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#5 君たちはどう生きるか:時代を超えても変わらない人間の普遍性とは?

大学時代のゼミの恩師(開発経済学、国際経済学)が勧めてくれた本。

大学を卒業し、恩師が戴冠されてからも、「OBOGゼミ」というものが2ヶ月に一回開かれており、昼の部は200−300ページくらいの洋書、夜の部はお酒を飲みながら日本語の新書について"語り合う"。(実際はそんな真面目に語ってないが...)この本は、どうやら、私が参加しなかった前回のゼミで先生が紹介したものらしく、メールで回ってきた。

どんな本か?

『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎 著)は1937年7月、つまり、第二次世界大戦前に出た本だ。物語のテーマは10個。例えば、「物の見方について」「偉大な人間とはどんな人か?」などだ。そうしたテーマについて、主人公のコペルくんと叔父さんとの対話をし、コペルくんは、人生の様々な疑問やモヤモヤと向き合い、自分自身でその答えを考えていく。叔父さんは、「おじさんのノート」を書き留めていて、そこにはコペルくんの経験や疑問について、非常に本質的な問いをコペルくんに投げかけている。

この問いは、まだ中学生のコペルくんだけでなく、大人になった我々にも響く問いだ。

また登場人物の中で興味深いのが、「かつ子さん」だ。コペル君の友人のお姉さんである「かつ子さん」。彼女は、女子高生なのだが、めちゃくちゃ知的で、ワグラムの戦いについて語り出し、ナポレオンがどれだけ偉大かを語り出す。かと思えば、スポーツも万能で、走り幅跳びと高跳びのレコードホルダーという側面ももつ。戦前の時代に、この女性を描き出すというのは、筆者としては、どんな意味があったのか?そこが読んでいて大変興味深い。また、そんな「かつ子」さんについて、コペル君たちは、「女のくせに」という感情はなく、むしろ尊敬の念を抱いている。筆者は、女性にも学問やスポーツの部分は必要だということ、女性リーダーもこれから必要になってくるというのを暗にほのめかしていたのか?と勝手に想像してみたりする。

この本を読んでみて感じたのは、時代を超えても変わらない、人間の美しさがある。「美しい生き方」というのは、時代を超えても変わらない普遍的な物なのだと。「美しい生き方」というのは、やはり、生き方の倫理観そのものになるが、時にその倫理観というのは、メディアやプロパガンダによって、歪められたりする。人間本来が持つ、美しい生き方。

この本が出た1937年というのは、1931年に満州事変が勃発し、日本の軍部がアジア大陸にどんどん侵攻をし、日本の軍国主義が日毎にその勢力を強めていた時期で、ヨーロッパでは、ムッソリーニやヒトラーなどの独裁者が政権を取っていた時代。この本は、ムッソリーニやヒトラーが英雄として賛美される中、これからの未来を担う少年少女たちこそが希望であり、偏狭な国粋主義反動的な思想を超えた、自由で豊かな文化のあることを伝え、人類の進歩についての新年を養うために書かれた。太平洋戦争中は、この本も刊行できなくなったらしい。

この本が刊行されてから83年がたった現在。世界ではまだ戦争が起き、アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアなど、世界中で自国主義的な動きになっている。

そんな中、この本は、人間として生きる上で、大切なのは何なのかを立ち止まって考えさせてくれる。また、子供が思春期に直面することについてもおじさんがその問題を解きほぐすきっかけを与えてくれる。

何かあった時に、また広げて読みたい本である。



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