コロナ後も「マスクを外したくない」という若者が増えています。素顔を見られたくない理由は?
「ノーマスクが怖い」「一生外せない」―。マスク生活が長引き、素顔を見られることに抵抗を感じる若者が、広島でも増えています。民間の全国調査では7割の人が「コロナ後も着用を続けたい」と回答。顔を隠すことで対人不安が和らぐようです。一方で、コミュニケーションが阻害されているとの指摘もあり、「マスクの呪縛」はコロナ禍の負の側面ともいえそうです。(栾暁雨)
「マスク美人」と幻滅されるのが怖い
「マスク姿だと2割増しで美人に見えるから、外して幻滅されたくないんですよね。『残念な顔』とか思われたら嫌じゃないですか」。メーカーで働く広島市西区の会社員女性(24)は、「コロナ後も外すつもりはありません」と断言する。お気に入りは、小顔に見えて肌荒れしにくい不織布のマスク。常に100枚以上ストックしている。
コロナ禍が始まってからの入社で、飲み会もなくランチは自席で黙食。社内でマスクを外す機会がないまま、もうすぐ2年たつ。多くの同僚の顔を知らず、「この人、マスクの下はこんな顔かなー」と勝手に理想を作り上げている。ふとした拍子に見えた上司の素顔が「思ってたのと違う!」と驚くこともある。雰囲気から「ちょっといいな」と思った男性の素顔がタイプじゃなかったなんてことも。
自分も相手に「同じこと思われているんじゃ…」と不安で仕方ない。デートで食事をすると口元を見られるのが恥ずかしくて、リラックスできない。歯並びも気になる。「顔を覆う安心感に慣れ切ってしまって。ノーマスクだと下着なしで外出しているようで落ち着かない。もはや『顔パンツ』ですよ」。この女性に限らない。ネットではマスクを「顔パンツ」と例える人が少なくない。
女性は今、歯列矯正を考えている。同じように矯正やプチ整形を計画している知人もいる。旅行や化粧品にお金を使わなかった分、マスク下の「自分磨き」に投資するそうだ。
顔のコンプレックスを否定された
東区の女子学生(20)は、「外で素顔をさらす勇気がない」と落ち込む。2カ月前、友人と食事をしていたら、近くにいた男性3人組の視線を感じた。パスタを口に運ぼうとマスクを外した瞬間、「あー微妙」「期待外れー」という意地悪な笑い声が聞こえた。一気に食欲がうせて店を出た。
昔から目は大きな二重だけど、鼻と口が離れていることがコンプレックスだった。「見ず知らずの人から顔面偏差値を付けられて傷つくのが怖い。今は目から下を隠すことで自分を保てています」と打ち明ける。
SNSにアップする友人たちとの写真も後ろ姿やマスク越しのものばかり。最近は家族と話す際やオンライン上で発言するときも、気付くと口元を押さえてしまっている。「自分がどんな表情をしているか、人にどう思われているか気になって仕方ない。このまま一生マスクでいいです」
情報インフラ運営のプラネット(東京)が今年3月に行ったマスク着用に関する調査では、回答した4千人のうち7割が条件付きで「コロナ禍が落ち着いても着用する」と答えた。30代以下の世代で目立ち、「着用したくない」(16%)を大きく上回った。感染のリバウンドを防ぐ目的の他に「顔を隠せて楽だから」という声も多い。マスク生活をそれなりに心地よく感じているようだ。
人間関係の煩わしさ避ける「仮面」
広島市の男子学生(21)もその一人。マスク歴は10年近い。小さい頃から内気でコミュニケーションが苦手だった。中学のクラス替えの時期に風邪をひいて以来、年中「だてマスク」状態に。周囲からは「マスクマン」とあだ名されたが、心理的な安心感は大きかったという。
ストレスが多い集団生活の中で仮面代わりに使ってきた。「表情を読み取られる心配もないし、話したくないアピールにもなる。先生に怒られてもダメージが少ないので」。マスクを隔てることで適度な距離感を保ち、人と関わる煩わしさを避けてきた。息苦しいのにも慣れて、不便は感じていない。ひげをそらなくていいし、ニキビも隠せる。「メリットの方が大きい。世の中が僕に追い付いてきた感じです」
「自主的マスク生活」が定着するかも
「たむらメンタルクリニック」(中区)の田村達辞院長は、若者のマスク依存を「対面コミュニケーション不全の一つ」と指摘します。
以前はマスク越しのコミュニケーションは失礼に当たるとされていました。今は公衆衛生上のお墨付きもあり、付けないと違和感があるという人も多い。新型インフルエンザが流行した2009年ごろからは「だてマスク」現象も生まれました。
ところがマスクを常用するようになると、今度は外すことへの不安が募る。コロナ後には、マスクなしでは人前に出られない「自主的マスク生活」が定着するかもしれません。
SNSやLINEの普及も影響しています。文字や写真を介した自己表現は得意だけど、他者との直接的なやりとりに苦手意識を持つ若い世代が増えています。それがコロナ禍で一層強まった。仕事も授業もオンラインになり、「face to face」の機会が激減しました。
ネット上の他人の「映え」写真と自分の容姿を比べて、劣等感を持つ若者も目立ちます。コンプレックスを感じやすい環境だからこそ、マスクで顔を隠して対人不安を和らげたり、自信のなさをカバーしたりするのでしょう。SNS世代の「新たな現代病」になりつつあるのかもしれません。