ある日、サイゴンで。 🇻🇳1 竹笛
「笛がいい」
と、急に思いついた次の日、サイゴンの楽器屋通りに出かけた。
ローカル色の濃いNguyen Thien Thuat通り。
通りの両側には、ギターやウクレレを吊るした楽器店がたしかに何軒か並んでいた。
各店の入口では、店の人が、楽器を手に作業したり、接客したり、何をするともなく座っていたり。
シャッターが降りたままの店が多いのはコロナの影響で閉業した店があるのかもしれない。
目当ての店があるわけでもないので、とりあえず手前の楽器店から順番に覗いていく。
だいたいの店はアコースティックギターや鮮やかな色のウクレレがメインのようだった。店頭のショーケースには、ピックや、弦のような小物類。店の奥にはベトナムの伝統的な琴や弦楽器が見える。
ほかにも、エレキギター、バイオリン、カホン、アンプなどが吊り下げられたり、積み重ねられたりしている。
わたしが探すのはSao Trucというらしい竹製の横笛。
日本では篠笛というのが近いらしい。
らしい。らしい。
Googleさんに聞いたばっかりの情報なもので。
サイゴン生活も、もうすぐ丸7年。
ぶっちゃけ、日常生活には飽きがくるわけで。
前々から、何か新しいことを始めてみようかなぁと考えていた。できれば芸術的なことがいい。
楽器なんてどうだろうかと。
せっかくだからベトナムっぽさのある楽器で、手軽なものがあるか調べていたときに、最近見たアニメに笛が出てきたなぁと思いだして、笛にしようと決めた。
しかし、いくつかの店を覗いても、笛はあまり置いていないようで、あっても、埃と排気ガスをかぶりにかぶったようなのが数本飾ってあるか、ドラムのスティックといっしょにバケツに指してある程度だった。
そんな中で、いくらか笛の種類が多そうな店があったので、物色してみることにした。
店の入口にある段差におじいさんが座っていて、横笛が見たいとジェスチャーすると何やらいろいろ説明してくれた。残念だけど、お年寄りの話すベトナム語は、さっぱりわからん。説明が聞けたとて、そもそもよく知らない笛のことなんて、結局よくわからないだろうけど。
ビニール袋に無造作に突っ込まれた笛の束から、見た目が綺麗だと思い、笛全体に笹の模様が入ったものを選んだ。これなら、だいぶとベトナムっぽいし、最悪、部屋の飾りにでもできるだろうから。
これにすると言ったら、明らかに寸の足りないビニールの手提げに入れてくれた。笛の半分は袋から飛び出してたから、袋の持ち手を持つと笛は落ちる。わたしは竹笛を握りしめたまま家に帰った。
さっそく、YouTubeでも見ながら、練習するとしよう。