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最近の曲がヒットしない原因は「歌詞の文字数!?」往年のポップスと比較してみると…

※2018年3月6日に「citrus」に掲載した記事の再掲です

2017年は大ヒット曲が生まれなかった。

子供からお年寄りまで知ってるような国民的ヒット曲は1990年代後半から急速に減少し、2000年代以降は1年に1曲あるかないかくらいの頻度になってしまっている。

今ヒットチャート1位の曲を誰も知らない。

おかしな時代だ。

この現象について音楽業界人たちは

「昔にくらべ嗜好が細分化しているから」

と言うことが多いが、僕はレゲエやヒップホップ、エレクトロ、ビジュアル系などのコアな音楽ジャンルがポップスのパイを奪うほど多くの人に支持されているとは思えない。

昨年末にオリコンが発表した『好きなアーティストランキング2017』に目を通すと、トップ10は上から順にMr.Children、宇多田ヒカル、嵐、B’Z、いきものがかり、buck
number、ゆず、スピッツ、星野源、SMAPと言った具合。

それぞれ音楽的背景は違うがこの程度の差異は昔からあったし、基本的に歌ものポップスであることに違いない。

現代も大半の人はごく一般的なポップスを嗜好しているということだ。

なのに大ヒット曲が生まれない理由……それは単に楽曲に魅力が無いからではないだろうか。

僕は現代のポップスにある違和感を抱いている。

それは歌詞の文字数。

現代のポップスは歌詞の文字数が多すぎて何べんか聴いたくらいでは内容を把握することが出来ない……歌詞がダメなのだ。

かつてヒット曲はお年寄りから子供までみんなが口ずさめるものだった。
1970年代から1980年代にかけての主なヒット曲と歌詞文字数をいくつか挙げてみよう。

『瀬戸の花嫁』(小柳ルミ子 1972年)191字
『神田川』(かぐや姫 1973年)266字
『ファンキー・モンキー・ベイビー』(キャロル 1973年)247字
『勝手にしやがれ』(沢田研二 1977年)350字
『UFO』(ピンク・レディー 1978年)344字

『ルビーの指環』(寺尾聡 1980年)326字
『ワインレッドの心』(安全地帯 1983年)291字
『Romanticが止まらない』(C-C-B 1985年)300字
『セーラー服を脱がさないで』(おニャン子クラブ 1985年)320字
『パラダイス銀河』(光GENJI 1988年)368字

ソロシンガーからシンガーソングライター、ロックバンド、アイドルまで幅広く挙げてみたが、歌詞の文字数はいずれも200字から350字程度。
風景が頭の中に浮かんできやすいし、ファンでなくとも一番くらいならソラで歌えるという人が多いのではないだろうか。

文字数が500字前後までなるようなヒット曲もあったがそれらは

『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 1975年)486字
『勝手にシンドバッド』(サザンオールスターズ 1978年)509字
『関白宣言』(さだまさし 1979年)503字

など語りがメインになっていたり明らかにコンセプトの特殊な楽曲だ。

それが近年のヒット曲は

『RPG』(SEKAI NO OWARI 2013年)513字
『私以外私じゃないの』(ゲスの極み乙女。 2015年)488字
『トリセツ』(西野カナ 2015年)は600字
『EXCITE』(三浦大知 2017年)793字
『インフルエンサー』(乃木坂46 2017年)805字

と500字から600字程度の楽曲が多く、800字を超えるものも珍しくないインフレぶり。
曲名やサビのフレーズくらいはわかるかもしれないが、具体的にどんな内容なのかまでは把握していない人がほとんどだと思う。

つまり歌詞が500字にも600字にもなるような曲はたとえヒットしても大衆の心に深く浸透させることが難しいのだ。
140字のTwitterが全盛の時代にダラダラと日記みたいな歌詞を書くのは時代遅れだとも言えるだろう。

この風潮は日本の音楽人が“日本語のポップスがどうあるべきか”という定見を持たずいたずらに洋楽のリズム感を追い続けたことや、職業作詞家がすたれ、その水準にはるかにおよばない低レベルなシンガーソングライターが増えすぎてしまったことが主な要因だと考えている。

