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22 人を見る目、人を嗅ぐ鼻

私は「人を見る目がある」と自負しています。周りからも彼氏や彼女ができると「一度会ってくれない?」と言われることがあります。

例えば、芸能人でスキャンダルを起こす人は、初見からなんとなく嫌な感じがすることが多いです。どんなに好感度が高くても、数年後に「やっぱりちゅんが正しかったね〜」と言われることがあります。

最近、周囲に驚かれたのは某スポーツ選手の通訳さんでしょうか。私はスポーツに詳しくなく、その方を知ったのは海外で活躍されてからでした。テレビで初めて見た時から、一緒にいるのが不思議に思えて、チグハグな印象を受けました。周囲からは「世界的に活躍する選手の通訳をしているのに、何を疑うの?」といった反応でしたが、後にスキャンダルが発覚し、私の“見る目”の信憑性が高まったようです。

そんなわけで、直感的に「なんだか嫌だな」と思う人は避けるようにしています。そしてもう一つ、私は「人を嗅ぐ鼻」も持っているのです。実はこちらの話は、あまり人にしていません。

この能力に気づいたのは、新卒で入社した金融関係の会社でした。私は窓口業務を担当し、各種ローンや資産運用を扱っていました。

ある日、来店されたお客さまが、とても独特な匂いを発していました。ツーンと鼻につく嫌な匂いで、言葉ではうまく表せません。来店理由は滞納していた支払いの返済で、金銭的に困っている様子でした。最初は、お風呂に入れないことによる匂いかと思いました。

そんなことも忘れた頃、また同じツーンとした匂いを感じました。「この匂い、どこかで嗅いだことがある」と思いながら出入り口を見ると、ご年配の女性が入ってきました。身なりは小綺麗で、いかにも小金持ちのような雰囲気。特に共通点はないように見えましたが、その方はカードローンの新規作成を希望されていました。

それからも、年齢や性別を問わず、同じ匂いを纏っているお客さまが何人もいることに気づきました。新卒で覚えることが多かった私は、当初それを深く考えずに過ごしていましたが、やがて共通点に気づきました。

それは、“借金”でした。

ここでいう”借金”とは、住宅ローンやカーローンのような計画的なものではありません。用途が不明なローンを抱えている、あるいは計画的なものであるなしにかかわらず滞納を繰り返している状態のことを指します。

ただ、不思議なことに匂いと借金額には関係がないようでした。取引履歴を見られる立場だったので確認できましたが、多額の借金があっても匂わない人がいる一方、少額でも匂う人もいました。最初は「お金がなくて長くお風呂に入れないのでは?」と思いましたが、身なりが普通の方もいたので、もしかすると住環境に問題があるのかもしれないと考え始めました。臭いというわけではないのですが、とにかく嫌な匂いなのです。

そんなある日、友人から「話がある」と連絡がありました。仕事終わりに車で迎えに来てもらい、一緒にファミレスへ向かいました。

驚いたことに、綺麗好きな友人から、あのツーンとした匂いがしたのです。私は嫌な予感がしました。職場での経験から「お金の相談だろう」と直感的に思いました。

ファミレスに着き、注文が終わるとすぐに「作ったカードローンを使おうと思う」と言われました。私が就職した時、友人はノルマ協力のためにカードローンを作ってくれたのです。

私は「作らせたのは私だけど、それはおすすめできない。何にお金が必要なの?少しなら貸そうか?」と提案しました。

しかし、友人は理由を言わず、また私に借りることも拒否しました。「とにかくカードローンの満額が必要で、今月中に返済する目処は立っている」とのことでした。

当時の記憶は曖昧ですが、カードローンは最初10〜30万円ほどしか借りられません。それくらいの額なら私から借りることもできるのに、それを拒否する理由が分かりませんでした。ただ、万が一私が取引履歴を見たら心配するかもしれないから、先に伝えたかったのだそうです。

その言葉に一旦は納得しました。人には言えないお金の使い道があるのかもしれません。翌日、取引履歴を確認すると、確かに満額借りていました。そして、月末にはしっかりと返済も完了しており、私はホッとしました。

しかし、しばらく経ってふと友人の取引履歴を見たところ、カードローンの利用額は増えていました。それどころか、増額までしていたのです。

この時、私はある仮説を立てました。

おそらく、「お金がない」「返済が苦しい」「借金をしてしまった」と強く悩み、危機感を覚えている人から、あの匂いが発生するのではないか——。

その後、友人から「実は長らく借りていたけど、無事完済した」と報告がありました。私はすでに退職していたため、取引履歴を確認することはできませんでしたが、友人からあの匂いは消えていました。きっと、本当に返し終えたのでしょう。

ただ、今でも道ですれ違う人からあの匂いを感じると、私はなんだか心が痛くなるのです。

ちなみに、私が一番驚いたのは初めて競馬場へ行った時です。借金の有無は分かりませんが、私の経験からすると、あの場にいた多くの人がお金に悩んでいることになります。それほどまでに、あの匂いが充満していました。

ただ、その中で最も強い匂いを放っていたのは、野次を飛ばすおじいさんでも、楽しそうにしている若者でもなく、入口で交通整備をしていた方でした。

こうして私は、新卒の会社で“とんでもない能力”を身につけてしまったのでした。みなさま、くれぐれもご利用は計画的に。

椿 ちゅん

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