消えた老夫婦
私が歩いていた路地の
少し遠くの前方
一組の老夫婦が
静かな足取りで歩いていた
その老夫婦は
会話をするようではないけれど
水の流れに削られた大岩のような
確かな愛情に包まれていた
80年ここに住んだだろうか
そのときこの路はまだ水路で
家の窓から釣り糸を垂らしただろうか
そのとき老夫婦が
現実のこちら側に剥がれ落ちた
私がそう感じた、他の誰も気づかない一瞬に
老夫婦は消えた
ふと気がつくと
彼らがいたはずの場所を
手を取り合って、跳ねるように
歩いていたのだった
昭和の世界から出てきたような
小さな男の子と女の子が