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しまね海洋館アクアスで、シロイルカパフォーマンスのMC男性(25)。仕事に生かす「オタク気質」と「忘れ物ゼロ」?!
仕事道具はマイク、相棒はシロイルカ。しまね海洋館アクアス(浜田、江津市)の周藤恭裕さん(25)は、名物のシロイルカパフォーマンスをMCとして盛り上げています。でも普段は相棒との無言の駆け引きに苦闘しているそう。リング状の泡を吹き出す「バブルリング」や軽快なトークなどの華やかな演出は、実は「地味」な毎日が支えているそうです。
(聞き手・土井和樹)
周藤さんってどんな人?
すとう・やすひろ 島根県雲南市生まれ。高校卒業後、名古屋コミュニケーションアート専門学校ドルフィントレーナー専攻を経て、2017年、しまね海洋館アクアスに就職。魚類展示課を経て、2019年からシロイルカなどを担当する海獣展示課海獣係。
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MCをしている時、すごく明るいですね。人前に出るのは、もともと得意なんですか。
実は私、あまり人付き合いが広い方ではないんですよ。なので、ゲーム実況の動画にはまったり、スマホでポケモンGOをしながら通勤したり。あと最近、友人からアロマキャンドルをもらったんです。それを家でたきながら、ユーチューブで雨音や雷の音を聞いて癒やされるのにはまっています。どっちかというと自分、静かな方だし、オタクですよ。
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でもオタク気質って、仕事にも生きるんです。休みの日にクラゲの観察をするために海に行ったり、寝る前に専門書を読んだり、自分が好きなことにのめりこむのが苦になりませんから。実際、仕事のやる気が出ないときには、動物が出てくる映画を見て、モチベーションを保っているんです。
子どもの頃から引っ込み思案だったんですよ。いわゆる「陰キャ」。学校では目立たなかったキャラでした。正直、MCを始めた最初の頃は、ただ文章を読み上げるような感じ。自分でもあまり楽しくなくて、ずっと暗闇にいるような感じでした。あの頃の自分は、滑っていたと思います。
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とてもそんなふうに見えません。うまくいくきっかけ、あったんですか。
あるとき、職場の先輩に「トークが面白い」と褒められたんです。そうしたら、どんどんその気になってしまったんですよね。先輩のトークを聞くときも、どこが面白いポイントなのか、より意識するようになりました。そのうち、だんだんアドリブも言えるようになってきたんですよ。自分を持ち上げてもらうの、大事です。
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どうしてこの仕事を選んだのですか。
地元の島根県と動物が、大好きだからです。必然的に、島根を盛り上げられる上、動物にも関われるアクアスに就職したかった。高校生の時から、そう思い続けてきました。高校卒業後には、ドルフィントレーナーについて学ぶために名古屋市の専門学校に通って、都会生活も楽しみました。むしろ、その経験でわかりました。自分にはやっぱり、自然豊かな島根の方が肌に合うなあと。
でも相手はシロイルカ。思い通りにいかないこともあるのではないですか。
もちろん、ハプニングはつきものです。例えば、途中にふんをしてしまったり、ダイバーの呼び掛けに全く応じずに、気ままに泳ぎ去ってしまったり。ダイバーの足に付いているフィンを、口にくわえて持っていってしまったこともありました。
一番焦ったのはどんなハプニングですか。
肝心のシロイルカが現れなかったことです。ダイバーがいくら呼んでも、観客から見える位置に降りてこなかったんです。シロイルカのパフォーマンスですよ。なのにプールにはダイバー1人だけ。そんな状況が8分間続きました。本気で焦りましたね。
でも、ハプニングを笑いに変えることこそ腕の見せ所なんです。そのときは、ダイバーをイジったりして、マシンガントークでなんとか乗り切りました。ちなみに、ダイバーには自分の声が一切聞こえていないので、一人芝居のようなものです。
アドリブ力、どうしたら培えるのでしょう。
大切なのは平常心でいることだと思っています。そのために、私、忘れ物ゼロを自分に厳しく課しているんですよ。アドリブと忘れ物って一見関係なさそうですが、何かを忘れると、心が乱されてしまいますから。なので、トレーニング用のホイッスル、連絡用のPHS、いろんな施設のマスターキーの3点を、絶対に忘れないようにしています。事務所から仕事場に向かうとき、胸やポケットをポンポンとたたく儀式が日課です。
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シロイルカのほかにも担当しているんですか。
シロイルカの他に、アシカやアザラシも担当しています。彼らを海獣と呼びます。なので私は、海獣展示課海獣係です。
意外に思われるかもしれませんが、私たち、海獣たちをトレーニングするとき、あんまり感情移入をしないんですよ。基本的には生物行動学に基づいて向き合っています。それぞれのシロイルカを「どのような性格か」ではなく「どのようなトレーニングが向くか」という観点で見て、接しています。トレーニング中は無言のことが多いです。
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シロイルカと向き合うのって、苦労の連続なんですよ。最も大変だったのは、水の中のゲートを通って、隣のプールに移動するトレーニングをしたときでした。1年5か月もかかってしまったんですよ。
どうやら、ゲートをくぐるのが怖いみたい。頭や体を少しでも突っ込んでくれたらエサをあげる、の繰り返し。相手の行動を予測し、それに対して先手を打つ知識と経験が求められます。
ちなみに、アクアスに7頭いるシロイルカのうち5頭は、自分と同じ20代中盤です。そういう意味では親しみがわきますけれどね。
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海獣と人間、向き合い方は全く違うんですね。
でも、どちらが相手でも、どう見られているかはとても大事です。お客さまに気持ちよく過ごしてもらうため、身なりや行動にはかなり気を付けます。また動物たちも、私たちの振る舞いに敏感です。トレーニングの時、テキパキと動くことが大切です。自信がなさそうにしていたら、付いてきてくれません。
あらためて、パフォーマンスの楽しみ方を教えてください。
「ショー」ではなく、あえて「パフォーマンス」という呼び方にしています。シロイルカの行動、生態について、来場した皆さんに注目してほしいからです。バブルリングの仕組みにも興味を持っていただけたらうれしいです。
それに一度として同じ内容のパフォーマンスはありません。主役が、きままなシロイルカだからです。一方のMCは、涼しくしゃべっているようで、実は内心ヒヤヒヤ。ダイバーも一緒です。そんな2人と1頭の無言の駆け引きにも目を凝らしていただけると、さらに楽しんでいただけるかもしれません。