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「年収200万円、恋愛はぜいたく品」「一人が気楽」…広島の若者たちの本音

 20、30代の若者が恋愛・結婚から遠のいています。6月に内閣府が発表した男女共同参画白書によると「配偶者や恋人がいない」と答えた20代は、男性65・8%、女性51・4%。広島でも経済的な困窮やSNSの浸透が、他人と深く付き合うことのハードルを上げているよう。「結婚はぜいたく品」「恋愛が面倒」。そんな声が聞こえてきます。(栾暁雨)

■ギリギリの生活、癒やしは無料通話アプリ

 「年収200万円では、恋愛しようという気にならない」。広島市の契約社員男性(31)は、恋人いない歴6年。生活に追われ、職場と家を往復するだけの日々に、一生独身を覚悟している。

 配達の仕事は朝から夕方までバイクにまたがり、多い日で千通近くを届ける。真夏は熱中症になり、雨の日は泥をかぶる。それでも月の手取りは15万円ほど。少しでも収入を増やそうと、バイトを二つ掛け持ちしているため、帰宅は夜11時過ぎ。風呂に入る気力もないまま布団に倒れ込む。

 白書によると、働く1人暮らしの男性の3割、女性の5割が年収300万円に届かない。日本の給料はこの30年ほとんど上がらず先進国で最低レベルだ。この男性はつぶやく。「ギリギリの生活をする人にとっては恋愛も結婚もぜいたく品。もう恋の仕方も忘れちゃいました

 人恋しくなったときに使うのが、スマホの通話アプリだ。無料で30分だけ、希望する年代の女性と話せる。取材した日はログインして10秒ほどで、20代の女性とマッチングした。
「どんな仕事してるの? 好きな音楽は?」
 当たり障りのない雑談を交わして、疑似恋人気分を味わう。住んでいる場所は知らないし、実際に会うモチベーションもない。枯れた日々に少し潤いが欲しいだけだという。リアルでデートすれば、男性は女性よりも費用を多く負担したり、段取りしたりを求められる。「お金も時間も精神的にも消耗するのに次につながらない。もういいや、って」。恋愛のコスパの悪さを嘆く。

■失敗ができないSNS社会

 傷つくことを恐れて、恋愛に臆病になっている20代も少なくない。デートも交際の経験もない広島市西区の男子学生(21)は、「気になる子がいても誘う勇気がない。断られるのが怖いから」と打ち明ける。「男から告白すべし」みたいな最初の敷居が高いし、「SNSでさらされる」不安も付きまとうからだ。

 実際、見てきた。高校時代はクラスの女子が同級生から告白されたことをチャットに書き込み、瞬時にうわさが広がった。LINEのやり取りをスクショされた人もいる。大学でも、男友達がデートで駄目出しされて振られた。「みんながSNSでつながっている社会は失敗ができない。だったら最初から土俵に乗らない方がマシ」。そう思うようになった。

 ネットでは美男美女があふれ、インスタグラムには楽しそうな「リア充」ライフが投稿されている。生活費と奨学金返済のため、アルバイトに明け暮れる自分と比べるとむなしい。「お金もなくて『陰キャ』の僕が相手にされるわけないなって」。SNSをチェックするたび、自己肯定感が低くなる

■恋愛は面倒、一人が気楽

 かつての恋愛至上主義的な考え方を「押し付けがましい」と捉える人もいる。広島市の美容師女性(24)は「彼氏がいなくても困らないし、むしろ快適」とドライに話す。安い給料で立ちっぱなしの接客をし、感情労働する日々は疲れる。せめてプライベートでは自分のペースを崩されたくない。心に波風を立てずに過ごしたい。恋愛に依存してメンタルが不安定になる人を見ると「恋愛はリスク要因」とすら思う。

 昨年まで年下の彼氏がいた。県外に就職するからと別れを告げられたが「ふーん、て感じ。流れで付き合って、特に思い入れもないので」と振り返る。本音では、デートの時間を合わせるのもメールの返信をせかされるのも面倒だった。

 一人は気楽だ。恋人がいない友人も多いから焦りもない。恋愛より楽しいことはたくさんある。「推し」のアイドルの応援グッズを部屋に飾り、ライブ動画を見ていると幸せホルモンが分泌される。

 バブル世代の親から若い頃の話を聞くと驚く。「恋人がいない人はおかしい、みたいな。クリスマスには高い食事とホテルが当たり前なんて煩わしい」。親に「孫の顔を見たい」と言われても、恋愛すら面倒なのに、その先の結婚・出産なんて考えられるわけがない。

■上がらぬ給料、増す将来不安            

 若者が恋愛や結婚から離れるのはなぜなのだろう。「婚活」という言葉の生みの親でもある中央大の山田昌弘教授(家族社会学)は、要因の一つに「厳しい経済状況で将来不安が増した」ことを挙げる。

 バブルが崩壊した後、非正規雇用が増えて社会構造が変化しました。低賃金や不安定な雇用では、恋愛・結婚を考える余裕もありません。影響は学生にも及び、親の収入格差が子の恋愛格差にもつながっています。長時間のアルバイトで恋愛する暇すらない大学生が目立つようになりました。
 一方で、お見合いや近所の人の紹介といった「社会的お膳立てシステム」は廃れ、待っているだけでは出会いが訪れない時代になりました。企業でもコスト削減のために社内行事や社員旅行をなくし、職場の交流も乏しくなっています。
 今や恋人は、自らの努力で勝ち取らなくてはならないものになりました。年収とスペックを、マッチングアプリや婚活の場でも求められる。恋人を求める気持ちにさせるにはまず、若い人の収入基盤を安定させ、希望や自信が持てる社会にすることが必要です

 若者の価値観も変化しています。コミュニティーの和を乱すのを嫌い、学校や会社など近場の恋愛を避ける傾向が見られる。別れた後の気まずさや周囲に迷惑を掛けるかも、という心理が働き、具体的な行動に移せないようです。
 かつては恋人がいないことが恥ずかしいという感情がありましたが、今は恋愛・結婚しないことを社会が容認するようになっています。スマホさえあれば孤独を感じにくく、恋愛の優先順位も下がっている。下手に誰かの恋愛事情に口出しをするとハラスメントと言われかねないご時世です。「恋活」「婚活」のアプリのほかには、後押しするものが乏しい時代に突入しています。