喀痰グラム染色での貪食像があるからと言って原因菌とは限らない!
喀痰グラム染色は肺感染症の診断にかかせない重要な検査です。
一般的に貪食像があると原因菌であると言われますが、実はエビデンスが一切ありません。
そう、調べたんですが、なかったんです!
これは調べるしかないと当時の上司と共に調査しました。
163例の喀痰検査を行った症例を対象に、前向きに貪食像を調べました。
163例のうち、93例が呼吸器感染症と診断し、70例が慢性気道疾患などで喀痰を採取しましたが感染症を起こしていない症例でした。
貪食像は100個の白血球を観察し、貪食の有無と貪食率(=貪食している白血球/100)を測定しました。
結果
感染群は46例で貪食を認め、非感染群(n=25)と有意差はありませんでした(p=0.11)。Geckler4or5群に絞っても有意差はありませんでした(感染群n=31 [59.6%] vs. n=18 [51.4%], p=0.51)。
特に肺炎球菌は感染群でも貪食が少なく、モラクセラやインフルエンザ桿菌で非感染群でも貪食が見られました。
貪食率を肺炎球菌と非肺炎球菌(インフルエンザ桿菌、モラクセラ、黄色ブドウ球菌)で比較したところ、感染群で肺炎球菌よりも非肺炎球菌で貪食率が高く(肺炎球菌 median 3% [IQR 2-5] vs. 非肺炎球菌 median 22.5% [IQR 17-35.5], p=0.005)、非肺炎球菌は非感染群よりも感染群で有意に高かったです(感染群 median 22.5% [IQR 17-35.5] vs. 非感染群 median 6.0% [IQR 3-13], p=0.011)。肺炎球菌では非感染群で貪食像を認めた症例は認めませんでした。
さらに貪食率の呼吸器感染診断に対するROC曲線を用いてカットオフ値を検索しました。
全ての菌に対してはAUC 0.579、貪食率3%以上で感度50%、特異度65.7%と大きく有用なデータではありませんでした。
一方で非肺炎球菌ではAUC 0.902、貪食率18%以上で感度75%、特異度85.7%でした。
以上から菌毎に貪食のしやすさが異なりました。
肺炎球菌であれば貪食像を見たら感染症の可能性が高いと考えます。一方でインフルエンザ桿菌、モラクセラ、黄色ブドウ球菌については貪食像があっても感染とは限らず、貪食率が診断に有用になると考えます。
ただ症例数が少なく、菌毎の比較が出ませんでした。