女性アスリートの悩み、広島で聞きました~フォトハラ編
スポーツの世界でも、性差による問題があります。その一つが、女性アスリートが性的な意図で写真を撮影されたり、会員制交流サイト(SNS)で画像を拡散されたりする「フォトハラスメント」。20年以上前からあり、中高生にも広がっていますが、最近はトップアスリートも声を上げています。中国地方ゆかりの女性オリンピアンたちに経験を聞いてみました。(西村萌)
オリンピアンの体験から
■フィールドホッケー女子 コカ・コーラ(広島市)の元選手・湯田葉月さん(32)
広島市を拠点とするフィールドホッケー女子の実業団チーム、コカ・コーラをけん引してきた元選手の湯田葉月さん(32)。2016年のリオデジャネイロ五輪では日本代表「さくらジャパン」として出場しました。第一線で活躍してきた湯田さんも、フォトハラで嫌な思いをしたことがあると言います。
そういう(性的な意図の)写真は撮られていても分からないんですよね。会場に公式カメラマン以外も来ていますが、撮っている映像や画像は見ないので。
ただテレビ番組に出演した時、インターネット上に書かれているのを見たことがあります。「めっちゃ良い太もも」とか「お尻が良い」とかいやらしい目線が入っていて「気持ち悪」って感じました。
「このユニホームはボディーラインが見えるね」って書かれることもあるみたい。ホッケーは上がノースリーブで下はスカートやワンピース型。ただ、動きやすさのためだから、ユニホームが悪いわけじゃないです。
■中国電力女子卓球部の元選手、鎌田(旧姓福岡)春菜さん(37)
中国電力女子卓球部の元選手、鎌田(旧姓福岡)春菜さん(37)は、2008年の北京五輪に出場し、女子団体で4位に入賞しました。15年に引退し、現在は2人の子どもを育てながら中国電力の社員として働いています。現役時代を振り返るとやはり、不快な経験があるそうです。
卓球のユニホームは半袖半パンで、そんなに露出はありません。今は選手の規格に応じたユニホームが用意されますが、私の現役時代はS、Mサイズから選んでいました。ただ体形はそれぞれ違う。試合中ピンポン球を拾いにいく時に胸元が開き、その瞬間にカシャカシャと撮影の音が聞こえる時がありました。嫌な思いをしたことは、何度もあります。
試合会場で撮影者から、バナナやソーセージなどを食べている時の写真を渡されたことも。悪意しかないですよね。さすがにその時は、そうした写真に違和感があることを会場の男性スタッフに伝えましたが、言うこと自体が恥ずかしかったです。
広がるフォトハラ被害
このような被害把握のため、日本オリンピック委員会(JOC)は2020年11月に窓口を設けました。10月15日時点で約2500件の情報が寄せられています。東京五輪では体操女子ドイツ代表がレオタードではなく、足首まで覆うボディースーツで競技し、海外でも深刻な被害の対応に一石を投じました。
また、フォトハラが犯罪として取り扱われるようになってきています。警察庁は2021年5月、テレビ番組の女性アスリートの競技画像をアダルトサイトに無断転載したとして、著作権法違反容疑で男を逮捕しました。そのほか、JOCの情報を基にした刑事事件が相次いでいます。
競技会場での対策は~広島の事例から
新体操の大きな大会は既に、一般の撮影は禁止になっています。数年前から保護者の撮影もNG。学校を通じて保護者に写真を販売するようになりました。
新体操の関係者以外で、演技の横や後ろに立って撮影する人の存在は、以前から問題になっていました。大会役員がスマホを構えている人を見回りし、目を光らせています。保護者もさりげなく横に座るなどして警戒し、目を配ってもらっています。子どもたちを守るために、協力して取り組んでいます。
「盗撮罪の立法化を」上谷さくら弁護士
盗撮に関する法律がないのが一番の問題です。今は駅の盗撮などを都道府県の条例で取り締まっていますが、それでは不十分です。アスリートの尊厳を侵害する行為も網羅し、法制化する必要があります。
また、こういった問題では被害者側の落ち度が指摘されることがあります。特に性被害の場合はそれが顕著です。でも、それはおかしい。被害者がどんな格好をしていたとしても、同意なく嫌がることをしてもいい理由にはならないんです。
インターネット上では、いやらしい発言などを気軽にする人がたくさんいます。そんなSNSの投稿に、簡単に「いいね」を付けてしまう人がいます。ただ、被害者にとっては軽い言葉ではありません。どれだけ重い言葉なのか、その結果、どんな行動規制を強いてしまうのか、もっと知ってほしい。意識の啓発が足りていないと痛感しています。
メディアの責任もあります。スポーツの本質を伝えることよりも、いかに関心を引くかに重きが置かれている傾向があるようです。特に大手マスコミは性被害への感度が低いと感じます。幹部は男性が多く、少ない女性幹部もセクハラを我慢してきた世代。性被害に関して、司法担当で多数を占めるはずの男性記者はほとんど取材に来ません。来るのは他部署の女性記者ばかり。性被害はおかしいんじゃないかという視点が広がりにくいと感じます。
そんな中で、被害を相談されたときに指導者がどう対応するかは、選手のその後の人生を左右する可能性があるほど重要です。スポーツ界はそれをより強く自覚するべきです。これからも指導者研修などで周知してほしいと思います。
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