女子会なんて抜け出して、給湯室でキスがしたい
男社会の周縁で夜な夜な繰り広げられる無法者たちの宴、いわく「女子会」ですらゆきずりの愛は肩身がせまい。
「A子、自分のことは大事にしなよ。」
「…わかってるよ。」
ガラスの天井を見上げながら入社後平行線の報酬を噛み締めて若さを消費するわたしたちの味方は白いサングリア。
社会の中心に居てはおれないわたしたちだからわざわざこんなところに集ったのに、だからこそなのか中心のはしっこにくらいにはしがみついていないと居場所なんてないんだと急き立てられる。
女だてらにバリバリ働いてます。ステレオタイプのジェンダー規範には縛られません!Yes, We are リベラル!!と共に気勢を上げていた戦友は29歳で共働きに理解のある、やさしい家事夫と結婚した。
「社内恋愛ってほんと無理。仕事に性欲持ち込まないでほしいよね。まわりに気つかわせて迷惑でしかないよ。特に不倫。」
「…わかるー。」
いつの頃からか世界の中心は変わったようだけど、やっぱりわたしには中心のはしっこのはしっこにすら居場所がないのだと思い知った。
必要以上の働きなんて、労働で自分を慰める才能を持った人間だけがすることだ。課長の家族計画なんて知ったことではないように、会社の決算とかますます白ける。
その辺の旧体制にしがみつく女たちとはこちとら出来が違うんですよ、と傲慢になれるだけはあっても見掛け倒しの学歴と職歴を手にして、やってることは表計算ソフトいじりと電話対応、誰にだって機械にだってできる仕事なのだから、白けるのはしょうがない。
「A子はC男と結婚しとけばよかったのに。Facebookで見たんだけどさ、C男、会社のお金で留学行くらしいね。いいなー。わたしもまた留学行きたいなー。」
「…そうだねー。」
自分で稼いだ金で買ったデパコスや逆プロポーズして結婚した夫は、死ぬまでの時間のなんの足しになるんだろうね。 たぶんないよりはマシだけど。でも、もっとくだらないもので時間をやり過ごしたい。少しでも意味のありそうなものなんて、きっと後で復讐してくるから。借金の取り立てみたいに。ほら。もっと生産的で持続可能性あることに取り組んだらどう?時間は有限。時は金なり。とかなんとか訳知り顔でさ。時間を金に置き換えるなんて誰が最初に思いついたんだろう。ナンセンスだ。
そんなことよりわたしをたしからしくしてくれるのは、わたしが独りで生きてきた証。待ち合わせのローソンでおにぎりを2つ買って即家、みたいなしょうもない恋だし、あと一歩を踏み止まった中央線だし、しょうがないファックの後、始発を待った新宿駅のプラットホームで、あなたじゃなかったんだね。
振りかざせるのは金と拳ばかりの父に刃物を突きつけて勝利したあの日のカタルシスとむなしさが忘れられない。なのにその先で待ってるのが、また、ただの、人間の、男で、そいつと一生を添い遂げてめでたしめでたしなんて、あまりにつまらなく、手ごたえがない。
給湯室なんていまどきは女もロクに近寄らないし、あそこでもう一度、キスがしたい。わたしはまだまだ大丈夫、ってたまには夢見てみたいから、どこまでもからっぽな、なんの足しにもならない君と、不道徳な一夜を過ごしたかったんだ。