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就活セクハラ体験 広島の学生に聞いてみた

 企業の面接官たちから学生への「就活セクハラ」に悩む人が、広島でも少なくありません。全国では4人に1人が被害に遭ったという調査結果もあります。外見を否定されたり、交際相手について聞かれたり。選考に関係ない個人的なことへの質問が多いようです。広島県内の学生に体験を聞いてみました。(栾暁雨)

ショートカットに駄目出し

~広島市安佐南区の女子学生(21)の場合

 最初に話を聞いたのは、広島市安佐南区の女子学生です。メールで就活について質問すると「面接官に短い髪を否定され、嫌な思いをした」と教えてくれました。詳しい内容を知りたくて、市内の喫茶店で待ち合わせました。
 週末の昼すぎ。約束の5分前に着くと、既に店の前に立っている彼女の姿を見つけました。小柄で色白。ショートカットがよく似合います。目が合うと「初めまして」とにっこり。人懐っこい笑顔です。飲み物を注文して席に座ると、就活を振り返り始めました。

 私、昨秋から今年6月まで就活してたんですが、嫌な思いもしました。外見に関することを結構言われて…。小さい頃からショートカットが好きで、就活中も同じ髪形だったんです。でも2月に受けた東京の人材派遣企業のオンライン面接では、「女らしくない」と否定されて。面接官は40代前後の男性。「何でショートカットなの? 就活では長い髪の一つ結びが常識でしょ」と説教モードで言われて戸惑いました。

 勇気を出して「私は短い髪が好きで、個性だと思っています」と答えました。でも、受け入れてもらえません。どんなスーツを着ているか見るために「立ち上がってみて」とも求められました。着ていたのはパンツスーツ。それも不快そうで「何でスカートじゃないんだよ」と内心思っているような表情でした。

就活セクハラ写真3@2x

 何でこんなことを言われなきゃいけないんだろう…。もやもやを抱えながら美容院に行きました。次の面接のために、思い切って2万円かけてロングヘアのエクステを付けたんです。出費は痛いけど、内定が欲しかった。奨学金返済のために早く就職を決めたいという焦りもありました。スーツもパンツからスカートに替えました。

 嫌な思いをさせられた東京の人材派遣企業から内定は出たんですが、やっぱり納得いかなかった。友人に相談すると「それ完全にセクハラじゃん」と指摘されて。「あ、私セクハラされたのか」と被害に気付きました。

 人事部に報告し、内定を辞退したいと伝えました。謝罪のメールが届きましたが、不信感は消えませんでした。髪形やスーツで人を判断するような社員がいる企業ってどうなんだろう。入社した後も苦労するんじゃないかと、考えてしまって。女性が働きやすいと評判の広島市のメーカーに、来春入社することにしました。

「ここの会社以外にも嫌な目に遭ったことはあった?」。聞いてみると、他社でも似たような経験があったといいます。

 昨夏インターンに行った大阪の観光関連企業でも、男性社員から「短い髪はウケがよくないよ」とチクチク言われました。パンツスーツをちらっと見て、「スカートでしょ、普通は」と嫌みたっぷりでした。見渡すと参加していた女子学生は全員スカート。私だけ浮いているようでした。

 就職説明会や会社サイトの採用情報で「個性を尊重します」とPRしている企業は多いんです。なのに選考を通じて、それがうわべだけだと気付かされて。本音では自社のカラーに染まってくれる学生を求めているんだと思います。従順度を測るのが選考の真の目的なんじゃないか―とすら疑ってしまう。「個性」って何なんでしょうね。

手元・就活セクハラメインP


交際相手について根掘り葉掘り

~広島市南区の女子学生(21)の場合

 次のケースは、以前に別の取材で出会った大学生の体験です。雑談の中で就活について話していたのを思い出し、再び連絡を取ってみました。彼女の話はこうです。

そういえば私、中国地方のある会社の面接で「彼氏いるの?」と聞かれてびっくりしたんですよね。入社して取り組んでみたいことや、学生時代のサークル活動などの自己PRをした後でした。

 50代くらいの男性面接官から「ところでさ」と切り出されたのが、彼氏のことです。予期しない問いに「えっ?」と声が出そうになって。「いますけど」と答えると、「へー、そうなの」という反応でした。

 畳みかけるように、「いつから付き合ってるの? 同じ大学? 結婚の予定は? デートと仕事、どっちを優先する? 結婚しても働く?」と質問攻めに遭いました。

 意図が分からず口ごもっていると、本音がぽろり。「あんまり言いたくないんだけど、仕事もろくに覚えないうちに、結婚して妊娠する女子社員が多くてねー」。迷惑そうな口ぶりでした。

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                       (写真はイメージです)

 会社の事情は分かります。私も20代のうちは頑張って仕事をしたいと思っているので、すぐに結婚する予定はありません。ただ、「今の時代にはアウトな発言」と感じました。男子にも「彼女いる?」と聞く面接官はいるようですが、「結婚しても働く?」とは聞かないですよね。

 でもここで反論したら選考に影響すると思い、笑ってごまかしました。面倒なやつと思われそうだし、勇気もなかったんです。

 不快なことを言われても、内定と引き換えに「我慢しなきゃ」と感じている学生は少なくないようです。売り手市場は続いていますが、大企業に入るのは容易ではありません。そうした学生の必死さを利用する社会人もいます。
 その背景になっているのが、近年利用が急速に広がっているマッチングアプリ。就職情報会社の「ディスコ」(東京)が昨年行った調査では、最多となる33・9%の学生が、OB訪問先を探した方法として「アプリ」を利用していました。2年前の倍近くに増えています。

