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「中絶手術はつらすぎた」。経口薬という選択肢を求める女性の声

 やむを得ず人工妊娠中絶を迫られたとき、その方法を選びたいという声が女性たちから上がっています。一つは、より安全な手術。もう一つは、国内で承認申請される見通しの「経口中絶薬」を待ち望む声です。背景には、重くのしかかる心身の負担があります。「中絶する人が悪いんだから我慢しろと言われているようで…」。体験者の訴えは切実です。(栾暁雨)

掻爬(そうは)法は心身への負担が大きい

~広島県の30代女性

 2年前に中絶を経験した広島県の30代女性に会い、話を聞きました。手術はつらかったそうで「あのとき経口薬があったら少しは救われたかもしれない」と感じているそうです。女性は当時をこう振り返ります。

 時間がたって、やっと少し向き合えるようになりました。とにかく中絶手術はつらいものでした。近所のクリニックの男性医師から示された方法は、子宮内の内容物を先の太いピンセットのような器具でかき出す掻爬(そうは)法。聞くだけで怖くて、ひるんでしまって。

 手術台で両脚を開き、金属製のひんやりした器具を入れられる瞬間は、もう、このまま消えてなくなりたかった。屈辱的な気持ちにもなりました。

 腕に刺した点滴から入れる静脈麻酔ですぐに意識を失い、目が覚めると手術は終わっていました。意識がもうろうとする中、何回か嘔吐(おうと)したことを覚えています。体に力が入らず足がもつれる。目まいもひどい。看護師に支えられて手術室を出て、院内で2時間ほど休んで帰宅しました。費用は自由診療で10万円以上かかりました。

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 手術後3日は出血が続いて。下腹部の痛みで起き上がれず、仕事も休みました。一番きつかったのは精神面です。罪悪感と後悔で、一日の半分くらい泣いていました。手術を思い出すだけで涙が出る。社会的なタブーを犯した気がして、家族や友人に相談できなかったのも苦しかったです。

 もともと子どもを持つ気はありませんでした。交際相手との性行為ではコンドームを付けていましたが、避妊に失敗してしまった。ある日、つわりのような症状と全身のだるさを感じて、生理の遅れに気付きました。「まさか…」と冷や汗が出て。病院で妊娠8週目と告げられました。

 「産むことはできない」と考えてはいたのですが、エコー写真を渡されると激しく心が揺れました。白黒でしたが、小さな命がいた。写真を財布に入れて持ち歩き、ちょっとした合間に取り出しては語りかけていました。「産んでほしいよね、どうしよう…」

手術には男性の同意書が必要。なぜ?

 初期の中絶は12週までで、早期に行う方が母体への負担が少ないそうです。2週間ほど食事が喉を通らないくらい悩みました。彼氏とも話し合いを重ねて。でもさまざまな事情があり、最終的には「育てられない」と判断しました。

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 病院には1人で行きました。受付で手術の予約をすると、「相手の方からサインをもらって」と同意書を渡されました。産むのは女性なのに、「男性側の承認がないと手術を受けられない」と言われているようでさらに落ち込みました。

 手術当日まで葛藤は続きました。本当に中絶してしまっていいのだろうか…。命への申し訳なさで涙が止まりませんでした。でも医師の一言は冷たかった。「どうするか早く決めて。不安定な精神状態だと麻酔が効きにくいから

 自分が悪いのは十分すぎるくらい分かっています。でも、一人きりで怖い手術に臨む前のこの言葉に本当に傷つきました。

 結局、交際相手ともぎくしゃくして別れました。今も胸が締め付けられます。エコー写真は手放せず、クロゼットの奥に閉まっています。

16~49歳の女性 10人に1人が中絶の経験

 厚生労働省によると、2019年度の中絶手術は15万6千件以上に上るそうです。1日当たり約430件。日本家族計画協会の16年の調査では、16~49歳の女性の10人に1人が中絶の経験があるという計算になります。妊娠初期の中絶の多くが掻爬法で行われていますが、手術中に強い痛みがあり、体への負担が大きくなります。

広島の女性に聞く 中絶の現実のコピー (1280 x 670 px)


 WHO(世界保健機関)は「掻爬法は時代遅れで、吸引法か薬剤による方法に切り替えるべきだ」とより安全な方法を選ぶよう勧告しています。

 吸引法はチューブ状の器具を子宮に入れて内容物を吸い出す手術で、子宮を傷付けないためにより安全と言われています。また、経口中絶薬が認可されている国は世界で約70カ国に上ります。妊娠を維持させる黄体ホルモンの働きを抑制する「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させる作用がある「ミソプロストール」という2種類の薬剤を使います。

 しかし、吸引法を取り入れていない施設も、まだ多くあります。経口中絶薬については、「安易な中絶や乱用につながりかねない」などの懸念があり、産婦人科医師の中にも慎重な声が根強くあります。

広島の女性に聞く 中絶の現実

 取材に応じてくれた女性は、妊娠が分かり、手術以外の方法もネットで調べたそうです。海外では経口の中絶薬が普及しているのに日本では使えないと知り、がっかりしたといいます。

 ネットでは自分と同じように経口薬を求める人の書き込みも目に付きました。「みんな必要としているのにどうして日本にはないんだろう」。疑問に思うと同時に、こうも思ったそうです。心身に負担が大きい外科手術には「反省してもらうためにも痛い思いをしてもらう」みたいな懲罰的なニュアンスがあるんだろうか―。「早く選択肢が広がってほしい」。女性はそう望んでいます。

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