ドロンジョ様×イカ天・のり天。広島・尾道の小さな食品会社がコラボを実現した舞台裏は?
広島定番のつまみ、イカ天とのり天をプロデュースするのは、人気アニメ「ヤッターマン」の悪役ドロンジョ様。6月10日発売の新商品を手掛けたのは、尾道市のまるか食品だ。従業員約140人の地方の小さな食品会社が、あのドロンジョ様とのコラボを実現できたのは、いったいなぜなのか。「攻めた企画」の舞台裏をのぞいてみた。(神田真臣)
ONとOFFのドロンジョ様でインパクト抜群のコラボ
「ガタガタ言わずに食べておしまいっ!」。ドロンジョの勇ましい掛け声が飛ぶのは「のり天麻辣(マーラー)味」。もう一つの「イカ天瀬戸内れもん味」は、リラックスモードのドロンジョ様がレモン型のクッションに横たわる。なんだか眠そうで、いつもの黒マスクも外したレアな設定。どちらもインパクト抜群だ。
しかも、俳優の池田エライザさん主演でドラマ「DORONJO」が秋に放送されると発表があったばかり。ホットなキャラクターの商品を、どうやってつくりだしたのだろう。
頑張る女性を応援 ドロンジョ様がぴったり
「ヤッターマン」を生んだアニメ制作会社のタツノコプロ(東京)とまるか食品が一致したのは「頑張る女性を応援する商品」を作ること。もともとイカ天ものり天も、若い女性に受け入れられるよう、味や大きさ、パッケージにこだわった商品だった。まるか食品の川原一展社長(53)は「ドロンジョはぴったり合った」と説明する。
のり天のドロンジョは、仕事を全力で頑張る女性をイメージ。設定は、おつまみスナックでの一人飲みでストレスを発散する中間管理職だ。「イカ天瀬戸内れもん味」を気に入り、自分がプロデュースすればもっと売れると「まるか食品儲けまるごと横取り大作戦」を発案。勝手に商品を開発したというストーリーを漫画にして、まるか食品のサイトで紹介している。
イカ天の方は、オフモードでゆったりリラックスするドロンジョが登場する。まるか食品商品部の上西咲さん(25)によると、描いたのは実は、まるか食品のパッケージ担当のデザイナーで「完全描き下ろしのオリジナル」だそう。タツノコプロからは「オフ感を表すのに、マスクをとっちゃいましょう。側に置いてくれれば大丈夫です」など、「そこまでいいの?」と思うような提案をもらったと喜んでいた。
「ヤッターマン」という歴史あるキャラクターだけに、タツノコプロの監修は厳しかったそうだ。衣装の色やパーツの角度まで細かい指示が出された。漫画でも「この展開なら、ドロンジョ様はこう言うせりふを言います」とぴしゃり。妥協を許さず「攻めた」企画は、およそ半年かけて形になった。タツノコプロ・コンテンツビジネス部の松田琢摩部長も「両社で意見を出し合い、最大限のインパクトを出せた」と太鼓判を押す。
コラボ実現の理由はタイミングと人の縁
それにしてもなぜコラボが実現したのだろう。そこには時期と人の巡り合わせがあった。
タツノコプロは、今年10月の60周年に向け、さまざまな相手との多彩なコラボ企画を進めているところだった。同じく、まるか食品も昨年が60周年。来年は累計販売数2千万袋を突破した「イカ天瀬戸内れもん味」が発売10年と節目を控え、さらなる顧客の掘り起こしの方策を考えていた。
60周年という共通点に加え、接点のなかった両社を結び付ける人の縁があった。まるか食品の川原社長とタツノコプロの幹部には、たまたま尾道市出身の共通の知人がいた。その人が東京でも有名になっていた「イカ天瀬戸内れもん味」を紹介したのだった。
松田部長は「初めて食べた時、1袋食べきるまで止まらなかった。素直にもっと多くの方々に食べてもらいと思った。キャラクター認知を生かし一翼を担えればと考えた」と振り返る。そう、決め手は「おいしさ」だったのだ。
こうして誕生した両社の60周年記念事業。川原社長は「イカ天瀬戸内れもん味は、まだまだ伸びる。ドロンジョと一緒に瀬戸内の魅力を全国に発信してほしい」と期待する。
世代を超えて愛されるものとは
「ヤッターマン」は1977年放送開始。リメークや俳優の深田恭子さん出演の実写映画などもある。白状すると30代の記者は「ヤッターマン」を昔のアニメを紹介する番組でしか見たことがない。でも、今回の取材の話を職場の50代の先輩にすると、やたら盛り上がった。子ども時代のエピソードを語る先輩の無邪気な表情に、新たな一面を見て和んだ。
どうやらヤッターマンは、世代を超えて楽しめるキャラクターなのかもしれない。スーパーの陳列棚の一角。ドロンジョが「ガタガタ言わずに食べておしまいっ!」と呼びかける。口にした人は何を思い、どんな会話が待っているのだろう。歳月を超えて愛されるってすごい。この商品がどんなふうに羽ばたくのか、わくわくする。