何でもない。ライオンとブタと金魚
友人が飼っていた金魚は、体長20センチくらいあった。40センチほどの水槽で狭苦しそうにたゆたうその姿を見てから、お祭りの金魚は持って帰っていない。私の家には、30センチにも満たない水槽しかないから。もしもあんなに大きくなってしまったら、水槽を突き破ってリビングの床をびしょびしょに濡らしてしまう。本気でそう思っていた。
それまで持って帰った金魚は、せいぜい3センチほどの大きさにしかならなかったのに。そして今思えばあの魚はきっと、金魚ではなく鯉とか鮒とかだったと思う。
中学の頃、何かペットを飼おうと家族会議が開催された。私はミニブタを推して、姉がウサギを推した。ミニブタは大きくならないように改良されているとテレビで言っているのを見たからだ。かつて子ブタが主役の映画が大好きだった私は、子ブタのままずっと家にいてくれたらどれほど可愛いだろうかと、胸を躍らせた。
しかし、家庭内権力の強い姉の意見に負け、ウサギを飼うことになった。ウサギもウサギでもちろん可愛かったのだけれど、ずっと「私が長女だったらミニブタを迎えていたかもしれないのに」という気持ちが消えずにいた。
けれどもしばらくして、あまり利用していなかった駅までの道すがら、大きなブタが檻に入って昼寝をしているのを見つけた。決してミニブタとは言い難いサイズ感のその子の存在を、姉も母もずっと知っていたようだ。だから、あの時ウサギが選ばれたらしい。
「なんだって大きくならない保証はないんだからね」
あとになって母に言われた。
私は何年も前に見た友人の金魚のことを思い出していた。
大人になった今、急に10年以上前のブタのことや金魚のことを思い出したのは、いま目の前にライオンがいるからだ。私は知人に連れられ、動物園にやってきた。この街の動物園は一度も言ったことがなかったからそれだけで私は楽しみだったが、動物マニアの知人の目的は「大きくならなかったライオン」だそうだ。
ライオンは通常オスは大人になればタテガミが生え、そしてオスメス問わず体も大きくなるのだけれど、この動物園に生まれた子ライオンは子ライオンの大きさのまま、大人になるに十分な年月を生きているそうだ。
見せ物のように扱われるのはどうかと思うけれど、いま目の前にいるライオンは純粋に可愛くて、これは人気が出るのは納得だった。どこかのパンダが生きているだけで人気が出るのと同じだ。
なんだって大きくならないという保証はない。なんだって、大きくなれるわけでもないのか。
私はライオンを見ながら、金魚とブタと母のことを思い出していた。