「鯉党」を沸かせた話題のイラストレーター・りおたさん(31)。夢を叶えるまでの軌跡を聞きました
今春の中国新聞朝刊で「カープ地元開幕応援ラッピング紙面」をデザインし、「鯉党」の心を躍らせた話題のイラストレーターがいます。山口市在住のりおたさん(31)。自身が大のカープファンで、6月17日から開く広島初の個展で「広島愛を分かち合いたい」と言います。似顔絵を描くのが大好きだった少年がイラストレーターとして夢をかなえるまでの軌跡を聞きました。(聞き手・久保友美恵、撮影・山下悟史)
山口生まれの山口育ちですが、10代のころから広島東洋カープとサンフレッチェ広島のファンでした。食べ物もおいしい広島の街が大好きなんです。今回はカープに限らず「広島を元気づけてきたレジェンド」をテーマに、スポーツ選手の似顔絵やイラストの計19点を展示しています。広島とスポーツへの愛情を込めた作品を多くの人に見てもらえたらと思っています。
3月29日付中国新聞の応援ラッピング紙面のイラストを引き延ばしました。僕はこのラッピング紙面を自分のイラストで飾るのが夢だったんです。だから「これは人生が変わるぞ」とめちゃめちゃ燃えて描いた一枚です。このイラストが新聞に掲載されて一気に、多くの人に存在を知ってもらえるようになったんです。文字通り、人生が変わりました。今回の個展も、紙面をきっかけに蔦屋家電の担当者に声を掛けていただき、実現したんです。
広島に関心を持ったきっかけが奥田さんなんです。10代の頃、世の中の全てのことが嫌に感じて友だちと戯れることもなく、学校でもずっと一人で過ごした時期があったんです。 その時、父親の影響で奥田さんの曲を聴いて。常に自然体で周りに流されず、自分の芯を貫く感じがかっこよくて魅了されました。奥田さんが2004年に、当時の広島市民球場で弾き語りライブをやった映像を見て、「民生さんが愛するカープや広島ってなんなんだ」と興味が湧き、カープやサンフレの試合を見てファンになりました。
中学生の時にサッカーの雑誌に載っていた似顔絵マンガを見て「すごい」と感動したのが始まりです。テレビの似顔絵講座などを見てこつを学び、学校の先生の顔を面白く描くと、同級生がゲラゲラ笑ってくれました。その頃からイラストを仕事にするぞと思っていました。
いえ、仕事を得るのは大変でした。作品集を持って東京のいろんな出版社に売り込みに行きましたし、地元の経営者の交流会に顔を出しては「似顔絵を描かせてもらえませんか」と営業もしました。基本は人見知りなんですけど、チャンスがあると感じたときは、勇気を持って飛び込むようにしました。それは今も同じです。
5年ほど前に、プロ野球選手の似顔絵をフェイスブックなどのSNSに投稿し始めました。誰かに頼まれたわけじゃないんですが、腕磨きでコツコツと。そうしてたら、2017年にSNSを見た「ダルビッシュミュージアム」(神戸市)の館長から連絡が来てびっくりしました。「ダルビッシュを描いて個展をやらないか」って。2018年に実現しました。野球の世界とイラストでつながった大きな転機でした。
2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の期間中も、侍ジャパンの選手の似顔絵を描いてSNSに投稿し続けていました。すると、秋吉亮投手(当時ヤクルトスワローズ所属)や牧田和久投手(当時西武ライオンズ所属)から「この似顔絵を使ってもいいですか」とメッセージをもらえたんです。これもSNSで仕事のチャンスが増えた大事な経験でした。
ー前田健太投手とのつながりもSNSですか。
2021年夏、米大リーグのツインズの前田投手がSNSで「チームメートのTシャツを作りたいので協力してくれる人を募集します」と呼び掛けていたんです。すぐに応募しようと決めました。大柄のアストゥディーヨ選手を力士のイメージで。選手の古里ベネズエラとマエケンの古里日本の国旗も盛り込んで。その条件を踏まえて描いたところ、なんと、そのイラストを選んでもらえたんです。
その後、前田投手がそのTシャツを着て、エンゼルスとの試合前に大谷翔平選手と話をしていた時のツーショットが、ツインズの公式ツイッターに上げられました。ファンが「あのイラストはなんだ」と盛り上がり、バズりました。数時間後には、雑なコピー品のTシャツが出回って、思わず笑いました。それがきっかけで、前田投手から依頼を受け、練習用Tシャツを作りました。自分でも信じられないような仕事ができて、うれしく思っています。
山口市に鯉党の焼き鳥店「紅(くれない)の豚」があります。店内には、過去の中国新聞のカープ地元開幕応援ラッピング紙面が飾ってあるんです。店主も常連客も毎年「ことしはどんなデザインかな」と楽しみにしていて。 その店に僕はしょっちゅう行ってるんですが、僕のイラストがラッピング紙面になったこと、あの大舞台を飾ったことを、みんな大喜びしてくれました。店主からは「とんでもねえものやったな」とSNSでメッセージが来ました。これからも山口に根付きながら、国内外で仕事がもらえるようにがんばりたいです。