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「ドライブ・マイ・カー」 地元記者が巡って再発見したロケ地の魅力【前編】広島市中心部

 米アカデミー賞国際長編映画賞に選ばれた「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)。「おくりびと」以来13年ぶりの快挙です。ロケ地の広島は「ドライブ」ブームに沸いています。春休みにロケ地を巡ってみようという人も多いのでは。公表されていない場所も含め、広島のロケ地の魅力を余すところなく紹介します。(馬場洋太)

濱口竜介監督「自分史上最も美しい映像」

 映画は、村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録された短編小説「ドライブ・マイ・カー」が原作。妻を失った喪失感や葛藤に苦しむ舞台演出家の主人公・家福(かふく)が、広島で開催される演劇祭の演出を任され、愛車の赤いサーブで広島入りします。そこで出会った寡黙な専属ドライバーみさきと過ごすなかで、目を背けていたあることに気付いていく、というストーリーです。

映画「ドライブ・マイ・カー」から ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 主人公・家福を西島秀俊、ヒロインのみさきを三浦透子、物語の鍵を握る俳優・高槻を岡田将生が演じます。協力した広島フィルム・コミッション(FC)によると、約3分の2のが広島県内で撮影されました。監督が「自分史上最も美しい映像が撮れた」と話すように、広島の街に降り注ぐ光、瀬戸内の景観が作品の個性を際立たせています。

◆平和大通り~平和記念公園(広島市中区)

 広島県内の場面は、東広島市の山陽道の小谷サービスエリア(SA)から始まります。東京から約800キロ、愛車のサーブで駆けてきた主人公の家福(西島秀俊)はここで一服し、さらに西へ。広島市安佐南区の広島インターチェンジ(IC)を経て、中区の広島国際会議場を目指します。

JR広島駅南側の「駅前大橋」

 道すがら、家福(西島秀俊)はJR広島駅南側の「駅前大橋」を通ります。広島ICから平和記念公園に向かうのに駅前大橋は遠回りですね。街の玄関口に敬意を表したのでしょうか。現在、この橋では路面電車の線路を敷く工事の準備が進んでおり、映画が撮影された2020年当時とは様子が変わっています。

平和大通りの「白神社前」交差点

 家福(西島秀俊)の赤いサーブは、「百メーター道路」の愛称で親しまれる平和大通りを西へ進みます。国道54号と交わる「白神社前」交差点が、映画でもばっちり映っています。

白神社前交差点から中心街の紙屋町方面を見た眺め

 白神社前交差点から中心街の紙屋町方面を見た眺め。赤い車が通りがかったので急いでシャッターを切りました。

平和記念公園内にある広島国際会議場(中央奥)

 長旅の末、家福(西島秀俊)がたどり着くのが平和記念公園内にある広島国際会議場(中央奥)。映画では、ここが広島演劇祭の会場という設定です。

広島国際会議場

 平和記念公園内にある広島国際会議場(中央奥)の地下駐車場につながるスロープ。曲線美が印象的ですね。

映画「ドライブ・マイ・カー」から ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 物語の鍵を握る俳優・高槻(岡田将生)が、車中の家福(西島秀俊)に話し掛ける場面です。広島国際会議場の地下駐車場で撮影されました。

映画「ドライブ・マイ・カー」から ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

こちらは、平和記念公園の木陰で演劇祭の出演者がせりふの練習をするシーン。

映画「ドライブ・マイ・カー」から ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 家福(西島秀俊)がたたずんでいるのは、広島国際会議場の北側です。

右奥に見える建物が広島国際会議場

 おおよそこの辺りで撮影されました。右奥に見える建物が広島国際会議場です。

広島国際会議場

 夜の広島国際会議場。一日の練習を終えて解散するシーンで映ります。

映画「ドライブ・マイ・カー」から ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 役者たちが順にせりふを朗読する場面。広島国際会議場近くのJMSアステールプラザ(広島市中区)で撮影されたそうです。

JMSアステールプラザ

 ここがJMSアステールプラザ。さまざまなコンサートが開かれる広島市民おなじみの場所で、広島交響楽団の練習拠点でもあります。

広島市中心部を貫く相生通り

 広島市中心部を貫く相生通りが、このアングルで映ります。路面電車の原爆ドーム前電停の辺りです。

◆中工場(広島市中区)

 「まだ広島をほとんど見ていない。どこか君の好きなところがあれば」。家福(西島秀俊)の求めに応じ、みさき(三浦透子)が向かったのが、ごみ焼却施設です。一体なぜ、ごみ焼却場に?

広島市環境局中工場

 正式名称は「広島市環境局中工場」。遠目には、普通のごみ処理場のようにも見えます。

広島市環境局中工場

 中に入ってびっくり。美術館のようなアートな空間が広がります。ここはニューヨーク近代美術館(MoMA)も手掛けた世界的建築家、谷口忠生さんが「平和と創造のまち」をテーマにデザインした「作品」なのです。谷口さんは、平和記念公園を設計した丹下健三のお弟子さんに当たる方です。

パッカー車

 真っ白に塗られたパッカー車。現代アートの美術館から飛び出してきたかのようです。見学は年末年始を除く毎日、午前9時から午後4時半まで。入場無料で申し込み不要です。

広島市環境局中工場

 中工場を市街地側から見るとこんな感じです。中央がガラス張りなのには理由があります。原爆ドーム、原爆慰霊碑、原爆資料館を結ぶ「平和の軸線」上に位置するため、これを遮らないように設計したのです。広島復興の象徴のような軸線。このエピソードを広島フィルム・コミッション(FC)の西崎智子さんから聞かされた濱口監督は、妻を亡くした主人公の再生の物語にぴったりの場所と考え、ここで重要なシーンを撮影しました。広島ロケの決め手となった場所でもあるようです。

「平和の軸線」

 これが「平和の軸線」です。中央奥の原爆ドームから、アーチ型の原爆慰霊碑、1階が吹き抜けの原爆資料館噴水「嵐の中の母子像」一直線に並んでいるのが分かりますか。この延長線上に、中工場があるのです。

広島市環境局中工場

 中工場を通り抜けた「平和の軸線」は、ウッドデッキとなって海へと続きます。奥に見える山は、「安芸の小富士」の別名で知られる似島にのしまです。広島湾に浮かぶこの島には、第一次世界大戦中に捕虜収容所がありました。捕虜として連れてこられたドイツの菓子職人カール・ユーハイムがここで他の捕虜のために焼いたのが「日本初のバウムクーヘン」だと伝えられています。

映画「ドライブ・マイ・カー」から ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 みさき(三浦透子)が「わたしはあの車が好きです、とても大切にされているのが分かるから」と家福(西島秀俊)に告白する印象的なシーンです。中工場そばの海辺の公園で撮影されました。左奥にうっすらと見えるのは、世界遺産の厳島神社がある宮島です。

中工場の外

 釣り人や犬の散歩に訪れる人が訪れる穴場的な場所でしたが、ドライブ・マイ・カーのロケ地となったことで一気に知名度が高まりました。JR広島駅や平和記念公園前から「吉島営業所」行きのバス一本で行けるアクセスの良いロケ地なので、いずれ海外からも多くの「ドライブ」ファンが訪れることでしょう。

ロケ地巡りは、後編へ続きます⇩⇩⇩