月曜、北砂
飲食店を営んで生計を立ててきた父。わたしが子どものころから、美味しい飲食店を見つけることには、途轍もない才を発揮していた。
大通りを外れたところにある、のれんにも気づかず通りすぎてしまうような、小さなトンカツ店。
区内の団地の敷地内に隠れる、誰も期待しなさそうな店構えの定食店。
隣の隣の町にある、メニューに遊び心のあるハンバーグ店ーー「どうしたら、ここに辿り着くのか」と思わずにはいられない店に、よく連れて行ってもらった。わたしの舌は、小学生にしては肥えていたはずだ。
スマホで「食べログ」の星の数を数えればいいだけのいまになって、父はどうやって名店を見つけだしていたのだろうと、気になる。20年以上も前のことだ。
あのころ父は、自分の焼肉店の営業に必要な買い物に、幼いわたしを付き合わせたかった。そのための常套句は「チュニ、サーティワン食べに行く?」。
何軒も青果店や精肉店をまわり、白菜とか肉のかたまりが、どんどん車に積み込まれていく。わたしは後部座席に、山盛りの野菜たちと並んで座る。
その最後、門前仲町のサーティワン。
イチゴ味のアイスにいつも、カラフルなチョコのトッピング。グルメの父がえらぶ、わたしへのイチオシだ。当時のわたしのお気に入りのおやつは、イチゴ味のアポロチョコだったのだから、十分理にかなっている。
カップに入ったまん丸いアイスを少しずつすくうための、小さいスプーン。そのショッキングピンクが、すきだった。最後は捨ててしまうのだけど。
はじめて吉野家の牛丼を食べたのは、眠くてたまらない深夜。
父と母が焼肉店の営業を終えたタイミングで、たまたまわたしが目を覚まして、2人について行った。油断したら倒れて眠りに落ちてしまいそうな身体をなんとか起こして、カウンター席に座る。煌々と明るい照明の光が、目に突き刺さった。
牛丼の味は、覚えていない。いま吉野家に行けば、きっとそのときとほとんど同じ味を知れるだろう。
家を出る前、ぐうすか眠る弟の長いまつ毛をちょっとだけさわったのだけど、起きなかった。3人だけでごはんを食べに行くの、ごめんね。ふわふわのほっぺの寝坊助の隣にポケモンの人形を寝かせてから、靴をはいた。
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