このような状況がさらに続けば、やがて音楽ファンから"歌詞を理解する"という習慣が失われてしまいかねない。実際に「歌詞の内容はあまり気にしてない」と言う人に出会い愕然とした経験が1度や2度ならずある。

現代のポップスから、上質な歌詞がまったく失われているわけではない。
たとえば

『風』(コブクロ 2002年)334字
『粉雪』(レミオロメン 2006年)369字
『また君に恋してる』(坂本冬美 2010年)224字
『レット・イット・ゴー~ありのままで~』(松たか子 2014年)318字
『恋』(星野源 2016年)423字

などの楽曲は歌詞の文字数も適切で、歌詞の世界観やメッセージがしっかり伝わってくる。
その証拠に、幅広い年代を巻き込んで近年まれに見る"国民的ヒット曲"になっているではないか。

けして歌詞の文字数のみで楽曲の良し悪しが決まるわけではない。
しかし、現代のポップスはあまりに作り手が道を踏み外し、本来誰も望んでいない形になってしまっていると思わざるを得ない。
この記事がみなさんが音楽を聴く上で、作る上で一つのヒントになればと願うばかりだ。

※本稿を書くにあたり参考にした楽曲一覧

『インフルエンサー』(乃木坂46 2017年)805字
『願いごとの持ち腐れ』(AKB48 2017年)332字
『Doors ~勇気の軌跡~』(嵐 2017年)564字
『EXCITE』(三浦大知 2017年)793字
『恋』(星野源 2016年)423字
『翼はいらない』(AKB48 2016年)361字
『Love Trip』(AKB48 2016年)625字
『よー、そこの若いの』(竹原ピストル 2015年)377字
『私以外私じゃないの』(ゲスの極み乙女。 2015年)488字
『トリセツ』(西野カナ 2015年)600字
『レット・イット・ゴー~ありのままで~』(松たか子 2014年)318字
『ラブラドール・レトリバー』(AKB48 2014年)
『キング オブ 男!』(関ジャニ∞ 2014年)471字
『ええじゃないか』(ジャニーズWEST 2014年)676字
『カモネギックス』(NMB48 2013年)618字
『恋するフォーチュンクッキー』(AKB48 2013年)735字
『RPG』(SEKAI NO OWARI 2013年)513字
『真夏のSounds good!』(AKB48 2012年)490字
『ワイルド アット ハート』(嵐 2012年)640字
『フライングゲット!』(AKB48 2011年)750字
『家族になろうよ』(福山雅治 2011年)397字
『また君に恋してる』(坂本冬美 2010年)224字
『ヘビーローテーション』(AKB48 2010年)558字
『ありがとう』(いきものがかり 2010年)572字

『曇りのち、快晴』(矢野健太 starring Satoshi Ohno 2009年)657字
『キセキ』(GREEN 2008年)664字
『そばにいるね』(青山テルマ feat.Soulja 2008年)1158字
『羞恥心』(羞恥心 2008年)471字
『Flavor Of Life』(宇多田ヒカル 2007年)564字
『千の風になって(秋川雅史 2006年)228字
『純恋歌』(湘南乃風 2006年)913字
『粉雪』(レミオロメン 2006年)369字
『青春アミーゴ』(修二と彰 2005年)409字
『瞳をとじて』(平井堅 2004年)465字
『ロコローション』(ORANGE RANGE 2004年)639字
『マツケンサンバⅡ』(松平健 2003年)303字
『世界に一つだけの花』(SMAP 2003年)395字
『風』(コブクロ 2002年)334字
『H』(浜崎あゆみ 2002年)340字
『Can You Keep A Secret?』(宇多田ヒカル 2001年)781字
『恋のダンスサイト』(モーニング娘。 2000年)396字
『TSUNAMI』(サザンオールスターズ 2000年)453字
『Winter,again』(GLAY 1999年)503字
『Automatic』(宇多田ヒカル 1999年)733字
『LOVEマシーン』(モーニング娘。 1999年)870字
『夜空のムコウ』(SMAP 1998年)424字
『誘惑』(GLAY 1998年)471字
『長い間』(Kiroro 1998年)355字
『硝子の少年』(kinkikids 1997年)417字
『CAN YOU CELEBRATE?』(安室奈美恵 1997年)699字
『プライド』(今井美樹 1997年)290字
『名もなき詩』(Mr.Children 1996年)683字
『DEPARTURES』(globe 1996年)642字
『I'm proud』(華原朋美 1996年)498字
『TOMORROW』(岡本真夜 1995年)414字
『LOVE LOVE LOVE』(Dreams Come True 1995年)231字
『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント』(H Jungle With t 1995年)1165字
『innocent world』(Mr.Children 1994年)530字
『エロティカ・セブン』(サザンオールスターズ 1993年)419字
『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』(B'z 1993年)379字
『それが大事』(大事MANブラザーズバンド 1992年)700字
『君がいるだけで』(米米CLUB 1992年)437字
『悲しみは雪のように』(浜田省吾 1992年)486字
『愛は勝つ』(KAN 1991年)312字
『どんなときも。』(槇原敬之 1991年)456字
『ラブストーリーは突然に』(小田和正 1991年)450字
『SAY YES』(CHAGE&ASKA 1991年)318字
『浪漫飛行』(米米CLUB 1990年)556字
『情熱の薔薇』(THE BLUE HEARTS 1990年)236字
『今すぐKiss Me』(LINDBERG 1990年)468字