就活アプリでデートに誘われ

~福山市の女子学生(22)の場合

 「彼氏いる?」と聞かれた学生に紹介されたのがこの女子学生です。福山在住なので、電話で話すことに。かわいらしい声で、昨秋からの出来事を振り返りました。

 中国地方から出たことがないので、就職は首都圏か関西の大手企業を目指していました。広島県外の社会人に会う機会はそうそうないので、昨秋アプリに登録したんです。他大学のOBやOGともつながれるのが魅力でした。フォーマットに自分の大学名や志望する会社名を入力し、就活相談に乗ってくれる社会人がいればマッチング成立です。

 しばらくして関西のメーカーに勤める20代後半の男性とつながりました。電話・オンラインでのやりとりか直接会うかを選べるのですが、遠方まで行けないのでズームを使いました。男性から社風や1日のスケジュールについて聞き、ノートにメモしていると突然、「〇〇さんの部屋、どんなのか見たいなー」と言われました。

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                       (写真はイメージです)

 冗談か本気か分からず、「実家だし、散らかっているので」とやんわり断りました。片付いていなかったのは本当です。でも内心ではぞっとしていました。なぜ初対面の男性に部屋を見せなければいけないのか。「あり得ない」と。

 「えーいいじゃん」「いや本当に恥ずかしいので無理です」の押し問答の末、ようやく諦めてくれました。すると今度は、「LINE交換しよう。そしたらいつでも相談に乗れるし」という話になりました。

 正直、気は進まなくて。学歴や仕事の手柄を自慢するなど、終始、ちょっと上から目線の物言いだったのも気になりました。でも向こうのペースに押されてIDを教えました。すぐに「LINEのアイコン写真かわいいじゃん。飲みに行こうよ」「今度、広島に出張行くから会わない?」と私的な誘いが届くようになって。就活相談をする場なのに、「なんか気持ち悪い」と感じました。

 こうした就活アプリを「出会い系サイト」代わりに使う人がいて、セクハラの温床になっているのは知っていました。でもエントリーシートの添削や人事部への口利きをちらつかせてくるんですよ。「若手なのにそんな権限あるのかな」と思ったけど、誘いを断れば選考に影響するかも、空気が読めないやつと思われるかも、と不安でした。

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                       (写真はイメージです)

 距離感に悩んでいた昨年末、リクルートの子会社の男性社員がアプリで知り合った女子学生への性的暴行容疑で逮捕されたニュースを見ました。ショックでしたね。「やっぱり下心を持って近づいてくる男性はいるんだ」とアプリの利用を辞めました。結局、一回も会わずに済んだのでよかったですけど。

 志望業種も絞り直しました。会社の規模や知名度より、ストレスなく働ける企業に入りたいという思いが強くなったんです。春からは風通しがよさそうな東京のベンチャー企業に就職します。でも、大企業に入りたくてリスクを承知でアプリを使う学生は少なくないと思う。コロナ禍では、社員と直接会って話をする機会はますます貴重になってますから。

4人に1人が被害 厚生労働省の調査から

就活セクハラ図版2

 2017~19年度に大学や専門学校を卒業した男女千人を対象に行った厚生労働省の調査では、就活セクハラの被害者は4人に1人。最も多かったのは「性的な冗談やからかい」(40・4%)です。「食事やデートへのしつこい誘い」が続き、「性的な言動を拒否したことで内定取り消しなど不利益な取り扱いをされた」人もいました。
 被害を受けた場面は、インターン(34・1%)が最も多く、企業説明会やセミナー(27・8%)も高い割合でした。被害後の行動については、「何もしなかった」(24・7%)が最多で、大学や家族・友人に相談した人は1、2割にとどまります。就活を断念した人もいました。

就活セクハラ図版3

弁護士から助言

セクハラ問題に詳しい広島弁護士会の寺西環江弁護士はこう指摘します。

就活セクハラは弱い立場にある学生に付け込む悪質な行為です。被害は氷山の一角で「多少のことなら我慢しよう」と、泣き寝入りしている人は少なくないでしょう。コロナ禍で、安定を求める「大企業志向」が高まっていることも背景にあるかもしれません。

 何がセクハラに当たるのかを知らない学生多いのも問題です。学校の授業ではこうしたことは教えてもらえない。被害の認識と正しい対処法を身に付けるよう啓発することが大切です。

 企業側も面接官の研修や、就活専用の相談窓口を設置するといった対策が必要です。被害に遭ったら大学や企業に報告しましょう。言い出しづらいかもしれませんが、学生と企業は対等であることを忘れないでください。

記者から

 学生と企業は対等―。そうあってほしいですが、女子学生たちの話を思い返すともやもやが残ります。「新卒」という「プラチナチケット」で就活できるのは人生でほぼ1度きり。そんな仕組みではどうしたって、採用する企業の力が強くなる気がします。
 内定とセクハラをてんびんに掛け、多くの就活生がストレスを我慢しているとしたら、就活というシステムの在り方は健全とは言えません。若者が希望を持って働けるよう、社会全体で考えていく必要がありそうです。                        (栾暁雨)
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