自動化・DX化はお客様から歓迎されず、または非効率なプロセスの自動化はさらなる非効率を生むなどの懸念点もあり、何をどう自動化・DX化するのか注意が必要です。

(3)長期雇用社員は創造的な業務が期待される

図2で「3.正社員の区分は境目なし」とした部分です。

人材流動化で長期雇用の正社員が限られる中、反復的な業務は多くが短期雇用や自動化・DX化で置き換えられます。長期雇用の社員には属性を問わず、自社のアイデンティティーに関わる創造的な業務が求められ、またそうした働きを可能にする人材育成が企業には求められます。これらの観点から、長期雇用社員へのリスキリング投資の早期開始が不可欠です。

将来に向けた課題は企業の成長ステージによる

交流会討議の次のフェーズは、2.自社の将来(の成長)に向けた課題
です。

業界により労働環境も大きく異なるため一概に言えませんが、企業の成長ステージにより課題が大きく異なることが確認されました。
将来を先取りした社員の獲得競争の激しさは今後も変わらないと考えられ、「成り行き」任せでは自社のポートフォリオを維持するのは難しいと思われます。「人手不足倒産」という言葉も昨今聞かれるように、場合によっては人材不足で事業縮小せざるを得ない可能性もあります。

図3

(1)成熟企業の場合

現在の水準で事業継続するためには、自社ポートフォリオの規模が縮まない対策が必要で、ポートフォリオからの人材の流出防止が最重要課題です。
やめて欲しくない社員に限って早期退社すると言う話を耳にしますが、質・量の観点では人材の量より質を重視する必要があります。
内需型の成熟企業では、人口減少社会の下で事業縮小もやむなしと考える企業もありますが、その場合も「質の向上」は不可欠です。

(2)成長企業の場合

IT業界など成長産業では、人材確保が困難不足の環境下でも事業拡大を進めます。前項同様に自社ポートフォリオ内の維持に加えてポートフォリオ外、つまり外部の潜在的な労働力の確保へ積極的に投資することが課題となります。質・量の観点からは量を重視します。

今後の対策と提言

討議の最終フェーズは、3.今後の対策と提言についてです。
実施中の対策も含め、各社から実に様々な対策案を提案いただきました。今回は対策の方向性をポートフォリオの「内」「外」の2つに分け、整理します。

(1)人材定着に向けて (ポートフォリオ内の対策)

自社ポートフォリオ内の課題であるため、自助努力が可能な領域です。
図4に記載した通り企業努力で対応できる項目は多数あり、企業各社には採用環境に負けずにあらゆる企業努力を継続することを提言します。
人材定着への様々な施策が外部に魅力的に映ることになれば、将来の外部人材獲得へのプラス材料にもなります。

各社から挙げられた対策の方向性は図4の赤字部分で、社員の意欲を向上させ今いる人材の質を向上する対応が主になります。

図4

①  個性重視の育成、登用

若手社員は成長機会や成長実感を重視する傾向が強いため、個人別のスキルや意欲を元に人材活用する「タレントマネジメント」により、育成や登用をスピードアップします。従来型の階層別育成を一部廃し、個人の意欲とスピードにあった個人別の育成、配置や長期的キャリア形成につなげます。

ジョブ型人事制度の導入についても話し合いました。
長期的なキャリア形成を重視する観点からメンバーシップ型の人事管理が望ましいが、年功色を廃すべし、というのが現段階の結論です。

 ②  対話重視のマネジメント

個性を重視した育成を行うため、職場での対話を重視します。
上司や指導役から評価や目標設定において公正な説明とフィードバックを行うとともに、本人の思いを定期的に聞き取り話し合う機会を増やす必要があります。
労働時間や勤務地など労働環境に配慮したホワイト企業であることが企業選びの必須条件のため、職場での対話を通じて普段から社員のエンゲージメントを高める必要があります。

 ③  サポート役シニアの配置、管理技術の高い管理者の育成も

上記のような人材育成や個別ケアは、実務サポートに追われる管理者に十分な時間がないことや管理者数の不足により、これまで実施しきれていない例が多いようです。
育成のサポーターとして、実務を熟知したシニア社員の本格活用が必要です。指導方法に不安のあるシニアにはサポート役の役割と対話術を再指導することが前提です。

将来に向けてはこれまで以上に管理技術の高い管理者を育成することです。自ら業務を効率化して指導時間の捻出し、テキパキと教え任せる職場体制につなげます。

 (2)人材獲得に向けて (ポートフォリオ外の対策)

自社ポートフォリオの外から潜在的な雇用者を獲得する課題です。

自助努力の及ばない面の多い領域の活動であり、行政や教育、産業界全体など企業外からの様々な支援が不可欠となります。
討議では社外への提言として、支援を期待する点を話し合いました(図5の青字部分)が、残念ながら限られた討議時間で具体的な提言内容をまとめるには至っておらず、今後の課題とします。

図5 

企業努力が求められる点は以下の4つです。

①  通年の採用活動は継続

今後も採用活動が容易でなく、今後も従来と同様のハードな採用活動が不可欠です。すでに通年採用活動を数年続けている各社からは疲弊感が漂うとともに、これからも長期間同様の活動を継続する体力があるか強い不安を感じます。採用活動への負担軽減はいち企業では対処不能な課題で、採用協定の合理化などに向け産業界・教育界によるご支援を期待します。

②  雇用対象層の拡大

これまでと異なる人材層からの採用拡大に向け、外国人や主婦パートなど多様な人材が活躍できる環境づくりが大きな課題になります。
多様な人材の活躍を後押しする業務の標準化、短時間での伝承は企業努力の課題です。

一方すでに外国人労働者の実習制度や専業主婦パートの扶養控除枠拡大については、規制緩和の動きがありますが、雇用対象層の拡大にはそうした規定緩和の早期実行が不可欠で、行政の支援を期待します。

③  DX化に向けて

人が行う業務量を減らすことが3つ目の課題です。
自動化、DX化を進めるのは自社内での課題と思いがちですが、取引先とサプライチェーンで繋がっていることが多く、自動化の方向性が合わないと対策が進まないことが多いため、業界全体の申し合わせや支援が期待されます。

④  前提として業務標準化の自助努力が不可欠

上記の対策が成就し人材確保できたとしても、業務の標準化が不十分では引継ぎや教育に時間がかかり、人材が定着しません。多くの企業ではこれまでの長期雇用の悪影響で、特に間接系の職場で業務が個人に属人的になっているケースが多々あります。

参加各社でもそのような状況が散見されます。そうした「マイジョブ」を効率化・標準化した上で、「アワージョブ」として共有することが不可欠です。企業によっては長年放置されてきた課題ですが、将来に向けて今こそ徹底的に解消することをご提案します。 

(執筆者:中産連 経営革新コンサルティング事業部長 石原聖治)

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