『とんぼ』(長渕剛 1989年)454字
『Diamonds』(プリンセス・プリンセス 1989年)533字
『パラダイス銀河』(光GENJI 1988年)368字
『MUGO・ん・・・色っぽい』(工藤静香 1988年)435字
『輝きながら…』(徳永英明 1987年)289字
『マリオネット』(BOØWY 1987年)558字
『My Revolution』(渡辺美里 1986年)542字
『仮面舞踏会』(少年隊 1986年)604字
『セーラー服を脱がさないで』(おニャン子クラブ 1985年)320字
『Romantic が止まらない』(C-C-B 1985年)300字
『飾りじゃないのよ涙は』(中森明菜 1985年)504字
『涙のリクエスト』(チェッカーズ 1984年)353字
『キャッツ・アイ』(杏里 1983年)489字
『悪女』(中島みゆき 1982年)399字
『セーラー服と機関銃』(薬師丸ひろ子 1982年)260字
『ルビーの指環』(寺尾聡 1981年)326字
『異邦人』(久保田早紀 1980年)260字
『贈る言葉』(海援隊 1980年)283字

『関白宣言』(さだまさし 1979年)503字
『ガンダーラ』(ゴダイゴ 1979年 )392字
『君のひとみは10000ボルト』(堀内孝雄 1978年)397字
『勝手にシンドバッド』(サザンオールスターズ 1978年)509字
『UFO』(ピンク・レディー 1978年)344字
『青春時代』(森田公一とトップギャラン 1977年)204字
『渚のシンドバッド』(ピンク・レディー 1977年)306字
『秋桜』(山口百恵 1977年)301字
『勝手にしやがれ』(沢田研二 1977年)350字
『木綿のハンカチーフ』(太田裕美 1976年)346字
『シクラメンのかほり』(布施明 1975年)312字
『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 1975年)486字
『恋のダイヤル6700』(フィンガー5 1974年)462字
『ファンキー・モンキー・ベイビー』(キャロル 1973年)247字
『神田川』(かぐや姫 1973年)266字
『喝采』(ちあきなおみ 1973年)212字
『学生街の喫茶店』(ガロ 1973年)215字
『旅の宿』(よしだたくろう 1972年)177字
『瀬戸の花嫁』(小柳ルミ子 1972年)191字
『花嫁』(はしだのりひことクライマックス 1971年)135字
『また逢う日まで』(尾崎紀世彦 1971年)219字
『ドリフのズンドコ節』(ザ・ドリフターズ)267字

※2022年3月28日追記
公開当時、けっこう反響があっていろんな取材にもつながった記事です。そのおかげ…とは言いませんが、ここ数年は音楽シーンで歌詞のあり方が少し見直されている気がしています。なにかの機会にあらためて突き詰めたいテーマだと思っています。

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