見出し画像

【アプリ開発日記8週目】「個別化」の例外とは? / 産業医の「能動的な医者」という側面

開発者が山程うまれる時代、幅広い知見も貴重な武器となります。

ということで、産業医講習会に参加してきました。


0,結論

個別最適化が進む時代……と思いきや、例外的な分野もありました。

医者というと、どうしても「病気や健診で引っかかってから行く」というイメージが先行します。

しかし、「健康な人に積極的にアプローチしていく」医者もいる。それが産業医という存在でした。

※ 私個人の主観。また産業医は好戦的、ということではなく、会社の健康を見守る穏やかな医者で、能動的な治療を行うという意味です。

…と感じた産業医講習会のポイント2つを並べていきます。

1,健康のアプローチは「個人」ではなく「集団」

アプリ開発をしていると、今や常識となる思考が脳裏を巡ります。

「これからは個別最適化の時代だ!」

間違いないです。

しかし、例外がある。それが「健康」という分野でした。

例えば「健康日本21」という言葉をご存知でしょうか。健康になろう、と厚生労働省が主導で進めている政策です。

2013~2022年度の10年間にかけて、「健康日本21 第2次」というものが行われ、「食生活」「運動」「禁煙」を中心に改善が試みられました。

果たして、その結果はどうだったのでしょうか。

「目標値に達した」数が15.1%。なんということでしょう。

ましてや「悪化している」という分野まであるので驚きです。

このような「え?」となる部分には大きなビジネスチャンスがある。

では、具体的にはどのような分野が悪化したのでしょうか。

【改善】
健康寿命、がん・循環器疾患の年齢調整死亡率

【悪化】
上記の前提となる生活習慣(高血圧、脂質、喫煙、飲酒、食塩摂取量)

そう、このように明らかな傾向が認められたのです。

健康日本21の委員長であり、この話の演者であった辻先生もこう苦笑しながらお話されていました。

「第2次はうまく行った部分も多いけど、思うようにもいかなかった」と。

しかし、事態はここから大きく動きます。

「ではなぜ上手くいかなかったのか?」

そこで出てきたものが「収入と健康は相関する」というデータでした。もちろんそれらが直接関係しているかは不明ですが、何かしらの関係がありそうなのは事実です。

資料3 健康日本21(第二次)最終評価報告書(案)

その結果、世帯収入が少ない世帯の子どもは、それ以外の 世帯の子どもに比べて、朝食欠食者が多く、野菜の摂取頻度が低く、魚や肉の加工品、インスタン ト麺の摂取頻度が高いことが示され、日本において、世帯収入と子どもの食生活は関連することが 明らかとなった。

資料3 健康日本21(第二次)最終評価報告書(案)
厚生労働省の公式サイト。様々な意見やデータが掲載されています

他にも

  • 知識はあっても(時間的または経済的な理由で)行動に移せない

  • 健康意識に興味がない

  • 一方で、社会環境が変われば個人の行動や健康状態も変わってきた(喫煙や地方による歩数の違いなど)

などの背景があり、「健康問題を改善するには個人より社会環境にアプローチしたほうがいいのでは」ということで定められたのが、第3次健康日本21なのです。

私は、基本的に政策を全面的に押し出す方ではありません。

健康日本21についても、これらの政策により様々な施策が生まれ社会が変わっているのを承知の上で、それでも「抽象的な概念より、レジ袋の有料化のような(陳腐な例えですいません)具体的な政策のほうが有効なのではないか、或いは声を上げたらそれが形になる体制になってほしい」と感じてしまうタイプです。

ですが、同時に「個別化こそ時代だ!」と思い切っていたばかりに、決してすべてがそうではない、ということを感じ、衝撃を受けたのも事実でした。

もちろん、OuraRingの睡眠や健康管理アプリ、栄養を考慮したレシピのリコメンド機能など、多くの分野は今後一層個別最適化が進み、その真価を発揮していくでしょう。私も今後ともその方向にベットします。

それとともに、決してそればかりではない、そういうことも頭の片隅においておこうかなと思うようになった時間でした。

そうなんです、例えヘビースモーカーだろうと太っていようとそれはあなた個人の問題ではなく環境のせいと言っても過言ではありません。嘘です。過言です。

そしてそこにアプローチできる存在、それが「産業医」なのです。

では具体的には普通の医者と何が違うのか。次章で簡単に触れていきます。

2,産業医は「健康な人」も相手取る

産業医は、医師の中でもその資格を持った人が「産業医」と呼ばれます。病院ではなく会社にいるお医者さん、というイメージです。

ですがこの産業医、健診で引っかかろうと引っかからなかろうと攻められる……というと語弊を生んでしまうかもしれませんが。

例えば皆さん、病院にいる医者が、健康で通勤しているのに自分の席までお仕掛けてきたらどう思うでしょうか。「さすがにそんな時間はない」と感じる方も少なくないのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。

でも、会社専属の医者がいて「仕事のパフォーマンスを上げるために睡眠などを診てあげますね」と言われたらどうでしょうか。

私はむしろ「医者がわざわざ病気でもない一兵卒の私を診てくれるなんて」と惚れてしまうかもしれません(なりません)。

そう、これこそ同じ医者でありながら「産業医」の強みなのです。

公平になるよう添えておくと、事業主にとっては「安全な労働基準を満たしていない」などと言われるので必ずしも同様の印象を抱くわけでもないようです。

同時に、例えば夜勤シフトの人が「規則正しい生活を!」なんて言われたらひとたまりもありません。

医者だから教える側、ではない。むしろ教えてもらいながら、こちらもまた医学的な最適解を共有できるよう努める存在になれればと思っています。

これまで私自身も開発をしてきて、個人開発は個人最適化のアプリが向いていると感じます。一方で「起業して大きな事業を成功させよう」という観点に立つと、この産業医というのはさきほどの社会環境への解決手段(ポピュレーションアプローチと言います)と個人の架け橋になるような存在でもあるのだなと感じた2日間でした。

案外、このようなところにも新たな火種のヒントがあるのかも知れません。

おわりに

というわけでまずは2日間の講習会が終わりました。あと4日もあると考えると気が遠くなりますが、やはり新たな分野を覗いてみると発見がありますね。

AIというトレンドにのればそれだけで追い風が吹くように、働き方改革が叫ばれる今、生活習慣やメンタルヘルスに加えた新たな分野の萌芽が生まれつつあるのかもしれません。

それとも、AIとそれらを上手いことかけ合わせれば面白いことが起きるのでしょうか。今のところ全然思い浮かびませんが。

いずれにせよ、その関連で悩んだときには今回のことも少し思い出してみようと思います。

今回も最後までご覧いただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?